領主の息子
早朝から珍しくテンションMAXで早起きをした。というのも理由がある。
勿論、自分の鍛冶工房を作る金が出来たからだ。今からもうワクワクが止まらない!
俺はすぐさま寝巻きを着替えて外に行く準備を整え、家を飛び出す。
そして全速力で走ったせいか、あっという間に目的の家に到着した。
「ふははははっ!
ここから俺のサクセスストーリーが始まるのだぁっ!」
起きてからずっと収まることのないハイテンションに任せて目の前のドアを蹴破る。
そして寝ていた知り合いの大工をたたき起こして無理やり工房の見積もりを依頼した。
「という訳で、金が出来たから自分の鍛冶工房を作りたい。今すぐ見積もってくれ」
「何が『という訳で』だっ!!馬鹿じゃねぇのか、今何時だと思ってんだっ!!」
そう怒鳴り散らす大工の様子にきょとんとしながら俺は時間を答える。
「早朝の3時だけど?」
「アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
出直して来いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
……………何だかよく分からないが凄まじい剣幕で追い出されてしまった。
―閑話休題―
「領主様がお前に用があるってよ。早く行ってこいや」
二度目の朝を向かえた俺は起き抜け早々に親父の顔面を見るハメになってしまった。
「ぐあっ!起き抜けにオヤジの顔面はキツイ物がある!」
「お前、ケンカ売ってんのか?」
血管を浮き出しながら自前のハンマーに手をかける目の前の親父。
「おいおい、落ち着けって。
そのハンマーはキースの(顔面を殴る)為に取っておきなって。それよりも領主様がまた呼んでるって?………はぁ、本気で嫌なんだが」
思わず溜息を吐く俺に追撃をかます親父。
「例によってキースも連れて行けよ。ちゃんとお前が責任を持つんだからな」
「げぇっ!何で俺が責任持たなきゃなんねーんだよ!
つーか、どうせ武道大会の報告しろとかっていう内容だろ?キース一人で十分じゃねぇか」
「領主様はお前とキースの二人を指名している。無理だ、諦めてさっさと行って来い。キースは既に外で待ってるぞ」
言われて工房の入り口から外を見ると満面の笑みで俺に向かって手を振っていた。
うわ、マジでキショイ。
「………何かスッゲーむかつく。いつか絶対殺す」
「なんでだよっ!!どこの世界に手ぇ振っただけで殺されるような所があるんだよっ!いいからさっさと領主様のところに行くぞっ!」
いつもの寸劇を挟みつつ嫌々ながら俺達は領主の館に向かった。
領主の館の前まで行くと歩哨が立っており、その姿を見た瞬間に以前の記憶が蘇った。
「お前、また変な事したら今度こそ殺してやるからな」
「何だよ、変な事って!失礼な奴だな!」
心外だとばかりに怒るキースだが………いやいや、領主の館の目の前で奇声を発していたお前の方こそ失礼な奴だよ。
言った所で無駄な労力になるので心の中だけで突っ込みをしつつ、キースを無視して領主の館に入った。
そこにはいつもの執事が居り、これまたいつも通りに領主の部屋へと案内された。
「おぉ、待っていたよジェラルド君、キース君。
君達の活躍は王都からの早馬で聞いたよっ!随分頑張ったそうじゃないかっ!」
柔和な笑みを浮かべて目の前のソファに座るよう促される。キースの近くに座りたくないので若干、距離を離しつつキースに次いで俺も座る。
「いやいや、実際は俺達の運が良かっただけですよ。たまたまそうなっただけです」
一応、失礼にならない程度に謙遜しておく………大体、この手合いの輩に自分の実力を話したが最後、絶対に何か厄介な依頼をしてくるに決まっているからな。厄介の芽は摘み取ってしまうに限るのだ。
「ははは、謙遜は時として皮肉にしか聞こえないよジェラルド君。君はあの”放蕩王子”を打ち破って見事優勝を果たしたのだろう?結果として中止になってしまったが、見事な物だ。キース君もジェラルド君と当たらなければもっと上位に食い込めただろう。私はとても満足しているよ」
「……はぁ、そうですか」
「あぁ、そうだとも。君の活躍のお陰でドヤ顔でのさばっていた目の上のタンコブ共のプライドをズタズタに引き裂いてやれたし、これ以上いう事無しだよハッハッハッハー!」
「そ、それは良かったですね……」
何だかヤバイ話のような気がするので適当に相槌を打っておく。こんなのに巻き込まれたら嫌だ!
ひとしきり笑ったところで領主は次の言葉を告げた。
「ところで、私が君達を呼んだのは直接お礼が言いたかったのとは別件の用事があってね。実はどちらかといえばそっちがメインなんだ」
そう言ってウィンクをしてきたが、厄介事の臭いがプンプンするぞっ!ここは先手を打って断――
「何でしょうか?領主様」
「なっ!!」
思いもかけない所からの下手打ち―――つまりキースの余計な一言が入ってしまった。
「おぉ!聞いてくれるか、そうかそうか。いやはや助かるよ!実はね、私の息子………レイオットが君達に是非とも会って頼みたいことがあると言っていてね。悪いが、今から会って貰えないだろうか?」
全然悪いとは思っていないようにサラっとした一言を言われた………でも、思っていたほど厄介そうな案件じゃない気がする。ちょっとだけほっとした。
「別に良いっすよ~。話くらい聞きますから。」
「っ!?」
思考の海に沈んでいたら、いつの間にかキースが二つ返事で勝手に了承しやがった。
キースが係わると厄介事になるから、油断は禁物だな………
「そうかそうか!いやはや、助かるよ!それではセバス!早速二人を息子のところへ案内してやってくれ」
執事はかしこまりましたと一言述べた後、俺達を案内した。話を聞くにどうやら地下にいるらしい。
暫く歩いていると降りの階段が現れた。階段の下を見れば、薄暗いなんてものじゃないどころか、目の前が真っ暗闇だった。執事はどこともなくカンテラを取り出し、火をつけて俺達の前を先行した。
「うへ~………外は雲ひとつ無い快晴だっつーのに、ここは真っ暗じゃねぇか。何かお化けでも出そうだな………」
「出るかバカ。そんな事よりも、気軽に安請け合いしやがって!厄介事だったらどうしてくれるんだよ!」
俺は執事がいるのもお構いなしにキースを怒鳴りつける。
「えー?良いじゃん話聞くくらいよー。それに人に頼られるのって何か格好良くね?こうさ、『凄腕の持ち主が頼られる』っぽくてさ」
「しょーもねぇ理由で安請け合いするな、このアホンダラっ!」
「お二人様、着きましたよ」
言い争ってるウチに、どうやら目的地に着いたようだ。まったく………どんな厄介事を押し付けられるやら。嫌だなぁ、本当に。
「それでは、私はこの辺で失礼致します」
「え?」
突然、失礼しますなんて言い出してどうしたんだ?
いや、まさか………おいおい執事さんよ。こんな真っ暗闇の薄暗い空間に俺達を残して帰っちゃうのかい?
と、そんな事を思っていたら突然、執事は指をパチンとならすとカンテラの明かりを残して『消えてしまった』のだった。
「…………………」
「…………………」
真っ暗闇の閉鎖された空間の中で見詰め合う俺達。そしてあまりの”ありえない”出来事に恐慌状態に陥った。
「うぎゃああああああああああああああああっ!!お化けえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
「うあああああああああああああっ!!!お化けなんていないいないいないぃぃぃぃ!!!」
二人して恐慌状態に陥っているとカンテラの明かりに照らし出されていた木の扉が突然ギィィっと不快な音を立てて開いた。
「っ!!」
顔面蒼白で扉を凝視する。程無くしてそこから一人の男が現れた。
「ようこそ、僕の研究室へ………………
ふむふむ、その様子を見るからに、どうやら僕がセバスに教えた魔術で見事に”化かされた”ようだね。
…………だけど、そんなに叫ぶほどお化けがお望だって言うなら、本当に出してやっても良いんけどね………ククククク」
人の悪い笑みを浮かべて現れたのは、この村の領主の息子―――エリオット・スミスだった。