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閑話~その頃、工房では~ ―三人称視点―

 ジェラルドが王都で決勝戦を戦っている頃、キーロフの村に一人の男がやってきた。その男は浅黒い肌に、この辺では見慣れない服装をしていた。


 頭にはターバンなる不思議な布を巻いており、上半身は白地のカットソーに青色のベストを着込んでいる。

 下はカットソーに合わせた白地の動き安そうなパンツに、少し先の尖った黒い紳士靴を履いていた。


 そんな珍しい服装で歩いている男は当然、不躾な眼差しで四方八方から見られていた。勿論、男はそれらの視線に気づいてはいたが、そんなものはなんのそのと言わんばかりに村の奥へと入って行った。


            


 暫く歩いていると、小高い丘に一軒の工房が見えてくる。


 男はどうやらそこに用があるらしい。


 男が無遠慮に扉を開けると開口一番に部屋の主から罵声が浴びせられた。


「若造っ!!また来やがったかっ!!

何度来ても結果は同じだぞっ!!」


 部屋の主であるギリアム・マクラレンことジェラルドの親父はいきなり工房に入ってきた男に顔をしかめた。


「そう言われましても、そこを何とかお願いしますよ~」


「駄目なものは駄目だっ!帰れっ!!」


 取り付く島も無いギリアムの様子に流石の男も苦笑いを浮かべる。


「ギリアム殿やキース殿の鍛冶品なら王都で一番になれるでしょうに………なぜ商取引に応じてくれないんですか」

「そんなもん、メンドクセーからに決まってんだろーがっ!帰れ若造っ!!」

「またまたそんな事言って~。

それに私の名前はムスターファだと言ってるでしょう。3日も足を運んでるんですから、いい加減覚えてくださいよ~」

「テメェの名前なんぞ覚えるまでもねぇ。若造で十分だ」

 それっきりプイッと背中を向けてしまったギリアムに再び苦笑いを浮かべると、暫く来れないですが必ずまた来ますと一言残してムスターファは工房を後にした。


 このムスターファという男は、ジェラルド達と丁度入れ違いにこの工房に来るようになった王都に店を構える商人である。

 様々な商人達がギリアムの鍛冶品に魅了され、商品を仕入れようとあの手この手で勧誘を行った事もあったが、そのいずれもすべて断られ、商人たちの間では説得は無理だという見解に至っていた。

 だれもかれもが諦める中、このムスターファという男はそれを承知で三日前からここに来るようになった。もちろん、ギリアム達の鍛冶品を仕入れる交渉を行う為である。

 しかし結果は未だに出ていない様子であったが………

「はぁ………最終日も空振りかぁ。

仕方がない。最後もここに寄るか………」

 そう言ってムスターファが訪れたのは、ギリアムの鍛冶工房の隣にある一軒の武具屋だった。男が中に入ると一人の老人が店番をしている姿があった。

「ごめんください」

「あらら、また来たってことは今日もダメだったって訳かい?」

「ははは、良く分かりましたね。マギルさんの言う通りですよ」

 半ば癖になりかけている苦笑をしているとその様子を見て老人マギルはニヤリと笑った。

「アンタも大概物好きってもんだよ?

あのギリアムと余所者のアンタが取引しようってんだから」

「そう言われましてもねぇ………あれだけの鍛冶品を見てしまった後では色んな物が霞んで見えてしまいますよ………ちょうど、この店で取り扱ってる【包丁】一本であってもね」

 男が店に置いてある包丁を一本手に取った。

「あぁ、その包丁はギリアムが作った包丁だね。

なんていうか………売ってる俺がいうのも何だけど、滅多なことじゃ刃こぼれ一つ付きゃしないんだから商売上がったりだよ」

 そう言って今度はマギルのほうが苦笑する。

 武具屋なのになぜ包丁?と思わないでもないが、この店の半分以上は日用雑貨に分類されるであろう金物製品であふれている。というのも、村人たちの要望があって取り扱うようになったのが始まりであったのだが、武具よりこちらの方が売れる為、今では店の半分以上を占めるようになってしまった………というのが実情だが。

「まぁ、包丁一本とっても普通とは違いますからね。彼らの製品は。とはいえ、明日から王都の方で用事が立て込んじゃって、暫くはこっちに来れそうにないんですけどね………」

 そう言って金貨の入った袋をマギルに渡す。マギルは金貨の大部分を突っ返しながら商品をムスターファの為に包んでやる。

「………アンタも大概とぼけてるねぇ。

これも毎度のやり取りになるんだが、余所者のお前さんに渡してやる数ってのはギリアムの奴が決めてるからの。悪いがこれだけしかアイツ等の商品は渡せないよ」

 マギルは日用雑貨と武具を包んだ袋をムスターファに渡した。それはムスターファが望んでいる量の1/10にも満たない量であった。

「いやはや徹底してますね~。

少しくらい色をつけてくれても良いじゃないですか~」

「馬鹿め。そんなことしたらギリアムと今後取引してもらえなくなっちまうだろう。これも何度も言ってるが、ギリアムを説得した後だったら幾らでもアンタに商品を卸してやるよ」

「ははは、それができたらいいんですけどね~………」

 苦笑いを浮かべるムスターファを尻目に、マギルは鉄製のロングソードを10本ほど乱暴に縄でくくった後ムスターファに渡した。

「後、これはギリアムとキースが作った物じゃないから、こいつだったら無制限でお前さんのところに卸してやれるよ」

「あぁ、”それ”が昨日言ってた商品ですね」

 ムスターファは縄でくくってあるロングソードの一本を引き抜いた。

 ギリアムやキースの鍛冶品と比べればはるかに見劣りするが、すらりとした刀身には一点の曇りもなく切れ味もよさそうな一品だ。それがギリアムやキースの鍛冶品の1/10以下の値段で売られている。これにはさすがのムスターファも驚いた。

「こんな値段で良いんですかっ!?

見たところ、そこそこ良い剣の出来だと思うのですが?」

 ムスターファの見立てでは、王都にある二流所の武具店で扱っているロングソードよりもやや上であると見立てていた。つまり業物とまではいかないが、売りに出せば普通に人気商品になるくらいの出来であったのだ。

「あぁ、”そいつ”は良いんだよ。特にギリアムに何も言われてねぇからな」

「おぉ………これは良い商売になりそうですね。これからもよろしくお願いします」

「あぁ、そんなもんだったら幾らでも卸してやるからよ。暫く会えなくなるのは寂しいが、また今度来なよ、兄ちゃん」

 そう言ってマギルは微笑みながら浅黒い肌の青年を見送る。

 その青年が背負っているロングソードの柄の部分には”G”というイニシャルが彫られていた。

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