謎のシスター
テントを張って一夜を過ごした後、俺達は紫峰山を目指すべく廃墟を後にした。
相変わらず辺りは木が生い茂るばかりで嫌になってくるが、昨夜感じていた不気味な気配は無くなっていた。
まぁ、元凶をぶち殺したのだから当然と言えば当然なのだが。
「お前のせいで散々な目に遭った。責任取って死ね、ボケキース」
「なんでだよっ!そもそもお前が勝手に歩き出して宿探し始めたんじゃねーかよ!」
ボケキースに半眼で睨みつけてやると、さも心外だとばかりに反論してきやがった。いやいや、そんな事はないぞキース。どう考えてもお前が悪い。
「はぁ?お前が別の所に宿があるかもしれないって言ったから俺は宿を探しに行ったんじゃねーか。事の発端はお前の一言で始まったんだよ。だからやっぱりお前が悪いって事だ。という訳で、さっさと死ね」
俺は剣の柄に手を伸ばして割かし本気の袈裟斬りをお見舞いした。
「のわあああぁぁぁぁっ!!」
キースは奇声を上げると間一髪の所で俺の一撃を避けた。キースの銀髪の髪がふわりと宙を舞う。
「おいぃぃぃぃぃぃっ!!お前ェェェェェェっ!!
本気と書いてマジなのかっ!!そうなのかァァァァァァっ!!」
相変わらず良く分からない奇声を上げながら俺から距離を取るキース。意味不明すぎて訳が分からない。
「ッチ、相変わらずシブトイ野郎だ………今度こそ息の根を止めてやるから、ちょっとそこに立ってろよ」
「ふざけんなアホっ!!誰が斬られるって分かってて立つかボケっ!!
そもそも、店の人が向こうに宿があるかもって言ったからお前に教えてやったんじゃないかっ!」
更に距離を取ろうとしているアホを尻目に、俺はさきほどのキースの言葉を反芻していた。
”店の人が宿があるかもと言っていた”
これはどう考えても怪しいだろう。そもそもゾンビに襲われるスポットなんぞ紹介されても誰も喜ばないどころか噂になるのが普通だ。そんなスポットがあるならば店の人から、あそこは危ないから近寄るなって言われるのが普通だ。決して宿があるかもしれないなんて台詞は悪意が無い限り言ったりしないだろう。
もし考えられる理由があるとすれば今思いつくのは2つ。
一つは最近になって”何らかの異変”が起こり村人が全員ゾンビになったばかりだった為、まだ噂になっていなかったというのが考えられる。あの腐れ婆の様子なら、村人を襲ってゾンビにしました。と言われても容易に納得出来るし説得力もあるだろう。
そして、もう一つ考えられるとすれば、あの腐れ婆と店の人がグルだったという説だ。ただしこれは現時点で動機に該当する情報を持っていない。陰謀説だと言われてしまえばそれまでだが………
「ところでお前、店の人に教えてもらったってホザいたが教えてくれた奴って、どんな人だったんだ?………ってお前、どんだけ俺から離れるんだ!」
俺が考え事をしている隙に、遥か彼方まで距離を取ったクソボケは向こうの方で何か喚いていた。
「おいコラっ!戻れボケキース!!お前がそういう考えなら」
俺は即断すると剣を鞘に収め、気を練りながらキースに狙いを定める。
「………俺はマジで殺ってやるからな」
どうやって察したのかは分からないが、向こうの方で状況を察したキースが慌ててこちらに向かって走り出してきた。
「ぅぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおいっ!!ちょっとまてやコラァァァァァァっ!!」
盗賊さながらの素早い身のこなしであっという間にキースは戻ってきた。
「茶番は済んだか?ならさっさと情報を吐け」
「うるせーっ!!俺を殺す気かっ!!お前の一撃はどれもこれも洒落になってねーんだよっ!!そもそも情報て言ったって何を思い出せば!!―――――あああああああっ!!」
何かを良い掛けた瞬間、キースは何かを思い出したかのようにアホ面を晒した。
「そういや店の人って俺言ったけど、正確には店の人じゃなかったわっ!!」
「………どうしてそう思ったんだ?」
俺はキースの答えを静かに待った。答え如何によっては私刑(死刑)だ。
「だってその人、修道服を着た女の人だったんだもん」
「…………」
「まぁ、”店の人”っていうか”店の中にいた人”っていうか……縮めれば”店の人”にな―――」
「死ねやボケっ!!」
俺は気持ち悪い笑みを浮かべてよく分からない戯言を語っているキースの首を腕で巻き付け、捻じるように思いっきり投げ飛ばした。
「グボゥェッ!」
華麗に決まったフライング・メイヤー(首投げ)の威力を前に、さしものキースも声にならない悲鳴を上げて大地に沈んだ。
「ったく世話焼かせやがって………それにしてもシスター(?)に言われたってのが気になるな」
今の所、シスターと婆の接点らしい接点は考え付かない。
そういえばあの婆は実験体がどうとか言ってた言ってたな………何かの実験をしていたんだろうか。詳しいことは分からないが、きっとロクな実験じゃないんだろう。
「まぁ、今手元にある情報だけじゃこれ以上は何も分からないな」
無駄な事は考えないのに限る。
俺はキースを殴りつけて起こすと再び紫峰山へと向けて出発したのであった。




