まずは精練から
それなりの数の鉄鉱石を掘り出すと、程よい疲労感を感じるようになってきた。外を見てみないと何ともいえないが、そろそろ夕方になる頃合いだろう。
俺はリュックに鉄鉱石を詰め込んで背負うと、ツルハシを片手に下山の準備をする。夜になると魔物の動きが活発になるから、あんまり長居はしたくないのだ。
例え、魔物に取り囲まれるような事があってもこの辺の魔物なら簡単に一掃出来るが、重い荷物を持っている時に戦闘なんてしたくないからな。
まぁ、そうなったら適当に道端にリュックを投げ捨ててから戦うけど、戦闘が終わった後にまた改めて背負わなくちゃならないのは気が滅入る………というのが本音だが。
「さぁ~て、そろそろ下山しますかね~」
帰り支度が済んだ俺は設置してあるカンテラの明かりを全て消し終わると、採掘所を後にした。
採掘所から出ると案の定、あたりはオレンジ色に染まっていた。夕日に照らされた世界を見ていると何だか無性に帰りたくなってくるのは何とも不思議である。俺は急いで森を抜けると、村の中へ入っていった。
俺が村に入った頃には既に日が無くなって、辺りが少しずつ薄暗くなってきていた。いつもこの位の時間になると徐々に酒場や宿が忙しくなってくる。そんな村の様子を見ていると、労働の後ということも相まってか、ちょっと一杯やりたくなってくるんだけど、帰ったらすぐに仕事を始める予定なので我慢しなければならない。俺は後ろ髪引かれる想いで家に戻った。
家に戻ると、父親が仕事を終えて酒を煽っている。あんなに急いで飲まなくても誰も取りゃしないのにと言った事があったが、お前みたいにチビチビ飲んでたら酒も不味くなると言って相変わらずの飲みっぷりだ。
「おう、帰ったのか。お前が取ってきた鉄鉱石は少しだけ拝借しちまったが、まぁ、気にすんな」
「気にするわっ!ボケェっ!!あれだけ勝手に使うなって言っただろーがっ!!」
「お前、鍛冶師を目指すの辞めてウチの専属鉱夫になっちまいな。安く買い叩いてやるよ」
「やらねーよっ!ってか、自分で買い叩くとか言うなっ!」
この親父は、いつもこうやって俺が必死こいて採掘してきた鉄鉱石をネコババしていくのだ。最近では心なしか遠慮が無くなってきているようで、更に性質が悪い。しかも言っても聞かないので、必要最低限の鉄鉱石は予め別の場所に隠してあったりする。
………いつの間にか俺の私物入れの中に見知らぬお金が入っていたときは要注意だ。そんな時はお金と引き換えだと言わんばかりに、鉄鉱石がゴッソリ持っていかれているのだ。
話は終わりだとばかりに酒を飲み始める親父を尻目に、俺は背負っていたリュックを降ろして作業に取り掛かる。
鉄鉱石とは鉄を多く含む石であって、すべて鉄で出来ている訳ではない。だから、鉄ではなく鉄鉱石から何かを作る場合は、鉄鉱石から不純物を取り出し、鉄だけを抽出する作業が必要になってくる。
ということで、ウチの親父が何かよく分からない業者から買い付けた溶鉱炉のような設備がある。
溶鉱炉のような………と言った通り、厳密には溶鉱炉ではない。普通、溶鉱炉で出来る事といえば不純物を取り除く作業だけで、加工しやすい形に変える事は出来ない。しかも完全に不純物を取り除くことは出来ないので、二次、三次工程が必要になる。
まぁ、簡単に言えば、コーヒー豆からコーヒーを入れる作業を思い浮かべてくれれば良い。あれを何回かやらないと純度の高い鉄にはならないのだ。しかしながら、ウチにある溶鉱炉は違う。
なんと一回の精練で殆どの不純物を取り除くことができ、なおかつ持ち運びに便利なインゴットの形にすることが出来るのだ。なんというご都合便利アイテムなんだろう。溶鉱炉の仕組みについては企業秘密らしいが、何でも特殊な魔法が使われているらしい。
その溶鉱炉に使うトングにも同じように魔法が使われているらしく、他のトングでは上手く精練することが出来ないらしい。何度も言うが、なんと便利な世の中なのだろうか。
親父が勝手に鉄鉱石を拝借するので、俺も勝手に施設を使わせてもらっている。まぁ、ある意味ではギブ&テイクなのかもしれない。
俺は適当な量の鉄鉱石を溶鉱炉に入れると、さっそく精練作業に取り掛かった。