戦い終わって
真っ赤な赤い絨毯。目がチカチカするほどのシャンデリアの明かり。辺りを見回せば、高そうな調度品がずらりとそこかしこに並んでいる。そして――――――
「はぐっ………はぐっ………ごくんっ!
うんめえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
………ついでではあるが、目の前のソファーに座ってケーキだのクッキーだのを獣のようにむさぼり食っている見苦しい生き物はキースである。
まぁ、それはさておき、お分かり頂けるであろうか?
このような豪華としか言いようの無い部屋は、俺ら平民がそうそうお目にかかれないような部屋だろう。じゃあ何でそんな部屋に居るのかというと、俺が武道大会の決勝戦で戦った相手のせいである。
とりあえず俺がマイスとかいう野郎を場外までぶっ飛ばした所までは良かったんだが、でもその後の展開がまずかった。
なんとマイスとかいう男の正体はこの国の第一王子だったとかで、何だかよく分からんが城の中にキースもろとも連行されちまった。
って、そんなもん不可抗力じゃねぇかっ!!
そもそも王子の癖に大会に出場した挙句、傷つけたら拘束するって理不尽すぎるだろっ!!
幸いにも牢屋にぶち込まれてないとはいえ、ここから出してくれない兵士の様子を見るとどう処遇するのか未だに決まっていないのだろう。
まぁ、何にせよ王城で理不尽を騒いでもロクなことにはならない。たとえこんな豪華な部屋でVIP待遇のような扱いを受けていたとしても状況が状況だ。誰だって楽しめるはずもないだろう。
不快だが、ここは我慢するしかないな…………
「うめぇぇぇっ!!!おかわりぃっ!!」
「………………………」
訂正…………俺の隣で、今の状況を満喫出来るツワモノが居たようだ。
暫く待っていると俺がぶっ飛ばした王子が何人かの兵士を伴って部屋に現れた。俺が目の前でがっついてるアホから視線を外して王子に目を向けると、王子は申し訳なさそうな顔で頭をかきながらどっかりとソファに座ってきた。
「いや~、すまなかったね~。ここに軟禁するような真似をしちゃってさ~」
そしていつの間にか用意されていた紅茶らしきものを優雅に一口飲むと俺の反応をうかがうように見つめてきた。
軟禁するような真似をしちゃってとかホザいてるけど『真似』じゃなくて監禁『そのもの』だから言葉の使い方間違ってるぞキサマ。
「そんな事よりも、どうして王子(の癖に)が武道大会に出場してたんですか?」
こんな目にあった元凶を作った犯人にまずはその事を聞いてみる。その質問を受けて王子また頭をポリポリと掻きながらこう答えた。
「いや、一度出てみたかったから」
は?
「それだけですか?」
「それだけだよ?」
「………………………………」
チーン
会話終了。
「いやいやいやいや、聞くところはソコじゃないだろ、ジェラルドよ。それよりも俺らがこれからどうなるか聞くべきだと思うぞ」
あんまりな王子の発言にどんな暴言を吐いてやろうかと思っていたら、いきなり会話に入ってきたアホ(顔にクリームが付いている)が至極もっともな事を言ってきた。
くそう命びろいしたなこのクソ王子が。
「あぁ、それならもう城から出て良いことになったよ。僕に剣を向けた不敬な輩は排除すべきっ!とかいってる過激派を抑えたからとりあえずもう心配はいらないよ」
ニッコリ笑って俗に言う王子スマイルを見せてくるが…………いやいやいや、過激派ってなんだよっ!!ってか排除って何されるんだよっ!!どうせ排除するならキースだけにしてくれっ!!
「あぁっ!!そうだっ!!それと王子様………武道大会って結局どうなったの?」
思い出したように再び質問するキースに今度は思案顔になる王子。
そういえば、ころころ表情が変わるところといい、発言行動その他諸々が目の前に座っているキースと少し被っている気がする………顔がイケメンなだけに残念王子ってところか?
「うーんそれなんだけどねぇ………申し訳ないんだけど、今期の武道大会は僕のせいで中止になっちゃったんだ」
テヘ☆ペロ☆
っと舌を出しながらウィンクをする金髪碧眼の王子。
駄目だこいつ、キースもろとも何とかしないと……………
「まぁ、そんな事はどうでもいいんですがとにかく城から出れるのであれば、俺は帰ります。それじゃお元気で」
もうこれ以上の厄介ごとに係わる気がないので早々に立ち去ることにする。
そもそも武道大会に出場せにゃならん事になった所から、すべてのケチが付いて回っている気がする。 とにかくもうこれ以上は何もないと信じて宿に一刻でも早く帰りたい。
「あぁ、ちょっと待ってよ」
肩を思いっきりガッと掴みながら呼び止める王子。めちゃくちゃ指が肩に食い込んでるんだが、お前ケンカ売ってるだろ。表に出るか?この野郎。
「武道大会の優勝者には賞金5千万ゴールドが授賞式で授与されるんだけど僕のせいでふいになっちゃったでしょ?だから、ギルドを通して君の口座にソレを振り込んでおいたからヨロシク☆」
「へー、そうなんだー…………んんっ!?」
あまりにもさらりと流すように言った台詞だったので、聞き流しそうになったが………
「5000万ゴールドォォォォォォォォっ!!!!何それぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
俺はその途方も無い金額に吃驚しすぎてキースのように奇声を上げてしまった。
ってか何だよ5000万ゴールドって何っ!!!
キーロフの村だったら土地付き一軒家を買ってもお釣りがくるんですけどっ!!!
それよりも、そもそも優勝者って何か貰えたりしたのっ!?
そういえば今更になって気づいたんだけど………俺ってば、賞金があるとかなにが貰えるのかとか全然知らないで出場してたんだ。
「何って優勝賞金の額に決まってるでしょう。2位は3000万ゴールドで3位が1000万ゴールドだよ。ちなみに授賞式が中止になっただけで、賞金だけは各々の参加者に支払われてるから国への不満は最小限に抑えてあるよ」
いや、そんな事聞いてねぇし………それにしても5000万ゴールドか。なにやら考え深いものがある。何に使おうか今からニヤニヤが止まらない気がする。そんな中、キースがニコニコしながら王子に近づいてきた。
「ちなみに俺には何かあるんですか?」
「え?………あぁ、まぁ、ある事はあるよ。それもギルドに預けてあるから行ってみるといいよ」
「いよっっしゃああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!さぁ、ジェラルドよっ!!今すぐ確認しに行こうっ!!むしろ行こうっ!!ってか行くしかないっ!!」
「おい、何を叫んでって、うわぁっ!!」
キースは俺の手を掴むと普段では考えられないようなバカ力で城の外へと連行されてしまった。
後には苦笑いを浮かべる王子が残されていたという。
―10分後―
その後、途中でキースの頭をぶん殴って離脱に成功したジェラルドが見たものは、英雄の間のマスコットキャラクター「ウサギ猫君」(武道大会参加賞)を右手にぶらさげながら、ギルドのソファで真っ白に燃え尽きていたキースの姿だったという。