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大聖堂と破壊工作―三人称視点―

 王都観光ツアーにてツアー客に配られたパンフレットがある。

 そのパンフレットには『大聖堂の魅力』といった項目があり、それだけの項目で20ページにも渡って文字が記されている。そこには大聖堂の歴史的な背景から最近のパワースポットブームにおける大聖堂の立ち位置まで興味を引きそうなものからどうでもいいものまで、とりあえず詰め込みました!と言わんばかりの情報が記載されている。

 ジェラルドが泊まれなかった宿には王都観光ツアーの客達が酒場の予約席に集まり、ツアーアテンダントから明日向かう大聖堂の説明を受けていた。


――――――――――



「改めまして、本日は王都観光ツアーをご利用いただきましてありがとうございます。明日皆様に観光して頂くセクト大聖堂とは、今から約500年程前に建築された歴史ある建造物です。

 アルメリア王国建国の時より既に建造されていたこの大盛堂は時代に合わせて様々な増築・改修を経た大変貴重な歴史の遺物であり―――



――――――――――


「うげ!数が多いな!

ちょっと斬撃飛ばして吹っ飛ばすから、そっちに逃げるぞ!」



―ズガァァァァァン



「うわあああああ!柱に傷が!傷がぁ!」


「早くそこのテンプルナイトをどかせ!侵入者を逃がすなぁぁぁぁぁぁ!」



――――――――――


「―――という風習もあり、土着信仰とセクト教の関係は現在もなお続いております。更に、生前より生きる伝説とまで謳われた建築士タテールが設計した貴重なセクト大聖堂が、歴史的に見ても貴重な建造物であることは疑いようがありませんね!と、ここまで説明させて頂きましたが何か質問はございますでしょうか?」


 ツアー恒例の質問コーナーが始まり、何名かが手を上げて質問する。その応答をするために再びツアーアテンダントは口を開いた。


「そうですね。見どころはという質問に答えさせて頂きますと、やはり大聖堂の内部を語らせて頂くのが一番かと思います。

 まず見どころの一つとして、彫像の間と呼ばれる長い廊下があります。その中で特に有名な作品があり、かの彫刻家「ピエール=ド=アルメール」が晩年を掛けて仕上げた作品『聖女マリアーヌと愉快な仲間たち』が安置されており、制作から今もなお続く歴史ある――」


――――――――――


「なんだこの邪魔な像は!

おい、ジェラルド!オレの斧なら、あんな邪魔な像なんてイチコロ粉砕だぜ!オレの活躍を見てやがれぇぇぇぇぇぇ」


―ヒュー………スパスパスパスパ!


「ぎゃああああああ!聖女マリアーヌ様のクビが飛んだぁぁぁぁぁぁ!!!

テンプルナイト共ォー!早くあの罰当たりな狼藉者を捉えろォォーー!」


―――――――――


「――という流れもありますが、現在では国が指定した重要文化財として歴史的にも宗教的にも価値があるものばかりです。近年のパワースポットブームによりイタズラをする者が居るようですが、決してそのような事はなさらないで下さい。

 大聖堂には屈強なテンプルナイトが控えており、昼夜に関わらず大聖堂の秩序と平穏を保っていますので、彼らの神聖な職務の邪魔をしないようにお願い致します。

 彼らは非常に良く訓練された騎士であると同時に、信仰深い教徒でもあります。友好的に接すれば大聖堂やセクト教についての深い知識を授けてくれることでしょう。

 特に彼らは300年前にセクト教が誇る神の一番弟子「聖カルト=キョウ=デンジャラス」の遺骨を聖遺物として獲得して以来より発足された騎士団であり、聖遺物に対しての深い知識は―――」


―――――――――


「君達ばかりに活躍させて申し訳ない!僕も何とか活躍しないとね!それじゃ、スパイの7つ道具である『お手軽手榴弾』とかいう投げてびっくりな爆弾を初めて使ってみることにするよ」


「おい、ちょっと待てェェェェェェェ!

道具はNINJA服だけ試したことがないとか言ってたじゃないか!なんで試したことがないんだよ!」


「いやぁ、7つ道具とか語呂がいいから使ってるだけで実際は7つ以上あるし、使ったことがないとか恥ずかしくて言えなかったんだよ。まぁ、とりあえずピン抜いて………そおい!」


―ドガァァァァン!


「ぎゃああああああ!目に破片が!破片が飛んだぁぁぁぁぁ!ジェラルド助けてェェェェ!」


「このクサレダメスパイがぁぁぁぁぁ!そんなあぶねぇもん投げてんじゃねぇよ!あぶねーじゃねぇかぁぁぁ!」


「うわああああああああああああ!

聖カルト様の聖遺物が祭壇ごと吹き飛んだぁぁぁぁぁぁぁ!

テンプルナイトォォォォォォ!!あの神をも恐れぬ冒涜者のテロ行為を命をかけて阻止しろぉぉぉぉぉぉぉ!」


 セクト教の司教と思しき神官服の男は顔を真っ青にしながら檄を飛ばす。激高したテンプルナイト共を時にはジェラルドが吹き飛ばし、時には本人が投げた覚えがないのにキースの斧が縦横無尽に飛び交って圧倒し、時には自称スパイの奇天烈で癖のありすぎる道具によって蹴散らしていた。

 そしてジェラルドを筆頭にヤケになった一行達は、自称スパイの案内でくだんの枢機卿の部屋までたどり着いた。(もちろんたどり着く頃にはテンプルナイト共は全滅していた)


「ここだ!ここが『マクア枢機卿』の部屋だ!」


 辺りを見回せば、そこには誰も居なかった。

 だが当たり前といえば当たり前だった。何故なら今の時間は深夜だったからだ。

 夜勤のテンプルナイトや、とんでもない賊が侵入した今日という日に運悪く夜勤の当番だった司教を含めなければ他の者は既に家で就寝中の時間である。


「へぇー、一応スパイやってんだな。良く目的の場所まで辿りつけたもんだ」


「いやだって、パンフレットに載ってたし。意外とフレンドリーな宗教で助かったよ☆」


「…………」


 ジェラルドは自称スパイを半眼で睨みつける。そんな様子を知ってか知らずか自称スパイは、人体実験等の証拠が無いか部屋を物色し始める。そんな様子を見てキースはつまらなそうに枢機卿の机に腰掛けた。


「なんだ、もう終わりかよー。折角ここから俺様の華麗な剣捌きの真骨頂を見せてやろうと思ってたのによー」


「あぁ?何が華麗な剣捌きだ。その辺の農夫に剣持たせた方がよっぽど戦力になるっつーの。大体なんだってあんな呪われた斧なんぞ持ってきやがったんだ!オレのクビを何度掠めそうになったか分からんくらいこっちに向かってきたぞ!」


「あぁ?何言ってんだ、ジェラルド?オレはあの馬鹿らしい像をぶっ壊した時しかこの斧投げてねぇんだけど?」


「…………………やっぱり呪われてるじゃねぇか」


 ジェラルドは溜息を吐くと、その辺の本棚に何か怪しい物がないか探ってみることにした。本棚には宗教関係の小難しい解説本やら歴史本があるだけで、別段変わったものはなかった。


「うーん、一見見ただけじゃ何が何だか分からんな。外のテンプルナイト共は寝てるし、暫く探索出来るっちゃあ出来るんだが、どこ探せばいいのやら………」


「案外、何も無かったりしてな。まぁ、ジェラルドは脳筋だからあったとしても探せねぇだろうけどさ」


「………ほう、死にたいようだなキースよ。という訳で早速死んでもらおうか!」


 すぐにプッツン切れることで定評のある沸点の低い男ジェラルドは、持ち前の身体能力を活かしてキースに襲いかかった。

 超人的な身体能力から放たれた拳は顔面を捉え、哀れキースはきりもみ回転しながら向かいの本棚に吹き飛ばされた。


「うぎゃああああああああああぁぁぁぁぁ!!」


 汚い悲鳴を上げながら吹き飛ばされたキースは、本棚を粉砕しても勢いは止まらず壁に激突した。すると、衝撃で壁の一部が剥がれ、向かい側の空洞が確認出来る状態になった。

 俗にいう隠し扉というヤツである。証拠を探している一行にとってそこは何かしら怪しい物が出てくると予想出来た。

 その背景を踏まえたジェラルドは自称スパイにドヤ顔でこう言った。

「やはり、オレの天才的頭脳をもってすればこの程度の知的なからくりなんて簡単に見抜いちゃうんだなーこれが!やっぱりオレって頭良いよな!」

 普段からキースに脳筋呼ばわりされて知性に対してコンプレックスのあるジェラルドは、ここ一番と言わんばかりに知性をアピールするが、自称スパイから引きつった笑顔しか出てこなかった。


「は、ははは………そ、そうだね。それじゃそこで伸びてるキース君を僕が介抱したら、この先に進もうとしようか!」


 話はここで切り上げだと言わんばかりに手を叩いて自称スパイはキースを介抱するが、内心では思ってたけど言わなくて正解だったと冷や汗を流していたことはまた別の話である。

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