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sniper on the roof ―三人称視点―

 武道大会の会場にして英雄の間と呼ばれる建物。その屋上に一人の怪しい影があった。


 実際、怪しいというだけあって見るからに怪しい。何せ全身を迷彩服という都市を歩くには不釣合いな服を着込み、挙句の果てにその背中には布で包まっている巨大な”何か”を背負っているのだ。

 その不審な男は布から”何か”を取り出すと屋上から見下ろした先―――会場を見る。

「まったく………面倒な事になりましたね」

 男はそう呟くと会場に向けて背負っていた物を構える。それは銃だった。

「まさかまさかとは思っていましたが、一国の王子が怪我をするかもしれない大会に出場するだなんて………認識阻害を看破する”ディスペルリング”を持ってなかったら見つけられなかった事でしょうよ」

 人差し指に収まっている銀色のリングを一瞥した男は、その視線をゆっくりと”標的”へと変える。


         

男が見つめる先には二人の男が対峙していた。

一人は我らが主人公、ジェラルド・マクラレン。

そしてもう一人はマイス・ウッドロック選手。

男はマイスの方を険しい表情で睨んでいる。今にも何かの拍子で引き金を引いてしまいそうな危うさも感じられた。

「王子のお陰で欲しかった銃も手に入りましたが、よくよく考えてみれば王子に情報を渡したのは不味かったですね・・・・・・・・・現にバレたら僕のクビが飛んでしまうかもしれませんし」

 そうならないように今ここに居るんですけどね、と誰に言うでもなくポツリと呟く。実際問題として、彼に認識阻害のイヤリングがある事を王子にリークしたのは彼だった。

 とどのつまり、迷彩服を着込み馬鹿でかい銃を背負って屋上に陣取ったのは他でもない大会運営委員長の秘書であるチャーリー君だったのである。

 なぜチャーリー君がこんな所にいるのかというと、とあるミッションを遂行する為であった。その標的とはジェラルドと対峙しているマイス・ウッドロック選手(王子)であったのだ。

「バレてクビになるくらいなら、事故を装って”消した”方が良いですからね・・・・・・・・・」

 物騒な笑みを浮かべながら好機を伺うチャーリー君。

 幸運な事にM99オウルライフルは隠密性に特化した銃なので弾道も他の銃の追随を許さない程に早く、それこそ”目にも留まらない速さ”で標的を射抜く為、誰の目にもとどまることは無いだろう。

 それに銃の音はチャーリー君の暗殺スキル(サイレント系魔法)で消せるので問題は無い。無いのだが、流石に四方を観客に見られている為に下手な事は出来ない。

 それこそ自然に標的を射抜くチャンスは一回あるかないかだろう。

 試合が動き出してから、チャーリー君はじっとチャンスを伺った。

 スナイパーは忍耐が求められる。

 昔読んだ本にそう書いてあったような気がしたなと、チャーリー君はふと思い出した。

 



           

 暫くして王子がジャイアントスウィングで吹っ飛ばされた時は、もう終わってしまったのかと思って冷や冷やしたが、まだまだ王子は元気なようだ。

 あまりに王子の対戦相手が意表をついた攻撃を繰り出したのでチャンスを逃してしまったが、今度こそ逃してたまるものかと身構えるチャーリー君。

 そして対戦相手のジェラルドが妙な格好(抜刀の構え)をした瞬間に、チャーリー君の第六感がチャンスは今だと告げる。そして、ジェラルドが放った銀色の衝撃波は目の前の王子にぶち当たった。

「にゃぁっ!

なんだとぉぉぉぉぉぉぉ」


            

「あ、王子が噛んだ………すっげーダサい………」

 などと言ってる内に場外まで吹っ飛ばす勢いですっ飛んでいく王子。

 それを見て好機だと悟ったチャーリー君は、真剣な表情で狙いを定めて引き金を絞った。


            

 弾道は銃口から勢いよく飛び出し、ジェラルドの頭を掠めて”標的”を襲った。

 標的は木っ端微塵に砕かれ、もはや原型を留めていない。

 チャーリー君の標的だった認識阻害のイヤリングは消滅したのだ。


「ふふふ・・・・・・・・・これで何の心配もなく銃を愛でる事が出来るという訳ですね・・・・・・・・・くくくくっ!!はっはっはっはっはっはっ!!」


       

 チャーリー君はひとしきり屋上で笑うと、銃を布で包んで屋上を後にした。

                        

 ちなみに、迷彩服を着て街を闊歩するチャーリー君の姿は多数の人々に目撃され、彼は頭がおかしくなったなどという妙な噂が立ったのはまた別の話である。


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