コウモリ来襲
鼻歌を歌いながらツルハシを片手に山へ登って行く。鍛冶をしている最中も有意義な時間だとは思うが、採掘も嫌いじゃない。何も考えずに、ひたすらツルハシを振るって鉄鉱石を掘り出す地味な作業は、思いのほか性にあっていると思う。
俺は採掘場(俺が勝手にそう呼んでいる)に入ると、ナップザックに入れておいたカンテラを中から出して火を付けた。その後、こうこうと仄かな光を湛えて燃えるカンテラを、天上に吊るしてあるロープに掛けて固定し、ナップザックを木製の椅子の上に放ったら、ツルハシを使って採掘を開始するのだ。
大規模な採掘会社が行う採掘方法と比べれば原始的で非効率なやり方だが、一番手っ取り早い鉄鉱石の採掘方法でもある。
俺はツルハシを持つ手に力を入れて、ひたすら壁を掘り続けた。
暫く無心で掘っていると、バタバタと騒がしい羽の音が聞こえてきた。
以前この採掘場を根城にしていたベアウルフ達を掃討し、あらかたの危険は取り除いては居たが、もともと瘴気が溜まりやすい空間である。そのため、瘴気に釣られた魔物達がこの場所に集まってきてしまうのだ。
やがて、大きな羽ばたく音と共に洞窟の奥から異様な大きさのコウモリが複数現れた。
姿形がコウモリっぽいから勝手にコウモリって呼んでるだけで、コウモリとは別の生き物だ。学者が付けた長ったらしい正式名称があるらしいが、一言で言えばあれはれっきとした魔物だ。
こいつらがただのコウモリではなく、魔物だという証の一つに人間を見つけ次第必ず襲ってくるという特徴がある。一般人が相手なら逃げた方が良い獰猛さと危険度を誇るが、俺が相手ならば大したことは無い………のだが、必ず複数で相手を襲う習性があるのでうざったいことこの上ない。
俺はツルハシを投げ捨てると、腰に差してある親父手製の片手剣を引き抜く。いわゆるロングソードという奴だ。
ロングソードといってもショートソードに比べれば長いってだけの話で、刃渡りは大体80cm位の代物だ。
実際、両手剣ともなれば刃渡り1mを越える物が多い。とはいえ、武器の分類なんて大体がそれぞれの鍛冶屋によって違うから、刃渡りも違えば柄の長さも若干違う。そして極めつけは切れ味も違うって訳だ。
親父の作った代物が他の鍛冶屋の作るロングソードと刃渡りがどの程度違うかなんて知らないけど、切れ味だけはトップクラスの実力を持っていることは知っている。今までの魔物を斬ってきた経験で大いに身をもって知っているのだ。
どんな窮地に陥っても、この素晴らしい切れ味に何度助けられたことか数え切れない。俺はそんな親父が自慢なのだ。
………と、コウモリ共を放っておいて色々考えたら奴さん達が素早く先手を取ってきた。
一見して不規則な動きで相手を惑わせ、その隙を突いて攻撃をするタイプの魔物だが、実は動きに規則性があったりする。
その単調が動きにあわせて剣を振るえば………ご覧の通り、一振りで3匹も仕留められるというわけだ。
種を明せばなんてことはない。このコウモリ、攻撃を仕掛けてくる時は必ず複数で同時に攻撃をしてくるのだ。そこをチョチョイと仕留めれば一気に片付くってもんだ。とはいえ、目の前をウロチョロされれば鬱陶しいことに変わりはない。かといって放っておく訳にも行かない。つまり処理が面倒だということだ。
あっという間にコウモリ的な何かを倒してしまった訳だが、爺曰く上級者の戦い方は更に一工夫あって、敢えて襲う隙を見せることによって油断を誘い、一緒になって横一列で攻撃してきたところにカウンターをぶち込む戦法の方が早く片付くらしい。
もちろん襲う隙を見せるというのは、「隙があるように見せる」事であり、爺を見ていれば分かるんだが、実際は隙なんてあったもんじゃない。爺の戦闘スタイルの基本らしいが、やり方がえげつなさすぎる。
仮にも英雄とか言われてる人間が、実は目潰しだろうがだまし討ちだろうが、それが有効な手であれば躊躇無く使う。
爺と試合する時はいつもあのトリッキーな動きやキチ○イ地味た行動によって翻弄されて終わるが、一方的にやられている俺の様子を見たウチの親父が俺を見るなり、ボロ雑巾の方がまだマシな姿だと評価した事がある。
………まぁ、話が脱線してしまったが、とにかくここらに出てくる魔物は俺にとって何の障害にもならないのだ。
粗方のコウモリを切って伏せると、残りのコウモリ達が全て逃げ出した。それでも念のため、他にも敵は居ないか確認した後、ようやく俺はロングソードに付着したコウモリ共の体液を拭って剣を鞘に戻した。
「さぁ~って、邪魔者も居なくなったし、掘りまくるぞ~!」
気合を入れた俺は、再びツルハシを振るって鉄鉱石を掘り続けたのだった。