これはゾンビですね(確信)
怪しい隠し通路を発見しキースに先行させて数分が経った頃、俺たちは何者かが争ったかのような痕跡を発見した。
「何か折れたツルハシとか粉々になったヘルメットだったとか散らばってるんだけど、これ思いっきり何かあった証拠だよな」
「見て分からんのか。どうみたって争った形跡にしか見えんだろうが」
人の気配もしない上に隠し通路なんてものまでありやがる。更にその先を突き進んだら明らかに争ったかのような形跡があるなんて厄介ごとの臭いしかしない。
「もう見なかったことにして帰らないか?正直、お前の面倒まで見ながら厄介ごとにクビを突っ込むとか死亡フラグすぎるわ。勿論、フラグが立って死ぬのはお前だけなんだが。あ、じゃあ問題ないか」
「なんでだよ!理不尽過ぎるわ!
ったくふざけやがって!
そもそもな話、お前は大事なことを忘れてるだろ!
お前はエリオット様の依頼を受けてここに居るんだろーが!
しかも依頼を達成した条件ってのは、やつと金輪際関わらなくて済む約束だ。これでお前何も持って帰らなかったら、これから先あの訳わからんやつ(失礼)に絡まれることになるぞ」
ぐはっ!そうだった!
すっかり忘れていたが、そもそもこんな面倒なことにクビを突っ込むハメになった理由は、あの領主の息子のエリオットとかいうイカレポンチと金輪際関わらなくて良いようにする為だってことを忘れていた。
そしてついでに、エリオットに納める分とは別にレアメタルを手に入れて久しぶりに鍛治師として腕を振るわなければならないという使命までも負っていたのだ。
こんなところで、諦めるわけにはいかない。というかキースの癖に正論吐きやがって!キースの癖に!
「しゃーねーな。本当に面倒ごとの臭いしかしねぇけど、腹括って行くしかないよな。それに面倒になったら全部ぶっ飛ばせば問題ないだろ」
楽観的に考えることにした俺はそう言ったが、それを聞いていたキースはこれだから脳筋はとか暴言吐いたので延髄蹴りをお見舞いして置いていった。
気絶したキースを置いて更に先に進むと、騒がしい音が耳に入ってきた。金属音というか金属が激しくぶつかり合っているような甲高い音が響き渡る。これってつまりは
「………なにかとなにかが争ってる最中だと思うんだが」
誰にとも無く独り言を吐く。心底嫌な気分にさせられるが、このまま突っ立っていてもしょうがない。
意を決して剣を抜刀し、騒ぎの中心に躍り出た。
一気に騒ぎの中心まで駆けると、そこには怪しい商人姿の男と、ツルハシで殴りかかっている血色の悪い男たちが争っていた。ツルハシを持った男達はざっと見で30人くらい居るだろうか。
商人姿の男は、こちらを見ると目を見張り新手か!とか訳の分からないことをホザきながらツルハシの男を持っていた剣で斬り伏せたた。
斬られた男は、そのまま倒れたが数秒もしないうちに再び起き上がり、虚ろな目をギョロギョロとさせながらツルハシを構えた。
「ひょっとしてひょっとしなくても、これはゾンビですかぁー!?またアンデッドとか、嫌過ぎるんですけどぉー!」
俺が心からの叫びを上げていると、何を呑気な!とか、敵ではないのか!とか商人姿の男がゾンビ(確定)を捌きながら再び叫んできたが、そんなことは知ったことじゃない。
ここでキースが入ればゾンビの群れに放り投げれば済む話なんだが、生憎とさっきの延髄蹴りで気絶してしまったのでそのまま置いてきてしまっていて居ない。これからは目先のストレス解消より大局的に物事を見ないといけないなぁ、などと考えつつ武道大会で一度だけ披露したことのある”無形”を発動。
目にも留まらぬ(文字通り)速さでゾンビに肉薄しつつ自慢の剣で次々と頭を飛ばす。俺以外のやつから見れば何が起こったか分からないかだろうが、次々とゾンビの首が飛んでいく光景はシュールに見えるかもしれない。もちろん、やろうと思えば瞬きをする間に一気に30人程度なんぞの首は狩れるが少々疲れるので基本形でやらせてもらった。とはいえ10秒程度で片付いたので、すぐに商人姿の男に話を聞くことができた。
「あんた、こんな所で一体何やってんのさ?」
俺が親戚にでも挨拶するような軽い調子で商人姿の男に問う。
「それはこっちの台詞だよ!
キミこそ、こんな所で何をしてるんだ!そもそも、さっきのゾンビ共は勝手に頭が取れていったが何が起こったんだ!?一体何がどうなってるんだぁー!」
折角話しかけてやったというのに、何やら混乱している模様。
まぁ、こんな状況だし仕方がないと思い、一つずつ質問に答えてやることにした。
「俺の名はジェラルドってんだ。ここにレアメタルがあるって聞いて少々貰いに来たところだ。そしたら坑道の様子がおかしくて調べてたらあんたがゾンビと戯れてたって訳だ。そしてそのゾンビ共を屠ったのは俺だ。何がどうなってるも何も、ああいう技だとしか答えられないな」
という感じで説明してやったのだが、ゾンビの件でポカーンとしながら動きを止めた商人風の男は未だに再起動しない。
「おい、説明してやったんだから、あんたの名前となぜここにいるのか位言ったらどうなんだ?敵対するようなら俺の剣の錆に………」
「うおおおおいっ!!分かった分かった!
アンタがとんでもなく強いことも、敵対したら殺されることも分かったから、その剣をしまってくれぇー!」
ちょこっと脅してやったらすぐに降伏しやがった。
まぁ、何かあってもあんな雑魚に遅れを取ってるようでは俺をどうこう出来るはずもないだろう(この世界でジェラルドをどうこう出来る存在はほとんど居ません)
「私はアフマド・ハキームという者だ!
こんな身なりをしているが、アルメリア王国情報局の人間だ。さっきまでとある任務でこの坑道を調べていたのだが、ちょっと油断してたら見つかってこんな目に………」
「なるほど。スパイってやつか。っていうかスパイの癖に見つかるとか仕事向いてないんじゃないの?」
「ううう………それ皆に言われるんだよ」
言われてるのか………と内心一人ごちた。まぁ、そんなどうでもいい事はさておき、この国のスパイがこの坑道を調べているということは、国はその所有者である教会に対して何らかの疑念とその疑念を抱くに足りえる何かを持っているということだ。
そんなスパイが教会お抱えの坑道を調べ、しかもその坑道からゾンビが現れ襲ってきた………つまり教会とゾンビの関係性は限りなく近いってことだ。
ゾンビの代名詞といえば、この世界では邪法だとか禁忌だとか生贄の儀式だとか危ない香りがプンプン臭ってくるといわれている。まぁ、魔素の関係でダンジョンの奥で死んだ冒険者がゾンビとなることはあるとは言われているが、教会という巨大な力のある組織によって管理・運営されていた坑道内で30体以上のゾンビが存在していたのだ。つまりはそういうことなのだ。
「教会は黒だってことなんだな。邪法だか生贄だか知らんが連中は何をしようとしてるんだろうな?」
俺が一人ごちると商人姿の男………アフマドはため息を吐きながらそれを調べている最中だ、と答えた。
このままこうしていてもしょうがないと思っていると、後ろからキースがやってきた。
「おい!!お前は毎度毎度バカの一つ覚えみたいに俺様を気絶させやがって!!慰謝料請求するぞ!」
「うっさいわ、ボケが!!こんな敵陣の真ん中で騒いだら、ボスが来るフラグが立つだろう!」
「アホかぁー!そんな些細なことよりも俺の怪我を………って何だありゃー!!」
キースが指指した方向を見ると、2メートルを越える巨大な何かが音を立てて迫ってきた。
「ほら言わんこっちゃない!!
お前が無駄なフラグ立てたせいで、本当にきちゃったじゃないかぁー!!」
「ゲエェェェェェっ!!冗談で言ったのにマジで来たぁぁぁ!!助けてジェラえもぉぉぉん!!」
「おいっ!!君たち!
ふざけてないでさっさと戦闘体制に入りたまえ!危ないぞ!!」
三者三様の反応をしつつ俺たちは結局の所、騒動に巻き込まれるのであった。