レアメタル採掘場の闇
キースが先導してレアメタル採掘場に向かう。そんなプランが実行されようとしたが、肝心の場所が曖昧だ。そのことに突っ込んだら「まぁ、そっちに進めば何とかなるさ」とか行き当たりばったりなことを言われたのでとりあえず殴っておく。
蛙の潰れたようなうめき声を上げたそれを無視しつつ、採掘場の方角へ向かいながらプランを練ることにする。
目的の品であるレアメタル。名前の通り稀少な鉱物なのだろう。レアメタルが産出する採掘場とて簡単に採れる代物じゃなさそうだ。ということは自分で掘るのではなく、採掘場の保管庫から失敬してくるのが確実な手だろう。
人の物を取るのは犯罪だが、バレなきゃ犯罪じゃない。そもそも不法侵入して勝手に採掘した時点で盗っ人確定なんだから保管庫から盗った方が時間の短縮になるってもんだ。もし見つかってもあれだ。斜め45度の角度で相手の脳天にチョップをかますと3時間くらい記憶喪失になってくれるという便利な技を覚えているから問題ないな。勿論、何でもありのクソ爺から教えて貰った技だ。
こんな技を知ってるってことは、あの爺の事だ。きっと過去に悪用しまくったに違いない。
そんな事を思っているウチに怪しい坑道らしき道を発見した。坑道の近くには『レアメタル採掘場:これより先関係者以外立ち入り禁止』と書かれた立て札が立っている。どうやら目的地に着いたようだ。
「ほら何とかなったじゃねぇかジェラルド。俺にかかればざっとこんなもんなのさ」
「たまたま運が良かっただけじゃねぇか。無駄口ほざいてないでさっさと行くぞ」
得意げに語るキースに足払いを仕掛け転倒させると俺は坑道の入り口に入っていった。後ろで文句を言うアホ(キース)を殴って黙らせると、松明の燃える音のみ聞こえるようになった。
「何か知らんが、ヤケに静かじゃねぇか?」
「作業員もお前のように年中喋ってる訳じゃないだろ。ほれ、さっさと進め」
再びキースに先を急がせつつ、俺は警戒しながら先に進んだ。
坑道や洞窟といえばモンスターが出てくるという話は有名である。
詳しい話は分からないが、そういったスポットには瘴気が溜まりやすくそれを好むモンスターが現れるというのだ。つまりこの坑道も例外ではないのである。
「おっと、さっそくおいでなすったようだ」
俺はロングソードを鞘から抜き放った。目の前にはネズミ………にしては巨大すぎる何かがいる。
モールラットとよばれるモンスターで、大きさは6歳の子供並。そして、そんな巨大な体を維持する食べ物は肉。つまり動物を襲うのだ。人も例外ではない。
「ふん、モールラットなんて怖くないもんね~!!」
後ろで喚くアホ(キース)が呪いの斧を引き抜いてモールラットに飛び掛った。
「クィイイイイイイ!!」
キースの姿を見るや、耳障りな奇声を上げたモールラットはキースを迎え撃つ。しかし、相手(呪いの斧)が悪すぎた。
「チェストォォォォォォ!!」
斧を振りかざしたキースは見事モールラットの首を切断し、絶命させることに成功した。その光景を俺は冷めた目で見つめる。
「へん!どんなもんだい!俺だってこのくらいは出来るのさ!」
得意げに語るキースだが、あれは斧のお陰だと心の中で語っておこう。勿論、口に出すのも憚れるので黙っておくことにする。
俺は無言でキースの横を通り過ぎると坑道の奥へと進んでいった。
「おい!無視かっ!!
さすがキース様格好いいとか言ったらどうなんだ!!」
更に無視しつつ駆け足でその場を去った。
キースを置き去りにして20分ほど経った頃だろうか。一人で坑道の中を粗方散策したが、作業員の姿を見ることはなかった。所々、鉱石が露出している箇所も発見したが俺が慣れ親しんだ鉄鉱石や銅鉱石くらいしか見つけることが出来ず、目的のレアメタルなんてどこを探しても見つからない。これは手詰まりかと思った矢先、突然奇妙な声を聞いた。
「うおおおおおおい!!ジェラルドぉぉぉぉぉ!!
迷っちゃったんですけどぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
………軽く殺意を覚える馬鹿の叫び声を聞いてしまった。
本当にあの馬鹿は不法侵入中な上に潜入中だというのに大声を張り上げて助けを求めてやがる!!これで見つかって潜入がバレたらキラーアントの巣に放り込んでやる!
俺は叫び声が上がっている方向へと向かった。
「まったく、とんだ時間の無駄だったぜ。これでバレて見つかったらお前の体を蟻塚に埋めてやるからな」
「お前がおいていくのが悪いんだろうがっ!!ちょっと寂し過ぎて泣いちゃう所だっただろ!!」
キースと合流した俺はキースに向かって悪態を吐いた。タイムロスも良い所だ。
「あのなぁ、俺たちは潜入中なんだぞ。人に見つかったらどうするつもりだ?ああん?」
「そんな事言ったって、人っ子一人この坑道の中に居ないだろうが」
キースの言うとおり、坑道の中を散策したがモールラットやジャイアントバットのようなモンスターにしか会っていなかった。そう考えると、なにやら怪しい気配を感じる。
「………なぁ、キースよ。何となくだが嫌な予感がするんだが」
「奇遇だな。日曜でもないのに坑道に作業員が一人も居ないなんて何かあったと言わんばかりじゃないか」
急に薄ら寒いモノを感じたのか、キースの顔面が徐々に青くなった。
「………こんなときにいうのもアレなんだけどよ。さっき俺が大声を出してお前を呼んだのには理由があってさ。掻い摘んで話すと、守衛室みたいな部屋を発見して中を漁ったら、床に隠し部屋みたいなのを見つけたんだよ。じゃあさっそくと思って中に入ろうとしたら、物凄い凝縮された瘴気が辺りを包んでてさ。やばいと思ってお前を呼んだんだよ」
「…………………」
「…………………」
俺とキース。二人そろって無言になった。
「やっぱりお前、トラブルメーカーだわ。一人で瘴気の中に突っ込んで死ね」
「嫌だよ!!何で死ななきゃならんのだ!!
というか、こんな死と隣り合わせの状況なんてお前にとっちゃ児戯に等しいだろこの人間凶器野郎!」
「武器チート野郎に言われたかねーよ!!
ほれ!!このまま帰るのも癪にさわるから、さっさと突っ込むぞ!!そして帰ったらお前の体をキラーアントの蟻塚に埋めてやる」
「嫌だよ!!普通に死ねるから!!」
キースの喚き声をBGMに俺は隠し部屋とやらがある守衛室の方へと向かっていった。