ウサギ野郎とSランク
教会を後にした俺はギルドに向かって歩いていた。
辺りは相変わらずの活気で満ち溢れ、誰も彼もが降臨祭に浮き足立っているように見える。対して俺はというと当然、全然楽しくない。何が悲しくて周りが楽しんでいる中、1人だけ仕事なんぞしなきゃならんのだ。
周り歩いてる奴ら全員に雷でも落ちやがれってんだ、クソ!特に向かいでイチャイチャしてるカップルに念入りに落ちやがれ!っていうか、俺が物理的に落としてやろうか!
と、益もないことを心の中で吐き出している内にギルドまでやってきた。初日で恥かいた手前、物凄く入りたくない。
入りたくないのだが、レアメタルの手掛かりを探す手っ取り早い方法が他に思いつかない。仕方なく意を決して中に入った。
中は相変わらず閑散としていた。いや、当たり前だな。降臨祭なんていうイベントやってんだから、こんな時まで仕事する奴はあまり居ないよな。居るのは居残り組の職員と真昼間から飲んだくれているジジイが何人か。一言で言うならろくでもない連中だ。
俺はそのろくでもないジジイ連中を冷めた目で一瞥すると、昨日と同じように退屈そうにカウンターで座っている職員のオッサンに話しかけた。
「ちょっと聞きたいことがあるんだが?」
半分寝ていた受付のオッサンが声に気付いて俺を見上げた後、下品な笑い声を立ててこう宣った。
「あぁ?なんだ?って、昨日のウサギ野郎か!ぐわはははははっ!
聞きたいことっつーのはアレか?キラーラビットの討伐部位はどこか?だろ?
それなら尻尾じゃなくて脚の方だぜー、ぐわははははは!」
「なっ!」
俺は驚愕した。この俺に面と向かって馬鹿にしてくる奴が居るとは思って居なかったからだ。
すると、その様子を見ていた他の受付に居るオバハン2人が更に暴言を追加してきた。
「えー、討伐部位を間違えたのー?いやだー恥ずかしい」
「討伐部位を間違えて許されるのはせいぜいEランクまでよねー、プークスクス」
………………………
………ふふふ
始めてですよ……
私をここまでコケにしたおバカさん達は!
俺の怒りはピークに達していた。まさか他人にここまで馬鹿にされるとは思ってもみなかったからだ。心当たりがあるとすれば、この辺に出てくる魔物はコボルドやスライムといった雑魚のみが主体で出てくるので、中級以上の冒険者は他の場所に拠点を設けるのが普通だ。だから俺が持ってきたキラーラビットの尻尾を見て、せいぜい寿命で死んだのを運良く見つけたのに討伐部位を間違えて換金に失敗したアホな低ランク冒険者に見えたのだろう。
なまじ当たってる部分があるだけにグゥの音も出ないがムカつく事この上ない。
とはいえ、この世界では低ランクの冒険者は馬鹿にされやすい傾向があるのも確かだ。もちろん、逆を言えば高ランクになればなるほど馬鹿にされることはなくなるのだ。まぁ、当たり前だよな。
そんな話をした後にこれを言うのもなんなのだが、ここまで俺のことをコケにしやがる輩は村や王都に居た頃はクソ翁や自殺志願者のキースくらいしか居なかった。
それにはもちろん理由がある。答えはたった一つ、シンプルな答えだ。
「Eランクじゃなくて悪かったなぁ!」
俺はSランクと書かれたギルド証を目の前の受付共に晒してやった。
それを見た瞬間、ガタガタと震え出す受付共。そして目の前のオッサンが開口一番にこう言った。
「申し訳ございませんでしたー!!」