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濃霧に包まれた村

 あれから3時間ほど歩いただろうか…………辺りは真っ暗を通り越して永久の闇に包まれたかのような暗さになっている。そんな中を松明片手に突き進んでいる状態だ。

「このクソッタレ!村なんぞどこにも無いだろうがっ!!」

「………マジで早まったかもしれん」

 キースに怒鳴りつけるも、もはや騒ぐ元気すら無くなっていたのを確認出来ただけだった。しかも闇に加えて物凄い霧が立ち込めている。その濃度は今まで体験したことのないような薄ら寒い気配と濃さを有している。しかも微かに”邪悪な気配”も漂ってくるもんだから溜まったものじゃない。

「予感を通り越して確信に変わったな………」

 俺がポツリと呟いた台詞をキースが拾った。

「キリュウオーナーが言ってたんだが、言葉には力があって、言った事が現実に変わる事があるらしいぞ。何でも言霊っていうらしいんだが」

「…………」

 半眼で睨みつけるキースの視線と突き刺さるような言葉を感じて俺はぐったりとした気分に浸る。

「どの道お前が居る時点で”詰み”に決まってんだろ」

「ふざけんな!誰が詰みだ、誰が!………って、ジェラルド!村があったぞ!」

 二人で言い合ってる内に、いつの間にか村に到着したようだ。辺りの闇と霧が半端無いくらい濃くなってきたので凄く助かった。

           

 ようやく村まで辿り着いた頃には、霧ですっかり辺りが見えなくなっていた。俺とキースが持っている松明の明かりも、立ち込める濃霧で光が反射されて視界がすこぶる悪い。しかも真っ暗な夜中なので辺りは静まり返っている。こうなると問題は人がこの時間に起きているかどうかだろう。十中八九起きて居ない時間なので、泊めてもらうためには寝ている所をぶち起こさなければならない………そんなことしたら絶対泊めて貰えないだろうな。

「とりあえず、宿を探すぞ。民家はもってのほかだが、宿だったら店の人を起こしても多分大丈夫だろう」

 おそらく文句は言われるだろうが。

「んー?………それって、あそこにある建物がそうじゃねぇか?」

 キースが指を差した建物を見ると、薄らとだがベッドのマークが書いてある看板が入り口にぶら下がっていた。なんつー分かりやすい建物なんだ。

「よし、でかした!とりあえず入るぞ」


         

 ギィーっと嫌な音を立てて木製の扉が開いた。建物の中も真っ暗な上に何故か霧が薄らと掛かっているので視界が悪い。

「………おい、ジェラルド………なんかヤバくね?」

 キースが弱気な声を出して俺に耳打ちしてきた。キースと同じってのが嫌だが、ハッキリ言おう。

 同意権だ!!

「おや?………お客さんかえ?ようこそいらっしゃった」

「うぉっ!!」

 いきなり前方の方から声が聞こえてきた。急すぎてビックリしたわっ!!つうか、気配すらなかったぞ………真っ暗な部屋の中をよく見ると、前方にカウンターらしきものがあり、そこに一人の老婆が座っていた。何度も言うが”真っ暗な部屋の中”でだ!!

「ホラーにしか見えないんですけどォーッ!!!」

 キースが目を白黒させながら叫んだが、こればっかりはまたしても同意権だとしか言えない。

「ふぇっふぇっふぇ………どうやらここでウトウトと眠ってしまったようでのう。お客さんが来たから丁度良かったと言えるがのう」

 生気の無い瞳、顔面土気色の顔、そして黄ばんだ歯っ欠けの口でふぇふぇと笑う目の前の老婆。

「……………」

 キースが白目を剥いて立ったまま気絶している。

「と、とにかく………もうこんな時間だしここで一泊したいんだが大丈夫か?」

「ふぇふぇ………構わないよ、部屋は沢山空いてるからねぇ………ところでお連れさんとは別の部屋でええかの?」

「いや、一緒の部屋で構わない。とりあえず部屋はどこでも良いから一泊宜しく」

 店の台帳に名前を書いて老婆から鍵を借りる。鍵には「204」という数字が書かれていた。

「ふぇふぇ………あんたらの部屋はそこの階段を上がって奥の部屋だよ。それではごゆっくり………」

 そういうと老婆は音も立てずにカウンターの向こう側にある奥の部屋へと入って行った。

 あまりにも音がしないので、まるで幻でも見ていたかのような錯覚を受ける。とはいえ、鍵が手元にあるのがこれが現実だという証拠であるのだが。

「おい、いつまで気絶してんだ、このアホタレ」

 一発後頭部を殴ってキースをぶち起こす。タンコブがどうとか隣で喚いているがそんなの無視だ。

「おら、部屋取ったからさっさと行くぞ」

「理不尽だっ!!絶対理不尽だ!」

 喚き散らすキースを置いて204号室へと急いだ。


                  

 204号室の鍵を使って部屋を開けると、ウッド調のシックな内装の部屋だった。相変わらず部屋の中まで霧に包まれていたが………とはいえ、てっきりホラー屋敷のような内装かと思ったのだが、意外とまともである。

 丁度ベッドとソファーが置いてあるので、ベッドは俺が使うとしよう。

「俺はベッドで寝るからテメーはソファーで寝ろ」

「はぁ!?何言ってんだよ!

お前が勝手に同じ部屋にしたんだろーがっ!責任取ってお前がソファーで寝ろ」

 相変わらず文句が多いキースに若干辟易しながらも俺は正論を紡ぐ。

「このホラー屋敷の中、一人で部屋に泊まれるならご自由にどうぞ」

「すいませんでしたっ!!ソファーで寝ますから一人にしないでっ!!!」

 若干泣きが入ったキースの言葉に満足すると、俺はベッドの脇に荷物を置いてすぐにベッドの中に入った。いやはや、夜通し歩きまくったお陰で凄く疲れた。キースの方もそれは同じらしくソファーに寝転がった途端にイビキを掻いてさっそく寝腐りやがった!!すっげーむかつくことこの上ない。

「ふん、馬鹿が………こんな怪しい所で寝れるかっつーの」

 俺とキース、別々の部屋にしなかったのには理由がある。一つはこの村自体が怪しいことこの上ないこと。真夜中とはいえ虫の鳴き声すらしないこと。そして決定的だったのは”人の気配”がしないことだった。そんな中でキースと分断されてしまうなんていう愚行は犯さない。なんせ何かあったら身代わりに使えるんだから手元に置いておいた方が利用価値があるってもんだ。

「ぎゃあああああああああああああああッ!!!」

 そんな事を思っているとソファの方から叫び声が上がった。早速、身代わりの効果があったようだ。

 飛び起きてキースの方を見ると、頭から脳みそのようなモノを垂らした顔面土気色の男がキースの頭に齧り付いていた。

「ジェラルドォォォォォォォッ!!助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!あががががががぁ~~っ!!!」

 ………見た目は完璧なホラーなのに、キースが絡むとコメディにしか見えないのは何故だろうか。

「こんな怪しい場所で寝た罰だろっ!!ったく世話が焼けやがる!」

 俺はキースの頭に齧り付いている男の首を自慢のロングソードで刎ねてキースを助け出した。

「おいおい大丈夫か?これ以上馬鹿になっちまったら救いようがねぇぞ?」

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!もっと早く助けろよぉぉぉぉぉッ!」

 涙をダラダラ流しながら齧られていた頭を自分で撫でている。そんな事してる暇あったら消毒でもしとけっつーの。

「アホな事言ってねぇで、さっさと片付けるぞ。どうやらこれが終わらねぇと眠れねぇらしいからな」

 俺は油断無く剣を構えて注意深く辺りを見回す。

 俺達の夜はまだまだ長いようだ………

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