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武器の秘密2―三人称視点―

 


―遡ること半月前―

                       


 キーロフの村から離れたとある山の中には、神社と呼ばれる祭祀施設がある。

 キリュウオーナーが建てたその施設は、彼自らがスカウトした東方出身のスペシャリストが管理しているという。

 その管理者はというと、境内に座布団を敷きながらのんびりとお茶を啜っていた。


「平和だなぁ………いやはや、昨日まで戦いがあったなんて聞かされても嘘のように感じるくらいだ」


 雲一つ無い青い空を見上げながらポツリと呟く。拝所を囲んでいる鎮守の森からは山鳥の鳴き声が聞こえ、その一部が社庭に撒いた豆をつついている。基本的に何でも食べる鳥達だが、やはり神社に来る鳥に撒く餌は豆こそが風情だと彼は思っていた。

 そんな彼はとある有名な陰陽術師の血を受け継ぐ宗家の長男で、その手の『才能』は当代随一とまでいわれていた。そして『家名』を継ぐ者として期待されていたのだが、色々あって今では実家とは絶縁状態となっていた。それが何の因果か故郷から遠く離れた地で神主になっている………人生とはよく分からない物だと彼は常々思っていた。

「ああっ!ここの居らしたのですねっ!まったくもう、探しちゃったじゃないですかぁ」

 急に後ろから大きな声が聞こえてきたかと思うと、巫女装束を着た女性が茶菓子を持って神主の隣に座った。この地方では珍しい衣装なので参拝客にはジロジロと不躾な眼差しで見られているが、今ではもう彼女にとってそれは慣れっこだ。

「おぉ、茶菓子を持ってきてくれるなんて気が利くじゃないか」

 そういって早速手を伸ばそうとした神主の手をぺチンと叩く巫女。

「駄目ですよぅ。ちゃんと『いただきます』って言ってから食べてください」

 プンプンという不思議な擬音付きで怒る巫女に笑いながらごめんと謝る神主。

 しばらくは鳥の鳴き声と茶菓子を食べる音だけが物静かな境内で響いていた。最後に茶を啜って一心地付いた神主はポツリと独り言のように呟く。

「終焉………と言ったか………

の者は、その名に相応しいほどの力を持っていたな………」

「あーゆーのとは二度と会いたくないですねぇ」

 そう答える巫女に、まったくもってその通りだなと神主は答えた。

「土着の神………といえば聞こえは良いが、あれは邪神の類であろう。

彼の者が与える人々への『救い』とは

『生』という苦行からの開放………すなわち『死』を与える事こそが全ての救済に繋がるという穢れた経典から生み出された存在だからな」

 ゆえに強大であったと彼は語る。彼に出来たことといえば、彼の者を封印したに過ぎなかったからだ。

 もともと、土着の神は人々に信仰・または意識されて始めて存在することが出来る。人々から忘れ去られた神々の末路は、須く死が待つのみであったのだ。そして、自身の存在が危うくなった神がとる行動は至ってシンプルであった。

 すわなち人々に力を見せ付け、彼の者の存在を意識させることである。しかし彼の者に出来ることは、人々に死を与えることのみであった。

「ある意味では哀れな存在だったのかもしれんな。恐怖で人を支配する事は出来ても、それは信仰などとは程遠い存在なのだから」

 そして、彼の者自身ですら救われなかった『死』というものに救いなど無い、と締めくくった。

                              

―ゴゴゴゴゴゴゴゴ―

                                    

『っ!?』             


 突然の地鳴りに咄嗟に身構える二人。

「なっ!!

何だっ!!地震かっ!?」

「きゃ~っ!!

こっちに来てまで地震に遭うなんていや~っ!!」

              

―ドオォォォォン!!―

                          

 本殿から凄まじい音と共に”何か”が勢いよく飛び出して行った。

「なにぃっ!!

封印が解かれただとぉっ!!」

「またアレと戦うんですか~!!

いやいやなのですよ~っ!!」

 神主は顔を青ざめさせながら、護神刀を引っつかみ外へと飛び出す。それを慌てたようにワタワタしながら追う巫女。

「不味いな………奴が向かった先にはキーロフの村がある………ほら、急いで行くぞっ!!」

「え~ん、神主さま~っ!!

置いていかないでください~っ!!早いですぅ~っ!!」

 二人は全速力でキーロフの村へと走って行った。

                                   

―キーロフの村近辺の森の中―

                       

 とある森の中で二人の男が剣と木刀を持ちながら戦っていた。

 いや、正確には戦いというよりも稽古をつけているようにみえる。

「きぇあっ!!!そおぉぉぉぉぉぉいっ!!チェストォォォォっ!!」

「う………キモイなこいつ………しかも全然形にすらなってねぇし」

 襲い掛かってくる男に、襲い掛かられた方は平然とその攻撃を受け流す。受け流された方は、そのまま地面に無様に倒れ付した。

「ぐえぇぇぇぇぇっ!!」

 グシャっという何とも間抜けな音とともに、カエルの潰れたような声を放つ。

「おいおい、そろそろ終わりにしないか?キースよ」

 キースと呼ばれた男はすぐに復活すると、今度は構えを変えて突っ込んできた。

「そう言ってられんのも今のうちだぜジェラルドォっ!!

これでも喰らえっ!!きえぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」

 今時の三下ですら使わないような奇声とともに再び襲い掛かるキース。その声に比例するかのごとく実力が伴っていない攻撃だった。

「う………

こいつぁ、キモ過ぎる………駄目だ、生理的に受け付けない。もう絶えられん………死ね」

 上段から切り掛ってきたキースの攻撃を片手で弾いたジェラルドはスキだらけのその腹に、渾身の力を込めたボディーブローをかます。

「ぐぼえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 妙な声とともに再び倒れ付すキース。それを尻目にジェラルドはわざわざキースを踏みつけながら帰って行ったのだった。

「痛い痛いぎゃああああああぁぁぁぁっ!!踏んでる、踏んでるってえええええええええっ!!」

            

―閑話休題―

                

 修行(?)が終わって、ここはとある工房の中。

 2階に上がって、真昼間から昼寝をぶっこいているジェラルドをよそにキースは金床へと向かう。

「……………」

 無言で鉄の塊を熱し始めたキース。そしてカッと目を見開いたかと思うと、凄い勢いで鉄をハンマーで叩き始めた。

「チクショオオオオオオオオォォォォォォっ!!

馬鹿にしやがってええええぇぇぇぇぇっ!!」

 カンカンカンと猛烈な騒音を撒き散らしながら、ハンマーを振るう。目にも留まらぬような速さで繰り出される一撃からは火花すら飛び散っている。

「ちょっとくらい剣の腕が良いからって、なめ腐りやがってぇぇぇぇぇぇっ!!許すまじぃぃぃぃぃっ!!」

 そしてその言葉に触発されたかのように、更にスピードは上がっていく。

 しかしスピードが上がったとはいえ、出鱈目にハンマー振るっているのではない。超高速から繰り出されるハンマーではあったが、その正確さには目を見張るものがあり、結果として神掛かったスピードで鍛冶が行われているのだ。

「恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしい恨めしいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

 さながら藁人形に五寸釘を打ち込むが如く、怨念を込めてハンマーを振るう。するとどうだろう。

 突然その鉄の塊は、キースの怨念に答えるかのように段々と薄暗い紫色へと変わっていった。

「キイイイィィィィィィィィィィィッ!!

あのアホンダラめぇッ!!絶対に復讐してやるぅぅぅぅぅぅぅっ!!」

 そして超高速で行われていた鍛冶も、とうとう最終局面を迎えた。

 鈍い紫色に染まった”ソレ”はもはや鉄の原型を留めていなかった。

 さながら鉄以外の『何か』が混ざってしまったかのようなどす黒い威圧感を撒き散らせている。

                


―汝、力を望むか?―         


「あぁ?なんだ?」

 突然頭の中に響き渡る声がキースに聞こえてきた。普段は不思議に思うのだろうが、頭に血が登っているキースには別段気にした様子は無かった。

      

―汝、力を望むか?―

       

 再び聞こえてくる声に、キースは顔をしかめる。

「ごちゃごちゃウルセーんだよっ!!このクソボケがっ!!

こちとら忙しいんだから邪魔すんじゃねぇ、このすっとこどっこいがっ!!」

 言うなり、渾身の力と怨念を込めたハンマーの一撃を”鉄の塊”に向かって放つ。超高速で放たれたソレは見事中心を捕らえ、火花が飛び散った。

      

―ぐわあああぁぁぁぁあああっ!!

魔封印だとっ!!

この我が………ただの一介の鍛冶師なぞに封印されようとはぁぁぁぁっ!!!―


「ごちゃごちゃウルセーんだよっ!!

邪魔すんなら容赦しねぇぞコラアァァァァァァァァァァァッ!!

ついでに俺は鍛冶師じゃなくて剣士だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 そして再び超高速のハンマーを振るうキース。

          


―10分後―             


 容赦なくハンマーで滅多打ちを続けたキースは、ストレス発散になったのか憑き物が落ちたかのような爽やかな気分になっていた。

 そしてハンマーを振るった結果、見事な斧が一丁出来上がっている。紫色に染まった斧は、その怪しげな禍々しい妖気とは裏腹に凄まじい神々しさも兼ね備えた不思議な斧だった。

「ふぅ~…………疲れた疲れた。それにしてもさっきの変な声は何だったんだろうなー?」

 キースは疲れた腕をブンブンと振り回しながらあたりを見回す。別段なにも変わったことは無かったので、アレは頭に血が登ってたことによる幻聴か何かだと思うことにした。

「さーて………せっかく、斧なんぞ作っちまったことだし、こいつの名前を決めてやろうかなー」

 そういってウンウン唸り出すキース。ジェラルドが見ていたら、気持ち悪いの一言でバッサリだっただろうが、そんなことはキースにとって知ったことではない。

 そして紫色の斧を見つめること十数秒。キースの脳裏に一つの名前が勝手に浮かび上がってきた。

「そうだな………よし、決まった。こいつにしよう」

 金床から斧を取り上げたキースは、斧を頭上に掲げてこう言った。

             

         

『End of days』      

        


 『終焉』という名が付けられた斧は、キースに答えるかのように一瞬だけ鈍く光った。

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