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決勝戦当日その3

 朝目が覚めるといつの間に帰ってきてたのか、キースがソファで寝ていた。俺との対戦で地面にもんどり打った箇所がアザになっているようだが………知ったことではないな。うん。

 そんな事よりも、今日一日が憂鬱過ぎて嫌になる。何せ、出たくも無い武道大会になんぞ出なけりゃならんからだ。

 しかも決勝戦に出場だなんて悪夢過ぎる!

 もはや俺の想定の範囲外だ!

 さっさと一回戦で負けてれば、こんなことにはならなかったのに……悔やんでも悔やみきれない想いが体からダダ漏れているだろう。

        


 だというのに、目の前でイビキをかいてるアホンダラといえば、気長に武道大会が終わるのを待っていれば良いだけの羨ましい身分。

 一言ふざけるなと言いたい。代われるモノなら代わりやがれってんだ。

 もし仮に………キースと立場を逆転させられるとしたら俺はこの後、今日一日を使って王都を見て歩いていたことだろう。やはり王都というだけあって様々な物が集まっているから、さぞかし見ごたえがあるだろう。

 そして一番のお目当てはなんと言っても鍛冶品を見ること。

 特に俺が一番見たいと思っているのは、名工の手によって作り出された武具だ。もちろん、鍛冶品といえば包丁や家庭用に使われる鍋なんかもある訳なんだが、武道大会期間中とくれば殆ど武具が売られるようになる時期だし、狙い目としては丁度良い選択だろう。

 それにキーロフの村と違って、ここに来れば多種多様な名工の作品を目にすることが出来るのも嬉しい特典だろう。例え手に取ることができなかったとしても、優れた作品をこの目で見るだけでも勉強になるのは間違いない。

 うちの親父も大概馬鹿みたいな凄い作品ばかり作っているとはいえ、やはり他の鍛冶師がどういった物を作り出しているのかを見てみたいのだ。

                  

「とはいえ、実際にそれが出来ればの話だけどね~…………」

 もちろん、そんな夢のような計画を立てても出来ないのであれば意味が無い。

 何せ今日一日は武道大会決勝というクソ下らない催し物のせいで、俺の貴重にして大切な一日が潰れてしまうんだからな。

 とはいえ、時間なんて試合が終わった後にでも取れば良いと思う人も居るだろう。

 確かに武道大会が終わってからなら時間も取れるだろう。だが、開催期間中しか露店が出てない店もあるし、そういった店に限って見てみたい品を扱ってたりするもんだから、やっぱり少なからず”ケチ”が付きまとうのは間違いない。それこそ悔やんでも悔やみきれない。

 しかも滅多に来ない王都である上に、武道大会期間中になんぞ王都を訪れたことも無かったので、これが生まれて始めてのチャンスだったという訳だ。しかも知らずにチャンスを逃すのではなく、逃すと分かっているのに何も出来ず、俺の目の前で”見せ付けるように”みすみす獲物を逃がしてしまうようなものだ。もう笑うしかない。

 こんなことなら、時間がある時にでも露店を見てくれば良かった………まぁ、今更後悔したところでもう遅い訳だが。

「…………クソっ!どうしてこういつもいつも上手くいかないんだっ!!」

 キリュウオーナーから依頼された仕事をこなしてから、こんな大会に出るハメになってしまったりと本当にツイていない。

 そんなはけ口の無いモヤモヤとした気持ち悪い感情が俺の中を駆け巡る。どうして俺ばっかりこんな目に遭うんだ!!クソっ!!

 もはや笑ってもいられないというか………段々と無性に腹が立ってきた。

 そんな中、ふと目の前の男が幸せそうな顔をして寝ている姿を見てしまう。

 方や今日一日ケチが付きまとう事が決定している俺。

 それに対し、今日一日自分の好き勝手なことが出来る男が目の前に居る。


「……………………」



 とりあえず、抑えきれなくなった感情の”捌け口”が目の前にある事だけは確かなようだ。




「よ~し、何だか今日は凄~く”気分が良い”俺が親切にも起こしてやるとしようか」

 俺は部屋全体を軽く一瞥すると、キースを起こすのに丁度いいアイテムを見つけた。

「お、いい物みっけ~」

 そして俺は部屋においてあった花瓶をひっ掴む。

「よし、起きやがれクソ野郎」

 そう言って俺は迷うことなくキースの顔面目掛けて花瓶の水を全てぶちまけた。

                       


「オゥアォっ!!!!!」           




 顔面から水を被ったキースは気持ち悪い奇妙な奇声を上げてソファーの上で海老反りになり、哀れ、そのまま床に転げ落ちた。

 ………いやはや、海老反り状態のままソファの上で飛び跳ねるなんて、随分と器用なマネをしやがる。

「おはようクソッタレ。もう朝だから起こしたやったぞ」

 花瓶を片手にキースに向かってサムズアップした。

「ふざけんなあああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!何しやがるっ!!」

 顔面と上半身をグショグショに濡らしながらソファから飛び起きたキースは俺に向かって叫ぶ。

「何しやがるも何も起こしてやっただけじゃないか。ほら、さっさと飯食いに行くぞ」

 そういって俺は後ろで喚いてるキースを放って1階へと降りて行った。


              

 一階へと降りると、カレンさんがいつものようにキッチンで忙しなく料理をしていた。

「あら?早いわね~。

今出来上がるから、もうちょっとだけ待っててね」

 キッチンからは美味しそうな魚の匂いが漂ってきた。

「今日は魚なんですね。楽しみに待ってます」

 ニッコリ微笑んで俺は席へと付いた。

 ここでようやくキースが1階へと降りてきて文句を言いながらドッカリと席へと着く。

「っていうか、お前。服着替えてから来いよ。そのまま来るなんて馬鹿じゃねぇの?」

「あ、そうか。着替えてくれば良かったんだ………って、違うだろっ!!

もともと、お前のせいでこうなんたんだろうがっ!!」

 ドンっとテーブルを叩いてこっちの方を指さしているが、さっきからポタポタと雫が落ちている。こいつ、ここに来るまで全身ズブ濡で宿屋の中を歩きまわっていやがったのか………なんて迷惑な。

「は~い、朝ごはん出来ましたよ~。沢山召し上がれ~」

 ここでタイミングよくカレンさんが登場。

「あら?キース君。その格好はどうしたの?」

 若干引きつった笑みを浮かべながらキースに問うカレンさん。

 まぁ、分からないでもない。

 自分の店でズブ濡れ状態のまま客が席に座ってるのを見たら、笑みだって引きつるよな普通。っていうか着替えなくてもタオルで顔拭くくらいはしたらどうなんだ、こいつは。

「えっ!!あっ!!そのっ!!

いやあの…………これはですね~………」

 言われてワタワタと焦りだすキース。ようやく自分が店に迷惑を掛けているんだと気づいたんだな。

「これはっ!!そのっ!!あれですよっ!!

 そこに居るジェラルドに(水を)ぶっかけられたんですっ!!!」

 よっぽど焦っていたのか、主語を抜かして事の顛末を話し出したキース。

「えぇっ!?

なんですってぇっ!!!!」

 それを聞いた途端に物凄い笑みを浮かべながら体をクネクネしだしたカレンさん。そのカレンさんの様子を見て、理解を示してくれたと判断したキースは更に追い討ちをかける。

 っていうか、カレンさん絶対何かとんでもない誤解をしてるよなっ!!絶対そうだよっ!!

「そうなんですよっ!!

 俺が気持ちよく寝てたら、コイツ何を思ったのかイキナリ俺に向かって(花瓶の水を)ぶっかけてきやがったんですっ!!こんな目に遭ったのは生まれて初めてでしたよっ!!」

 そう言ってキースは椅子から立ち上がるとテーブルをドンと叩いた。その拍子に髪から雫がバラバラっと床を濡らす。

「そう………そうなのねっ!!

そういう事だったのねっ!!分かったわっ!!お姉さんは何も言わないわっ!!むしろ良い物を見せてくれてありがとうっ!!」

 感極まった様子でカレンさんはヒシっとキースの手を握った。

「え????

どういう意味??………って、まぁいいや。

とりあえず分かってくれたのならそれでいいです」

 暫く手をニギニギされたキース。

 手を離した後も更にクネクネと奇怪な動きを始めたカレンさんに、キースは毒気を抜かれたようだ。完全に怒気は消え失せている。

「う~む、やっぱり若いって良いわね~。

お姉さん、君達が着てから本当に楽しませてもらってばかりだわぁ~。この前の一件といい今日といい”集会”じゃ皆に沢山報告することがありそうね、ウフフフフフフ………それじゃ、お姉さんはちょっと急いで”行きたいところ”が出来たから、食べ終わった食器はあっちに置いてね☆」

 最後にウィンクで締めたカレンさんは、凄い勢いで外に飛び出して行った。

 どうでも良いけど、あの公然猥褻エプロンを付けたまま外に出て捕まらないんだろうか………

 そんな中、空気を読まないキースが一言呟いた。

「水掛けられただけなのに、何であんなに喜んでたんだろう?

ジェラルド、分かるか?」

「…………知らねぇよクソッタレ」

 そもそも何でなんて言われても分からないし、知りたくもない。カレンさんのことだから、どうせベーコンレタスな事なのだろう。理解したいとも思わない。

 それよりも、そんな事に構っていないで朝食をさっさと済ませることにする。

 今日はいよいよ今日は武道大会決勝戦だしな。くだらないことに構っている余裕は無い。

 試合には熊が出るのかドラゴンが出るのやら………正直、既に憂鬱になってきている。まぁ、それでここまで来たからにはタダで負けるのも面白くないと思う。てきとーに頑張ってみるとしますかね~。ふふふふ

「最強の鍛冶師としての腕前を見せてやるぜっ!!」

 俺は決意を新たに気合いを入れなおした。よしっ!!やってやるぜっ!!

              

           


「………鍛冶師として力を見せ付けるところが間違ってると思うんだが、そこは流石ジェラルドというべきかな」

                   

         

 ボソっと余計な一言が隣から聞こえてきたので、とりあえず一発殴っておいた。

             

        

楽しみにしていた方には申し訳無かったのですが、遅ればせながら完成致しましたので投下させて頂きます。とはいえ、細かい描写をし過ぎて決勝戦は次話になってしまいましたが………


後、これは別作品になるのですが検索から除外していた作品を開放致しております。その名は『村長無双!』です。

作品概要などは直接飛んで頂くか、私の活動報告をご覧下さい。

暇つぶしの作品なので更新頻度は更に落ちますが、もし良かったらご覧下さいませ~。以上、告知でした~。

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