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紫峰山への道

             

紫峰山とは昔から霊的な何かがあると信じられている山である。山岳信仰の発祥の地とされており、王都の神官達の修行の場として有名。元は狩猟や山の幸などで生計を立てていた麓の村人達が、紫峰山の雄大さや厳しい自然環境を前に、山を神聖視し崇拝の対象としたのが始まりであると言われている。

更に、最近では王都観光庁から「パワースポット」として認定された紫峰山では、本来なら厳しい修験を行ってはじめて得られる力をその場所に詣でるだけで得られるのだ。最近では貴族や平民などの身分を問わずに巡礼を行う者達で紫峰山は活気を見せ始め、世は正にパワースポット地巡りの時代へと―――

                 

                

「すっげぇ胡散臭ぇんだけど」

「言うな………俺も読んでて段々気分が悪くなってきた」

 キースのげんなりした顔に、俺も溜息を吐く。

 今さっきまで読んでいたのは王都観光庁から紫峰山の観光案内本として公式認定された「紫峰山巡礼の旅~初級~」 という怪しいタイトルの本だ。しかも初級と銘打ってあるということは、更にその上の中級、上級などの派生本もあるに違いない。

 最初の4行辺りで見る気を無くした俺はその胡散臭い本を閉じると、相変わらずげんなりした顔のキースに本を突き返した。

「大体、下調べなんて言葉が思いつかない脳筋のお前がなんでこんな本持ってんだよ」

「誰が脳筋だ!!誰が!!

………俺の姉ちゃんに紫峰山に行くって伝えたらこの本貸してくれたんだよ」

 キースは俺が突き返した本を受け取るとさっさと自分のバックの中に仕舞う。

「それにしても………なんでこんな事になっちまったんだろうなぁ」

 俺はしみじみと噛み締めるようにその台詞を吐き出した。そもそも何で厄介事が次から次へとやってくるのだろうか………絶対、疫病神キースのせいだな。

「んなこたどうでもいいだろーが。とにかく領主様の息子の依頼なんだろ。やるしかねーだろーが」

「あぁ、もちろん依頼は受けるさ………本気で嫌だけどな!!」

 半ばヤケクソになりながらもしぶしぶ歩き始める。


                    

 エリオット・スミスの依頼を受けた後、俺達はそれぞれ準備を整えてすぐにキーロフの村から紫峰山へ向けて出発した。

 流石に少しばかり遠出となるので準備に時間が掛かったが、何とかお昼前くらいには出発出来た。そんな時に、キースの野郎が自分のバッグから取り出したのが冒頭の本だ。

 確かに俺も依頼を受けるときはたまに下調べなんぞしたものだが、この案内本は無いと思う。何か宗教染みて嫌だ。まぁ、神官の修行の場とか書いてあったから神殿との利権関係もあるのかもしれない。あまり依頼で係わりたくないな………

          


 それから小一時間ほど歩いていると、目の前にキラーラビットが飛び出してきた。有名なモンスターで、冒険者の間では広く知れ渡っている魔物だ。

 何せ特技が首切りだから。

 ………一体全体、何を言ってるのか分からねーとは思うが、人の首を刎ねる事に命を掛けてるんじゃないかってくらい、このウサギは綺麗に人の首を刎ねる。

 世界中に様々な魔物が居るが「一撃死」または「即死」の特技を持つ魔物は冒険者から恐れられている。そりゃそうだ。どんな達人だろうが防げなかったら死ぬもん。1チャンスで失敗したら死ぬなんてどこのギャンブラーだよと突っ込みをいれたい。

 このウサギは世界中に目撃例があるが、滅多に現れることがなく出会ったら逃げろと言われている魔物である。勿論、鋼鉄を仕込んだネックガードがあれば防げることもあるらしいが、今の俺達はそんなものを装備していない。

 どれだけ危険かと言うと、昔ギルドの討伐依頼で見かけた時には賞金50万ぐらいの懸賞金が掛かっていた事もある。討伐部位と呼ばれる部分をギルドに持っていけば賞金が貰えるという寸法だ(ちなみに討伐部位はキラーラビットの尻尾である。何でも幸運のお守りにもなるらしい)

 ただし、賞金50万は伊達ではなく返り討ちにあってその命を散らす冒険者も数多く居るのだ。つまり俗っぽい言い方で言えば「ボスモンスター級」のやばい魔物である。

「やっぱりテメェ疫病神じゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「うげえぇぇぇぇぇぇ!!

なんでキラーラビットが居るんだよぉぉぉぉぉ!!」

 なんでじゃねぇよ!!!

 (多分)お前が疫病神だから引き寄せちまったんだろうが!!

 そんな俺達の様子を知ってかしらずか、キラーラビットはこちらに気づいていきなり突進してきたのだ!

「うあああああっっ!!

こっちに来たぁぁぁぁぁぁっ!!ジェラルド助けてェェェェェェ!!」

「ぐあああああああっ!!

邪魔だ!!縋りつくんじゃない!!」

 こんな状況でパニックを起こしたキースは、あろうことか俺にしがみついてきやがった!!!

 最悪だ!!悪手も悪手!!

 身動きが取れない上に即死兎キラーラビットが迫ってきてやがる!!

 焦った俺は、しがみついて離れないキースの両脇に腕を突っ込み、腰周りを両腕で抱え込んで後方へ向かって渾身の力を込めてぶん投げた。

「邪魔だっつーのが聞こえねぇのかこのボケがァァァァァっ!!!」

「おごぉぉぉぉぉっ!!!」

 奇しくもフロントスープレックスとなった俺の必殺の一撃はキースを大地に沈めた。その衝撃でキースの腰に差してあった何かが吹き飛んでいった。

 そしてその何かは紫色の怪しいオーラを放ちながらこちらに突っ込んできたキラーラビットの首を一撃で刎ねたのだった。

「………………」

 キラーラビットにしてみれば、首を切りに行ったら逆に自分の首を切られたことになる。何と間抜けなとは思わなくも無かったが、相手(呪いの斧)が悪かったな………マジで。

 相変わらず紫色に染まった怪しい斧だが、今ではうっすらとキラーラビットの血がヌメヌメと光っている。心なしか斧が喜んでいるように見えるのは気のせいだろうか………

 俺は白目を剥いて悶絶しているキースに蹴りを入れて無理やり目を覚まさせると、キラーラビットの討伐部位を剥ぎ取ってその場を後にした。

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