武闘大会二日目
通い慣れた訳ではないが、二日目ともなれば大体の道は把握することが出来る。その上、本戦ということで昨日のような意味の分からない混雑も無いので、すぐに受付のカウンターまで到着することが出来た。
「っていうか、何か喋れよっ!宿から出て一言も喋ってないじゃないかっ!そもそも、なんで緊張しないんだよっ!?」
カウンターの行列に並びだしてから暫くも経たない内に、そわそわと忙しない動きを始めたキースだったが、ここにきて案の定騒ぎ出しやがった。
全く、相変わらず騒々しい奴だ。これだから、早とちりして出なくて良い試合に出ることになるんだよ。馬鹿め。
「緊張したって得なんぞ何も無いだろーが。それにこんな試合、俺は出たくて出てる訳じゃねぇんだ。それこそ、一回戦で負けたって知ったこっちゃないんだよ」
「うわっ!!言い切りやがったっ!!っていうか、領主様の信任を得てるんだから、もう少し頑張ったらどうなんだっ!?」
俺の返答がお気に召さないのか、うざったい熱気を放ちながらキースは怒鳴ってくる。んなこと言われても、やる気なんぞ起こる訳がねぇだろが。
「キーロフの村代表のキース選手とジェラルド選手ですね?」
おっと、そんな無駄な話をしている内に俺達の順番が回ってきたようだな。
「あぁ、そうだ。」
………隣でまだ騒いでいるキースの代わりに答えてやった。
「それでは、特別な処置を施しますので貴方方の武器をお預かり致します………終わるまでキース選手はAブロック控室へ、ジェラルド選手はDブロック控え室でお待ちください」
そう言われたのを幸いに、未だに何やら騒いでいるキースを無視してDブロック控室に行く事にする。後ろでまだギャーギャー騒がれているが、見知らぬ人に「アレ」の知り合いだと思われたくないので早々に控室に入った。
控室に入ったは良いがやる事がないという事実に気づく。うざったいけど、暫くキースと話でもしていれば良かったかと少し後悔する。
手持無沙汰なので何かやる事はないかなーと考えていたら一つ気になる事があった事を思い出した。受付のお姉さんが言う特別な処理………についてだ。
あ、そういえばキースは試合に出たことあるからもしかしたら知ってるかもしれない。でもまぁ、そこまで知りたいって訳じゃないからどうでもいいか。ぶっちゃけ、なまくらにされなきゃ何でも良いし。
「おや?貴方、見かけない顔ですね」
控室でボーっと考え事をしていたら、いつの間にか金髪碧眼の男に話しかけられた。
とりあえずこれだけは言っておく………イケメンは死すべし。
「そりゃ初めて参加するんだから見かけないだろうな」
いきなり話しかけられた上に(容姿が)いけ好かない事も相まって、ぶっきら棒に言い放つ。
思いっきり嫌悪を込めて言ったのだが、そんな対応をされても嫌な顔もせずに男は返答した。
「へ~、出場が初めてで本戦出場なんて凄いんだね。普通、予選で落ちちゃうから一回目で本戦出場出来る人なんてほとんど居ないんだよ」
金髪野郎は勝手に何やら感心しているが、当の本人はここに来るに至って何もしていないのだ。せいぜいやったことといえば、キースをぶん殴ったことくらいか?
「………勘違いしてもらってるところ悪いんだが、俺はシードだから予選なんぞに出場してないぞ」
そう言うと、金髪野郎は更に驚いたような顔をする。
「えっ!?初めてでシード選手だって!?そんなの聞いたことが無いよっ!!」
「いや、そんなこと言われてもな………」
「シード選手ってのは貴族以上の推薦が必要なのは分かってると思うけど、推薦された人が下手な事したら推薦者の顔を潰す事になるんだっ!だから普通は経験豊富で実績のある人が選ばれるんだよっ!!大丈夫なのかいっ!?」
すごい勢いで説明された上に、なにやら心配されてしまった。つまり、実力不足だと怪我をするよ、っていうのが言いいたいのだろう。ついでに言えば、この話をすると相手によっては舐められる可能性があるかもしれない。まぁ、俺は俺以外の何物でもないし、なるようにしかならないけどねー。
「まぁ、何とかなるだろ」
「君ってかなり肝が据わってるね………」
そんな話をしていると、受付の人が何人か現れて俺達の武器を返してくれた。何をしたのかと聞けば、何でも武器の殺傷能力を一時的に鈍らせるとか何とか。
「剣士の武器にそんなモン付けるハンデをねぇ………それじゃ魔法使いは有利じゃねぇか」
「いや、そんなことはないよ」
俺がつい独り言を言ったら、隣にいた金髪野郎が律儀にそれを拾って答えた。
「魔法使いの対策として、リング外に配置された宮廷魔術師が何人かいて特殊な結界を張って威力を軽減させてるんだよ。幾らなんでも人が火だるまになったり、感電死したりする試合なんて市民に見せられないだろ?………まぁ、100%安全とはいえないけど一応俺達と同じようなハンデがあるから剣士も魔術師もフェアで戦えるんだよ」
ふーん、そうなん?知らんけど。
「それではジェラルド選手、そろそろ試合が始まりますのでこちらへ………」
そんな話をしていると、控室にいた衛兵っぽい兄さんにタイミングよく話しかけられた。
「じゃあ、また会おうね。頑張って!」
そう言って爽やかスマイルで俺を送り出す金髪野郎に殺気を飛ばしつつ、俺はリングへと案内されていった。