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VS薬師

「さぁ、本日の第8試合目を戦って頂く選手達の入場ですっ!」

 わああああああっという物凄い歓声の中、俺は堂々とリングに上がっていった。周りを見渡せば人・人・人の波である。

 人並みに目立ちたいとか願望はあったけど、あれだけの人数に見られると居心地が悪いもんだというのを今初めて知った。流石にこれだけの人数に注目されていると思うと、あまり良い気分にはならない。

「武神の間より………キーロフの村領主様より推薦を受けたジェラルド・マクラレン選手っ!!」

 そんな事を考えているとレフェリーが勝手に俺を紹介し、それと同時に客席から歓声が湧き起こった。四方から寄せられる声援という名の怒号に耳がおかしくなりそうだ………っていうか、そもそも俺のこと知らないくせに、よく歓声なんぞあげられるもんだと思う。

「対して戦神の間より………Bブロック予選突破を果たしました、レナルド・クロウ選手ゥっ!!」

 レフェリーは、俺の紹介が終わると今度は対戦相手の紹介を行った。ツカツカとリングに上がっていく対戦者に対し、再び客席から凄まじい歓声が上がる。そんな中、相手を観察するに何も得物(武器)は持っていないようだ。その代りなのかは分からないが、見慣れない大きいウエストポーチやらバックパックを付けているのが気にかかった。

「ジェラルド選手はシード選手な為、その実力は未知数でありますっ!対して、レナルド選手は薬師ということもあり、臨機応変な道具を使いこなして見事に予選を突破しましたっ!!皆さんも、もはや待ちきれないでしょうっ!!それでは本戦第8試合を開始しますっ!!」

 そんなレフェリーの試合開始の合図と共に俺達は動き出した。動き出したとは言っても、ただやみくもに突っ込む訳ではない。それに、さきほどのレフェリーが言っていた薬師という単語………そして、道具を使いこなすという単語が気にかかるしな。

 とりあえず、まずは牽制をメインに攻撃を仕掛けた。

「おらぁっ!!」

「のわぁっ!!」

 相手は俺が牽制で放った切り払いをギリギリで躱すと、慌てふためきながら後ろへと一気に飛び退いた………っち、運の良い奴め。

「危ないじゃないかっ!!これでも喰らえっ!!」

 そう言うや否や、男はポケットから緑の液体が入った見るからに怪しい小瓶を投げてきた。

 ふん、そんなもの喰らう訳がないだろうが。バカめっ!

 俺に向かって投擲された小瓶は投げられた勢いで加速は付いているがクソ爺の剣速の方が比べ物にならないくらい早い。俺は投げつけられた小瓶を難なく躱し、次の行動に移そうとした。その時

ージュウゥゥゥゥー

 という何かいや~な音が聞こえてきたのだ。

………なんとな~く想像は付いたのだが、敢えて音がする方向を見てみると、液体が掛かったリングの一部が溶けだしているのを見つけた。

「おいぃぃぃぃぃぃっ!!お前ぇぇぇぇぇ、俺を殺す気かぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 床が溶けるとかマジでありえねぇっ!!もし剣で叩き割ってたら中身が俺に………っ!!

「あ、ごめんごめん。これ使用禁止って言われて受付の人に取られちゃったのの残りみたい」

「アホかぁぁぁぁぁぁっ!!」

 俺は力の限り叫んだ。場内もシラケた雰囲気になっている。何せ危うく人が溶けちまうところだったんだからなっ!!

「こ、これは不慮の事故だってっ!とりあえず仕切り直しさせて貰うよっ!!それっ!!」

 レフェリーに失格を言い渡されるとでも思ったのか、さっきの一件を誤魔化すように俺に向かって再び怪しげな瓶を投擲してきやがった。

 これも瓶を割ると大変な事になりそうなので、躱してみせる。今度は地面に掛かっても溶けださなかった。

「やるようだねっ!!じゃあこれならどうだっ!!」

 男はバックパックから大量の瓶を取り出すと、目にもとまらぬ速さで俺に投げつけてきやがったっ!!

 赤・緑・白・黒………様々な色に染まった瓶がまるで四散するかのような数で俺に襲い掛かってくる。予選突破しただけあって、その投擲は隙の無い弾幕を形成し、俺の逃げ場を容赦なく無くす程の集束率だった。

 見た感じだと何となく厄介そうなので、爺の動きを見て会得した技でもって回避することにする。

 それは「無形」と呼ばれる歩行術の一種で、極めればあらゆる攻撃を回避出来る………とクソ爺からお墨付きを貰った技だ。

 俺はゆらりと身を揺らしながら、それらを流れるような動きで躱す。飛び散った液体はリングを濡らし、絵具をぶちまけたような色合いを呈していた。

 濡れた地面に足をとられないように気を付けながら次々と避けきってみせると、男は肩を震わせて崩れ落ち、蚊の鳴くような声で降参だと言ってきた。

 どうやら手持ちの液体はすべて使い果たしたらしい。

「勝者は、圧倒的な力を見せつけてくれましたっ!ジェラルド・マクラレン選手ですっ!!」

 レフェリーが宣言すると同時に会場から歓声が湧き上がる。特に何もしてないけど勝ってしまったな………

 俺は客席の方へ適当に手を振って答えながらリングを退場した。

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