レアメタル採掘場-キース視点-
ジェラルドが泊まったという宿に一泊する事にした。
泊まる事になったのは良いんだが、外観が幽霊屋敷並みにボロイ上に入ってすぐのロビーまで本当に幽霊が出るんじゃないかってくらい荒れ放題だ。
流石にジェラルドが探し当てた宿なだけあって普通な訳がなかった。
何故かと聞かれれば、あいつの存在自体が普通じゃないから。類は友を呼ぶってやつなのかもしれん。
まぁ、そんなどうでもいい事は置いといてこのロビーの惨状を見るからに、明らかに何かあったに違いない。
俺はこの宿のオーナーに理由を聞いてみた。
「この惨状から察するに、何かありましたね?」
名探偵もかくや、という鋭い突っ込みをした。自分自身酔いしれそうになる。
「えぇ………まぁ、何かあったのは一目瞭然だとは思いますが………」
っておい、何で『何を当たり前なことを聞くんだ?』っていうような雰囲気で返されなきゃならんのだ。まるで可哀想なモノでも見るような目をしている。
「………そういう突っ込みは良いから、何があったか教えなさい。後、どこも宿空いてないから今夜ここに泊まるからよろしくね☆」
宿に泊まる要求を交えつつ事情を聞く。
「はぁ………分かりました。部外者の方に言うのも何ですが、聞かれたのでお教えします。実はこの地を教会の方々が欲しておられてまして、土地を譲って欲しいと言われたのです。しかし、先祖代々の宿を明け渡すつもりがないので拒否をしましたところ、後ろ暗い連中を差し向けて明け渡しを迫ってきましてね。警備隊の連中も教会には逆らえず、このような狼藉を働かれても誰も助けてくれない、というわけですよ。
それと、これが今夜泊まる部屋の鍵です。どうぞ」
差し出された鍵を半ば反射的に受け取った。
「あぁ、どうも………って凄い境遇に立たされてるんだな、あんた。
ふむ、そうだな………困ってる人を助けるのは至上最強の剣士としての勤めだしな。よし!レアメタルを探すがてら、アンタも助けてやるよ!」
「はぁ………それはご丁寧に……」
胡散臭そうな目で見つめるオーナー。この目はきっと信じていないに違いない。
「まぁ大船に乗ったつもりでいなよ!あっはっはー!」
俺は最強の剣士の貫禄を出すため、高笑いを上げながら町に繰り出した。
「………とんでもない泥舟に乗せられたように気がしてきただけど」
後ろの方でオーナーがボソボソと言っていたが生憎俺は聞き取れなかった。
宿から出て、目的地を目指す。といっても町の中心部に進んでるだけだけどな。
何分か歩いているとすぐに中心部に着いた。
そこでは昨日と変わらない活気で賑わいを見せていた。露店の数も心なしか増えているような気がしないでもない。
「とりあえず、聞き込みからだな。さてさて、誰に聞こうかなー…………ん?」
レアメタルの情報を誰から得ようかと辺りを見回していたら、何やらコソコソと怪しい動きをしている商人が居た。
その商人は辺りをキョロキョロと見回しながら、すぐ脇にあった路地裏へと姿を消した。
「……怪しい。俺の勘が絶対に何かあると囁いている。よし、つけるか」
商人の後に続いて路地裏に入る。
路地裏は表の通りと比べて暗く、そしてすえたような臭いがした。
男を追って少し進んだところですぐに突き当たりの壁が見えた。商人はそこで壁に向かって何やらブツブツと独り言を喋っている。
「何やってんだ?とりあえず盗み聞きするか」
怪しさ満点の商人の姿を視界に入れながら物陰に潜んだ。若干声が聞き取りにくいが聞こえないこともない距離だ。商人を観察してみるとその手には何か四角い物体を持っており、壁に話しかけていたように見えたが実際はその得体の知れないものに向かって話しかけていたのだった。
「……エェ、ヤットつきとめマシタ。やつらはヤハリなにかタクランデいるようデス。コレカラ町から南にあるレアメタル採掘場に潜入シマス。………エェ、分かりマシた。可能でアレバ破壊シマス」
何のこっちゃ分からないが、拙い言葉で何だか事件の臭いがプンプンするような言葉を吐いていた。
異人×怪しい言葉=事件
俺の灰色の脳細胞が仕事をしたような気がした。
そんな事を思っていると、用が住んだのか商人は逃げるようにその場を後にした。
「………これだよ、コレ!
俺が求めていた冒険ってヤツじゃないか、これは!!」
灰色の脳細胞で答えを得た俺は、冒険者として大きく活躍出来そうな陰謀の臭いを感じ取っていた。
しかもご丁寧に現場がレアメタル採掘場ときたもんだ!
名を馳せて依頼もこなせるだなんて、一石二鳥じゃないか!!
「よし!手がかりも見つかったし、俺が活躍出来そうな陰謀の臭いがする!
いやー、やっぱり俺様くらいの凄腕になると一粒で二度美味しい場面を引き寄せてしまうんだな!!これが!!うはっテンションあっがるー!
よし、手がかり見つけたしジェラルド探しに行こうっと!」
という訳で、ジェラルドのヤツを探すことにした。
別に俺くらいの実力があればあんな脳筋野郎の力なんぞ必要ないのだが、レアメタル入手の依頼は二人が引き受けた物だ。手柄を抜け駆けするのもヤツに悪いだろう。フォローまで出来るオレ最高!
「お!噂をすればなんとやら!おーい!ジェラルドー!!」
辛気臭い裏路地を出て辺りを散策すると、運が良いのかすぐにジェラルドを見つけることが出来た。俺がヤツを見つけて声を掛けると、ヤツは瞬時に嫌そうな顔をしやがった。相変わらず失礼なヤツめ!
「あぁん?何だ?こっちは忙しいんだっつーの。用がねぇなら話かけるな」
「レアメタルの手がかりを見つけたんだよ、ジェラルド!」
「レアメタルだぁ?そんなもん、俺の実力でギルドの職員に今探させてるよ。明日までに用意しなきゃSランク権限で遠まわしにクビにしてやるって脅してな」
そう言って気持ちの悪い笑みを浮かべてジェラルドはヘラヘラ笑った。
こいつ性格悪っ!
「うわ、やっぱりお前鬼畜だよ………って、お前それで良いのか?」
こんな最低なヤツに正義感で訴えかけても何の効果もなさそうだが、とりあえず言ってみる。
「良いに決まってんだろ。権力ってのは使うためにあんだよ。それにあいつ等俺の事をウサギがどうとかコケにしやがったんだ。当然の報いだろ」
うは、こいつ根に持ってやがる。男で陰険とかマジで需要ないぞ。
「いや、お前がそれで良いっつーんなら俺は何も言わねーけどよ。でも町で聞いた話によると、どんな大貴族でも少量しか手に入らないって聞いたぜ?ギルド権限で手に入れられる量も限られるだろ」
「だからどうしたってーんだ?」
察しの悪い可愛そうなジェラルドは、不快そうな顔を更に歪ませて俺に圧力を掛けてきた。この脳筋のドチンピラめ。少しは無い頭を使ったらどうなんだ。
あまりの察しの悪さに答えを教えてやることにする。
「………どうせギルドが手に入れてくる量なんてエリオット様に献上する分くらいしか残らないんじゃないか?自称鍛冶師なら、レアメタルなんていう珍しい鉱石を使って鍛冶したいと思わないのか?」
それを聞いたジェラルドは驚いたような顔をした。そんなジェラルドを無視して言葉を続ける。
「どうやら町の南にレアメタルの採掘場があるらしい。ちょっと潜入してみるのも面白いんじゃないか?」
続けた言葉に更に驚いた様子のジェラルドは、ふと真面目な顔に戻り俺に向かってこうのたまった。
「………お前がマトモな事を喋るなんて信じられん。頭でも打って記憶喪失にでもなったのか?それともコインハゲ作った時に脳みそまで焼かれてマトモになったのか?」
「ふざけんな!何でマトモな事喋ってんのに頭の中を心配されにゃならんのだ!!
アホな事言ってないで、さっさと行くぞ!!」
未だに心配そうな表情で「キースがマトモな事を喋るだなんて、キースの母親に何て説明したら良いんだ………ん?マトモになった分には問題ないのか?」とかアホな事をぶつくさ呟いているジェラルドを引っ張りながら俺はレアメタルの採掘場を目指した。