VSゾンビ婆
「………このクソッタレな一日に決着を着けてやる」
俺は婆に対峙しながら独りごちる。今日一日だけで散々な目に遭った!この落とし前はキッチリと目の前の婆に払ってもらおうとしよう。
「テメーの目的なんざ興味は無いが俺の邪魔をしようってんなら、お望みどおり斬り殺してやるぜ」
「ふぇっふぇっふぇ………お前のような若造に果たして倒すことができるかな?………キエェェェェイ!」
婆が奇声を発すると、出るわ出るわゾンビどもが地面からボコボコと沸いて出てきた。
「バカの一つ覚えか!?そいつらじゃ俺の相手は務まんねーぜ!」
ゾンビ自体は動きが遅いので、地面から這い出るのも時間が掛かる。しかもその間は当然、無防備だ。俺は頭だけ出ているゾンビを時には剣で斬り落とし、時には踏みつけながら一直線に婆に肉薄した。
「死ねェェェェェ!糞ババアァァァァァァ!」
「ゲエェっ!?」
俺の動きが予想外だったのか、虚をつかれた婆に隙が出来た。当然それを見逃す俺ではないのでそのまま婆に向かって剣を振り下ろした。
「っ!」
振り下ろした瞬間、ゾンビに足を掴まれた。そのお陰で軌道がズレてしまい婆の右腕を斬りおとすだけに至った。
「キエェェェアアアアっ!」
「クソっ!死ねやっ!!」
俺は足を掴んできたゾンビの首を斬り落としながら、仕損じてしまったことを実感した。
普段の俺であればゾンビに足を掴まれた程度で剣の軌道をズラすことなんて無いのだが、流石に今日一日ありすぎて疲れてしまっている。殺ったと思って気を抜いてしまったのもいけなかったのだろう。精進が足りないな………
ってちょっと待て!俺は鍛冶師だ。別に剣の修行なんざ行わなくても良いのだ。最近、ちょっと回りに毒されてきている気がする。うん、ここは仕損じて正解………
「おのれ若造がぁぁぁぁぁ!焼き殺してくれるわぁぁぁぁぁぁ!」
婆は片腕を失いながら、火の玉を30個ほど魔法で作り出し、一斉にこちらに向けて放った。しかも腕を斬られて警戒したのか、霧に隠れながら撃っているようだ。婆の姿が見えない。
「ちくしょう!やっぱり殺っときゃ良かった!!」
散弾のように撃ち出される火の玉を、俺は時には剣で打ち払い、時には避ける。
後ろの方で「うわっちぃぃぃぃ!」とか「助けてジェラルド!」とか聞こえてきたような気もするが気のせいだ。
「ちぃ、チョコマカと小ざかしい小僧だね!」
「お前にだけは言われたくねぇ!」
ムカついた俺は剣を鞘に収めて抜刀の構えを取る。
霧に隠れて火の玉を放っている婆であったが、俺の気配察知の能力は達人級だ。(正確には達人の上の人外級です)
目を瞑っていても手に取るように婆の位置を把握することが出来る。
「これで終わりにしてやるぜ…………死ね、クソババアァァァァァァァ!」
俺はクソ爺(師匠)に、かつてお見舞いして勝利した”神速の抜刀術”で衝撃波を作り出した。その衝撃波は婆にぶち当たり、婆は塵も残さずに消えた挙句、地下から天井まで穴を開けてしまった。ちょっとやりすぎたかなーと思わなくもなかったが、この台詞だけ言っておけば問題はないだろう。
「ふぅ………戦いは何時だって虚しいものだな」
「この人外野郎め。常識を知らんのか」
いつの間にか復活したキースの突っ込みを無視しつつ、俺は階段を上がって建物の外に出る。するとやはりというか、村の景色が変化しており廃村のような見た目に様変わりしていた。
「やはり、ここには村なんて存在しなかったんだな………」
「おい、ジェラルド、どういうことだよ!」
またしてもいつの間にか付いてきたキースが質問を投げかけてきた。詳しく説明してやるのも面倒だから、とりあえず完結に言うか。
「親玉ぶっ殺したから幻術が解けて廃村に戻った。んで、これでようやく終わりって事だよ」
詳細はハショったが、あながち間違ってはいないだろう。
「これでようやく終わりか………いやはや疲れたな」
俺はその場で腰掛けると、水筒の水を一口飲んだ。
今日一日だけで、どんだけ苦労したんだろうか。思い出したくも無い。
だがしかし、これでもう問題も無くなったことだろう。俺は安堵した。
「ところでジェラルド」
「あん?」
まだ何かあるというのだろうか。俺はキースを睨みつけた。
「お前の視線で人が殺せるぞ………それより、お前一つ忘れてないか?」
「…………何を?」
何となく今の台詞で一つ大事なことを思い出したが、俺は敢えてキースに聞いた。
いや、むしろ聞きたくないカモ。
「俺達、宿無しなんだぜ?お前が婆ぶっ殺して宿屋なくなっちゃったし、これからどうするんだ?」
「………………」
「………………」
「クソがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
辺りに俺の絶叫が木霊した。
後日談ではあるが、推定深夜の3時頃に動き回るのは危険だと判断し、結局その場でテントを張って一夜を過ごしたという。