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スパイの作戦

 坑道の崩落に巻き込まれ、体がホコリまみれになった俺達はスパイの話を聞く前に一旦宿に戻って身支度を整えることにした。それにしても崩落に巻き込まれてホコリまみれになっただけで済むとかどれだけ運が良いのやら………スパイを散らかり放題のロビーで待たせて、キースと俺は2Fにある自分たちの部屋にそれぞれ戻ってシャワーを浴びることにした。

「まったく、キースのせいでとんでもなく酷い目にあったな。あいつと居るとロクな目に遭いやしないぜ」

 最近起こった出来事を思い出すだけで吐き気がこみ上げてくる。盗賊退治を嫌々引き受けさせられ、終わったと思ったら武道大会なんぞに強制出場することになるし、挙句の果てに面倒臭い依頼なんぞ引き受けるハメになっちまった。この汚れと一緒に面倒事もシャワーで落としちまいたいくらいだ。

 そんな事を考えていると隣から声が聞こえてきた。何かシャワーの音と歌声が聞こえてくる。仮にもホテルを名乗ってるくせに壁薄すぎだろ!!

 そんな事を思っていると、どうやら歌のサビに入ったのか声がより一層大きくなった。

           


「恋をするほどムネが キュン☆ キュン☆ アナタに届けこの想いリビドー♪」

    

「ウルセェェェェェ!!恥ずかしい曲歌ってんじぇねぇえええええええええ!!」

 最近王都で流行ってる女性アイドルグループの曲を恥ずかしげも無く熱唱する馬鹿キース。しかも冗談抜きでガチで上手かったのが俺の怒りを底上げしたのは言うまでもない。



閑話休題それはさておき

      

 馬鹿キースのせいでぐったりした気持ちを抱えつつシャワーを済ませた俺は、キースなんぞ放っておいて真っ先に1Fへのロビーへと向かった。

 そこでは散らかっていたロビーが多少片付いており、待合のテーブルには優雅にコーヒーなんぞ飲みながら座っている自称スパイ(笑)と死霊の館(外観がガチ)のオーナーが座っていた。

「やあ、待ってる間くつろがせてもらっているよ」

「そりゃ見れば分かるよ。ところで俺の分は無いのか?」

 一人で珈琲なんぞ飲みやがって。俺の分も何か用意しとけっつーの。と言っても俺は珈琲は飲めないんだが。

「おっとすまない。ところで何を飲む?珈琲かい?紅茶かい?」

「俺は珈琲は飲めないんだ。飲むと頭が痛くなるからな。とりあえず紅茶を頼む」

 俺は死霊の館のオーナーに紅茶を頼むと自称スパイの向かいの席にどっかりと座った。

「………んでだ。あんたが言う提案ってのを聞かせてもらおうじゃないか」

「あぁ、そうだな。ところでもう一人の方が居ないんだが、二人揃ってから話した方がいいんじゃないかな?」

「いや、あんな奴は放っておいても構わんから話を聞かせろ」

「あ、あぁ………坑道の時といい、あんたら二人は複雑な関係のようだからさっさと話をさせてもらうぞ」

 自称スパイは少しうろたえたような様子を見せながら話を始めた。

「さっきも話したと思うが、俺はアルメリア王国のスパイだ。今請け負ってる任務は、この国の国教である『セクト教』の一派が怪しい動きをしていると報告があったので詳細を調べている。なぜこんな機密事項をペラペラ話すのかというのは3点ほどポイントがある。

 まず、君達に協力して欲しいことがあるからというのが一点。

 次に、私が受けている任務が私の所属している情報局からの正式な依頼ではないから厳密な機密というものが存在しないというのが一点。

 そして最後に、この依頼を命令したウチのボスがくそったれな奴だからもうどうとでもなれと思ってヤケクソで話しているのが最大のポイントだ」

「いや、アンタ等の方が複雑な関係じゃねぇか」

 思わずジト目でツッコミを入れてしまう。そんな適当な説明を受けていると―――

「はい、おまたせしましたー。淹れたての紅茶ですよー」

 アンティーク調の茶器に控えめな装飾が施されたティーカップをトレイに載せながら死霊の館の主が紅茶を持ってきた。地味にセンスが良いのに苛ついた。

 少し乱暴な手つきでトレイをひったくると砂糖とミルクを入れて紅茶を飲む。乱暴に扱ったせいか、トレイに少し紅茶がこぼれていた。

「よー、ジェラルドはオコチャマだなー。相変わらず珈琲も飲めないし、紅茶に砂糖とか笑えるんですけど」

 キースが2階から降りてきた。早速の暴言に苛立った俺は飲みかけの紅茶を、そのままキースに投げつけた。

「うわっちいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ!!!

なにすんじゃキサマっ!!熱いじゃないか!!」

「生意気な口をきくなアホ」

「ちょ、ちょっと!!ウチの茶器なんですけどぉー!!」

「気にすんな。ちょっと汚れただけだ」

 三者三様の反応を見ながら乾いた笑みでこちらの様子を見ているスパイ。これ以上色々やってると話がややこしくなるなと思って、スパイに話を進めるように促した。

「とりあえず、話の続きを言え」

「………もう何も突っ込まないよ。

とにかく、セクト教の一派と言ったように全体ではなく極一部の連中がキナ臭い動きをしていてね。色々と探し回った結果、人体実験をやってるらしいことが分かったんだ。

 人体実験なんて行うこと自体が色々と問題があるんだが、その人体実験は何の目的で行われているのかというのが更に問題でね。調べた結果「神へと至る道」を模索してるっていうんだ。詳細は不明だけど、大方予想はつく内容だね」

 一気に話した後、スパイは珈琲を飲んだ。

「人体実験を行うということは意味はそのままに取れる。人体実験の意義とは「人体に対して行う事柄によって何らかの実証を得る」必要があるから行われるんだ。つまり「神へと至る道」の概要は「人体実験」を行うことによって得られる可能性が高いから行われているということだな。

 ところで話は変わるけど、人が神になるという単語を聞いて君は何を思い浮かべる?

 超常的な能力を得るだとか、全てを見通す力を得られるだとか色々あると思うけど一番単純に考えつく言葉といえばこれしかないよね。例えば―――不老不死とか」

 ニヤリと人の悪い笑みを浮かべるスパイ。というか、これってひょっとしなくても

「面倒事じゃねぇか。キースはともかく俺を巻き込むんじゃねぇ。最近だって、ゾンビ村ぶっ潰したり大変だったんだ。これ以上の面倒事は御免だね」

 もうこれ以上話を聞く必要はない。俺は部屋に戻ろうとした。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!

そこでレアメタルの話なんだが!!」

「ようやく本題に入ったか。これ以上待たされたら、そのまま部屋に帰るところだったよ」

 まったくごちゃごちゃと五月蝿い野郎だ。話が長いとイライラするぜ。

「おい、自称スパイさんよ。

 ジェラルドは頭が悪いから、あんまり長い話だとか難しい話しても伝わらないから、さっさと簡潔に本題を話さないと帰っちまうぞ」

「………………」

 俺は無言で熱々の紅茶が入ったティーポットをキースに向かってぶん投げた。

「うわああああああああっちいいいいいぃぃぃぃぃ!そして破片がっ!!破片が顔に刺さってるぅぅぅぅぅ!!」

「ノオォォォォォォォッ!それ微妙に高い茶器だから壊さないでぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

「…………話を続けるよ。

 とにかく、その一派がレアメタルを集めて何か色々やってるらしいから、これから乗り込んでぶっ潰した後にレアメタルも頂いてしまおうって作戦なんだが、どうかな?」

 キースと死霊の館の主が視界に入ってないかのように振る舞いながら俺に話を振ってきた。

「いや、どうかなって言われても作戦も何もないじゃないか。しかもなんでそんな危ない真似しなきゃならんのよ」

 作戦っていうのは、目標を達成する為に効率的に物事を進める行動のことだろ。安全性もなけりゃ行き当たりばったりすぎて作戦の「さ」の字も見当たらない。そういうのは「出たとこ勝負」っていうんだよアホがっ!!

「そのことなんだが、君、さっきゾンビ村を潰したとか言ってたよね?」

「それが何か?」

 何か嫌な予感がする。

「そのセクト教の一派が人体実験してる村があってね。そこは人をゾンビに変えたり色々とやってるらしいんだけど………状況から察するに君達は最近、やっこさんの実験場をぶっ潰した事になるんじゃないかな?トラの尻尾を踏んだであろう君達は、きっとマークされてるよ。このまま帰ったら消されるんじゃないかなぁ?」

「なっ!」

 俺は戦慄した。消される云々にではない。あんな雑魚どもに消される心配なんぞしていないからだ。何が俺を戦慄させたかというと、あんな雑魚どもに一生付きまとわれなきゃならない可能性があるのに戦慄したのだ。鬱陶しいことこの上ない。

「あんな雑魚どもに付きまとわれるなんて真っ平御免だ!」

「………そこで命が惜しいとか言わないのが君らしいよね」

 スパイはため息を吐いた。

「まぁ、そんな訳で今日の夜、奴さんのボス………枢機卿の一人なんだけど、そいつの部屋に忍び込んでお縄にしたついでにレアメタルもGETしようっていう作戦でいこうと思うんだけど、良いよね?」

「………もうどうとでもしてくれ」

 俺はため息を吐きながら、未だに紅茶を被りながら奇声を上げてのたうち回っているキースと、割れたティーポットの破片を泣きながら集めている死霊の館の主の寸劇を眺めていた。



 ちなみに、ジェラルドがSランク冒険者という名の化け物だという情報を知らないスパイは、その枢機卿の一派が敵対せずに穏便に事を済ませようとしていることを知らないのであった。(つまりこのまま帰っても何の被害も受けないのであった)

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