決勝戦当日その5
目の前の金髪野郎は俺の一撃を喰らってもなお立ち上がってきやがった。
流石は決勝戦に勝ち残ってきただけあって無駄にしぶとい(”強い”ではない。あくまで”しぶとい”)
もう終わりだと思ったのに、まだまだ頑張らなければならないなんて………きっと今の俺はとてつもなくうんざりした顔をしている事だろう。
何せこれで七面倒くさい厄介事が全て終わったかと思ったのに未だ終わっていなかったのだ。もうさっさと終わらせて家に帰りたい………
「しつこい奴だ。そのままくたばっていれば良い物を………」
これでもかというくらいの怨嗟を込めて目の前の金髪野郎を睨みつける。目の前の男も顔面を強打したせいか、心なしかこちらを睨んでくる顔が凄い形相になっているように思える。
「おおっっとっ!!!!
マイス・ウッドロック選手立ち上がったぁぁぁぁぁぁっ!!
それでは、10カウント取られていない為、試合を続行致しますっ!!」
まったく………厄日だな今日は。
「さっきは油断したけど………今度こそ本気で行くよっ!」
そう言って金髪野郎は凄まじいスピードで間合いを詰めてきた。
「さぁっ!!面白くなってきましたっ!!
華麗なる連撃を見せたマイス選手、そしてその連撃を見事なカウンター(ジャイアントスウィング)で返した異色の格闘家ジェラルド選手の攻防が再び始まりますっ!!」
レフェリーの宣言と共に、わああああっと会場が沸いた。
「うるせーっ!!誰が異色の格闘家だっ!!」
急に間合いを詰めてきた金髪野郎の剣を半身で反らしながらレフェリーと観衆共に突っ込みを入れる。 何度も言うが、誰が異色の格闘家だ。今までの事を思い出してみろよレフェリーっ!!
まず一回戦目だろ………あれは相手の飛び道具(薬剤)が無くなるまで回避しただけだったか。
えーと気を取り直して………キースとの準決勝戦は、剣も使ったけど最後はラリアットで決めたっけな………
最後に今回の決勝戦だと、さっき出した技がジャイアントスウィングだったな。
って、ほとんど剣の出番がない上に格闘技ばっかりじゃないか………
もしかしてそれで異色の格闘家とか言われたのか??
いやいやいや、大事な所はソコじゃない。
何せ一番忘れてはならない大事な所が抜けている。
俺は剣士でも異色の格闘家でも無いのだ。
「俺は鍛冶師だっつーのっ!!!!」
この会場に居る全員に突っ込みを入れつつ、金髪野郎の隙をついて剣を抜き放つ。
親父が打った自慢のロングソードが煌いた。
「っ!!」
場の空気が変わったことを感じ取ったのか、金髪野郎が間合いをとる。
………っち、このまま攻めてきやがったら剣戟に付き合ってやろうと思っていたのに残念だ。だが、そっちがその気なら俺にも考えがある。
「ふん………そう来たか」
俺はニヤリと笑みを浮かべると、折角抜き放った剣を鞘に戻し抜刀の構えをとった。それを見て取った金髪野郎は一気に警戒を顕にした。
「何を企んでいる………」
金髪野郎の頬から一滴の汗が滴り落ちる。
好きなだけ警戒してくれても良いが、これを避けられるかな?
「今に分かるさ」
その一言を合図に、俺は神速の抜刀術を繰り出した。振り払ったロングソードの刀身から銀色の衝撃波が繰り出された。
「にゃぁっ!!なんだとぉぉぉぉぉっ!!」
あ、こいつ言い直したけど噛んだな。
衝撃波はそのまま金髪野郎を包み込み場外まで吹っ飛ばした。
その時だ。
「っ!?」
後ろから殺気を感じた俺は咄嗟にその場に伏せた。
その時、丁度俺の後ろから一筋の閃光が通過しソレは金髪野郎の耳を掠めた。
すると―パリン―という何かが弾けたような音が聞こえたような気がした。
それは一瞬の出来事で、観衆には何が起こったかわからないだろう(事実、観衆の目には金髪野郎が場外に吹っ飛された事しか見えていなかった)
あれは一体………いや、気のせいだな。
とりあえず今度こそ俺の肩に圧し掛かっていた厄介ごとの全てを降ろすことに成功したようだ。
後はレフェリーがさっさと宣言するだけ………
ほら、さっさと”アレ”を言えよ。
シーンと静まり返る場内。
その中でいち早く立ち直ったレフェリーは、今期大会始まって以来の一番大きな声で場内に宣言した。
『勝者 ジェラルド・マクラレン選手!』