鍛冶開始!
精練作業はあっという間に終わった。毎度毎度の事ながら、なんと便利な施設なんだろうとしみじみ思う。
通常であれば一旦、鉄鉱石を溶かして溶岩のようにドロドロになった状態にし、何度も何度も不純物を取り除いてようやく鉄が出来上がるのだ。しかし、このなんちゃって溶鉱炉は最初から仕様が違う。
魔法やら何やらでコーティングされた溶鉱炉内部に特殊な熱が加えられると、鉄鉱石内の不純物が溶鉱炉下部へ流れ込み、専用のトングで形を好き勝手に変える事が出来るのだ。まぁ、簡単に言うと、パン屋さんがパンを焼くオーブンを想像して欲しい。
ちなみに鉄鉱石から出た不純物は円形に固められて溶鉱炉下部の通称『引き出し』と呼ばれる部分に溜まっていく。定期的に出さないと一杯になってしまうのでそれだけが注意点だろう。後、引き出しの正式名称は知らないので省略させてもらう。
ある程度の時間、溶鉱炉の中に鉄鉱石を入れておくと鉄に姿を変えた。俺は今使う分を鍛冶し易い形に伸ばし、残りはインゴットの形に変えて部屋の一角にストックしておく。何か今、親父がチラッとインゴットを見たような気がするが、絶対に使わせないからなっ!!
おっと、今は仕事中だった………気を引き締めないとな。
とにかく、鍛冶しやすいように加工した鉄を金床に持っていき、再び熱を加えながらハンマーでぶっ叩いていく。徐々に薄く延ばされていく鉄を見ていると何ともいえない高揚感に包まれる。今回はどんな出来になるのか、作るたびにドキドキするのだ。
ちなみにこのハンマーは自分が作ったハンマーを使っている。武器は親父手製の品なのだが、自分で使う道具くらいは自分で作りたいと思ったからだ。俺が一番最初に鍛冶して作ったのも、鍛冶用のハンマーだった。今では、そのハンマーは役目を終えてしまったのだが、今使っているハンマーも思い出深い代物なのに変わりない。
暫く鉄と格闘し、最後に水で冷やすとロングソードの刀身が出来上がった。これを前もって作っておいた柄に付けて完成だ。
完成した品を目の前に掲げながら見つめていると、親父がニヤニヤしながらこちらに近づいてきた。
「相変わらず普通過ぎる剣が出来上がったな………鉄の無駄だから、それ以上作るのは止めておけ」
「うるせぇっ!毎度毎度、同じ台詞を吐くなっ!」
俺のロングソードをしげしげと見つめながらホザかれた台詞についつい反応してしまう。
鉄の無駄というのは全力で否定させてもらうが、出来についてはその通りなのでちょっと悲しくなる。
「今、俺の弟子をやってるお前の幼馴染のキースの方が遥かに鍛冶の腕は確かだぞ」
「ぐああああああああっ!気にしていることを言うなああああああっ!!」
あまりの親父のクリティカルな発言に俺はその場でうずくまった。
………俺には幼馴染のキースという男が一人居る。そいつは子供の頃から立派な剣士になりたいと夢を語っていた。
今でも剣士になりたいと言っているが、ある時に親父に鍛冶の腕を見込まれて強制的に親父の弟子になっている。キースの鍛冶の腕は贔屓目に見ても優れていることが分かる。
それこそ後何年も修行を積めば、ひょっとしたらウチの親父の腕さえも越えるかもしれない。だが肝心の剣の腕はというと、才能の「さ」の字にも恵まれていない哀れな男だった。
………何か身近にそういう哀れな男が居るような気がしてきたが、きっと気のせいなのだろう。それに、剣の腕について語っていると自分の職業に疑問を感じてしまうので、これ以上は語るまい。
ちなみに爺の弟子が俺だとゲロったのもこいつだ。もちろん、あとできっちり落とし前は付けさせてもらったが。
「ウチの工房じゃ売り物になんねーから、隣の武器屋に買い取って貰え」
「うるせーっ!言われなくても、この剣は隣の店に買い取って貰う予定だったんだぜ!」
俺は出来上がったばかりのロングソードを(夜の良い時間であるにも関わらず)隣の武器屋の主人に渡すと、文句を言われた挙句に親父が作ったロングソードの価格の半分以下の値段を付けられて泣く泣く家に戻った。




