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ゾンビと婆と呪いの斧

ゾンビをあしらった俺達はこの辛気臭い部屋から飛び出す勢いでドアを蹴破った。

ドアの前で待ち伏せされてたら吹き飛ばしてやろうかと思ったのだが、考えすぎだったようで誰も居ない。

「おい、そこの役立たず。後ろでぶるぶる震えてないであの婆を探すぞ」

「震えてねーよ!!これは………なんつーか武者震いみたいなもんだよ!」

「はいはいそうですか。じゃあとっとと行きましょうね~」

とりあえず心配ないようだから、この先何があっても助けないようにしよう。そう決心した俺は1Fへと向かうために階段の方へ歩き出した。

暫く歩いていると宿屋の中が一瞬暗くなり、霧の奥からゾンビどもがワサワサと現れた。

「うひぃぃぃぃぃっ!また来たぁぁぁぁぁっ!」

キースがなにやら騒いでいるが、絶対助けないと心の中で誓った俺にとってはキースなんぞ知ったこっちゃない。

だが、ゾンビ共に遭うたびに騒がれたのでは関係ない周りのゾンビもおびき寄せてしまう為、非常に迷惑だ。というか迷惑極まりない!

「お前よっぽどゾンビが好きなんだなぁ。お前が喚くたびにゾンビがワラワラ寄って来てるぞ」

「…………」

ようやく理解したのか黙り込んだキース。

「不景気そうな面してんな。目の前のゾンビと同じ顔に見えるぞ」

余計なゾンビを増やした腹いせに軽口を叩く。それに反応して猿の尻のように真っ赤になったキースは再び喚きだした。

「ふざけんな!!俺の力を見せてやる!!お前は絶対手ぇ出すなよ!!」

そう言うなりキースは腰の剣を抜くとそのままゾンビに斬りかかった。

「そおおぉぉぉぉい!」

まさに”奇声”を発しながら腰が妙に引けてる印象的なスタイル(要するに見た目も実力も無様)でゾンビを”一刀両断”する。

「きええぇぇぇぇぇい!」

一体のゾンビを屠って調子に乗ったのか次々とゾンビに斬りかかるキース。

やはり下手糞なのか狙いを外して足を斬りつけたり手を斬り付けたりしている。剣に振り回されている感が否めない。明らかに、その剣を扱うには技術スキルが不足しているのだろう。しかし………それを補ってあまりあるのがキースブランドの鍛冶品である。

なぜか足や手を斬りつけたハズなのに、ついでとばかりに胴体までもを真っ二つにしているのだ。何をどうしたらそんな事が出来るのか”鍛冶師”の俺ですら理解の範疇を超えている。

「どうだぁッ!俺だってやれば出来るんだぜぇぇぇぇ!!ヒャッハーッ!」

あたりのゾンビを殲滅したキースはこちらに振り返り、ドヤ顔で何かを言ってきた。腹立たしいことこの上ない。

「ふーん、そうかいそうかい。がんばったねー、さすがだねー」

だから俺は、キースの後ろからゾンビ犬が嬉しそうにキースに突っ込んでくるのを教えてやらない。

ついでに言えば、わざわざキースに答えてやったのは、奴の後ろから走ってくるゾンビ犬の存在を感知させないようにする為に、言葉を掛けてキースの注意をこちらに向けさせたのである。

「そうだろそうだろ!!やっぱり俺は剣士に向いて………ギャアアアアアア!!」

背後からのゾンビ犬の急襲で悲鳴を上げるキース。

あ、そういえばコイツ「お前は絶対に手を出すな」とかホザいていたっけか。じゃあ、このまま無視して先進んでも問題ないよね。

という事で、ゾンビだけでなく犬にも頭を齧られているキースを、その場で見なかったことにしつつ階段を降りた。なにやら喚いている気がするが、多分死にはしないだろう。


キースをゾンビ犬の餌食にして1Fに降りると宿屋の扉が開け放たれ、外から霧が凄い勢いで中に入ってきているのを発見した。俺が思うに、この霧とゾンビは何かしら関係があるのではないだろうか。とはいえ、魔術の専門家でもなんでもない俺が詳しく知るわけでもないので間違っているかもしれないが。

「それよりもあのクソ婆を探さないとな………」

あの婆も含めて人の気配がしなかった。つまりあの婆もゾンビか何かなのだろう。

とりあえず婆が去って行った扉を開くと、石畳で作られた階段が現れた。もちろん上ではなく下に向かって道が伸びている。なんというか地下への階段とかホラーの王道なのかもしれないが、王都では既に食傷気味な展開であまり流行っていない。この展開の王道といえば、この先に幽霊か何かが待っている展開が多いのではないだろうか。つまり何が言いたいかというと

「あの婆!絶対にぶち殺す!!」

人は暗闇を恐れるらしい………という前置きはさておき、暗闇で脅かされたり襲われたりするのは好きじゃない。もちろん好きな人っているのか?と聞かれれば居ないだろうと即答できるが、それとは別に何というか………あんまりホラーは得意ではないのだ。

キースはゾンビを見てギャーギャーと喚いていたが、あれは列記とした「モンスター」であって「幽霊」ではないのだ。勿論、モンスターの中には「ゴースト」とか「リッチ」とかいう名称のアンデットモンスターが存在するが、あれもあくまでアンデットな「モンスター」であって「幽霊」ではないのだ。

何が違うのかと以前キースに聞かれた事もあったような無いような気もするのだが、そんなの一目瞭然じゃないか!!「モンスター」と「幽霊」は明らかに違うだろう!!

………とまぁ、話は脱線しまくったが、モンスターではなくこの先は幽霊が出そうな雰囲気を感じるので普通に怖い。だから、何かあったときの為に盾役が居た方が良いだろう。特にキースなんて体力しぶとさだけは折り紙つきで高いから、そのまま餌食にした後に逃げ出す時間まで稼いでくれるだろう。

「ちぇ、仕方ねぇな」

俺は舌打ちをすると階段を上がり、何故か5匹にまで増えていたゾンビ犬と未だに格闘しているキースを助ける。頭を齧られまくったのかは知らないが、凄い髪型になっている。

「テメェェェェェェェ!!見捨てて逃げるってどういう了見だぁぁぁぁぁぁ!!」

案の定キースに喚かれた。これ以上、このアホと係わりたくないのでさっさとトドメを刺す事にする。

「おら、どうでも良いからさっさと先に進むぞ。それともまだここに居たいってんなら別だが」

「よし、過去の事は水に流してさっさと先に進もう!!」

率先して前を歩くようになったキースに溜息を吐きつつ、再び一階へと戻った。


例の扉の前まで来る。さっき来た時と同じように何か出そうなヤバイ雰囲気を感じ取ることが出来る。

キースはその扉の前でピッタリと止まると、こちらに振り返り一言俺に向かってのたまった。

「お先にどうぞ」

「殺すぞテメー」

俺はキースを睨みつけながら剣の柄に手を伸ばす。するとさっきまでの態度が嘘だったかのように率先して階段を降りていった。俺はといえば剣を抜き放ち、いつでも敵が襲い掛かってきても対処できるように迎撃の態勢を整えながら階段を降りていった。


階段を降りた先には広い空間が広がっており、あたりにカンテラらしき物が光を湛えていた。奥には棺のような物が置かれており、更にその奥には探していた老婆の姿があった。

「とうとう見つけたぜ、このクソ婆!お前のお陰で俺は散々な目に遭ったんだかんな!!」

キースが開口一番に目の前の婆に向かって叫んだ。言われてキースの後頭部をみれば、何だかよく分からないベトベトしたモノがこびりついていた。多分、ゾンビの体液か何かだと思う。うわキタネェ。

「ふぇっふぇっふぇ………ゾンビ共の餌食にならなかったようじゃのう。此度の獲物は生きが良さそうじゃのう」

顔面土気色の婆が何か言っている。

「ふざけんなテメー!!お前のせいで死ぬところだったんだかんな!!キッチリ落とし前付けさせてやる!」

頭部を何かの体液まみれにさせながらキースが吼えた。まったくもって締まらない。いや、そんなどうでもいい事より先に、この婆に聞かないといけない事がある。

「邪悪な気配といい、この霧といい………お前の目的は何だ?ここで何をしようとしてる?」

ゆっくりと剣を構えながら俺は婆に問う。すると婆は歯っ欠けの皺くちゃな笑みを浮かべると両手を上げて答えた。

「今から死ぬアンタらには関係ないことだね。お前達、やってしまえ!!」

婆が両手を上げたまま、ブツブツと何かの呪文を唱えるとゾンビ共がわらわらとどこからともなく現れだした。しかも地下の空間でありながら凄まじい濃度の霧が立ち込めている。何か分からないが婆の術中のようだ。

「おい!!ジェラルド!!何かヤバい雰囲気っぽいんだけど!!」

「アホか!見りゃ分かるだろ!!とにかく、こいつら何とかするぞ!!」

「クソッタレ!!破れかぶれだ!!やってやるぜぇぇぇぇ!!」

キースはそう叫ぶと、今度は剣ではなく”呪いの斧”を抜き放ちヘッピリ腰で斧を構えた。

「ちょ、おま!!何でそんなモン使うんだよ!!」

「馬鹿野郎!!これが一番攻撃力が高いんだよ!!

ほれ!!前から来てるぞ、やっちまえ!!」

俺の抗議は前から迫り来るゾンビの攻撃によって邪魔されてしまった。全くもってやばすぎる。あの斧は武道大会の時もそうだったんだが、絶対に俺のタマを狙っているようにしか思えない。もし万が一にもあの斧を投げられでもしたら俺の首に飛んでくる気がしてならない。


こうして俺は、ゾンビと婆と呪いの斧に注意しながら生き残らねばならない状況へと身を投じなければならなくなったのであった。

クソッタレ!生き残ったら絶対、キースを打ち殺してやる!!

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