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意外な物

 馬鹿が雄叫びを上げて暫くした後、再び会場のアナウンスが流れ出した。恐らく試合が開始される前に、簡単なスピーチがされるのだろう。

「それでは、試合の説明を行います!ルールは簡単!相手を気絶させるか場外に出せば勝利です!試合はA、B、C、Dの会場それぞれ2人になるまで行うサバイバル戦となっております!ルールを説明したところで、試合開始前に王国親衛隊隊長「ウォルター・ラングリット」氏による祝辞を賜ります!」

 音楽隊の壮大な演奏に包まれながら会場に姿を現したのは、騎士姿に身を包んだ老人だった。いや、ただの老人じゃない………

『諸君。』

「「「「「っっ!!!!!!」」」」」」

 一言………たったの一言のたまっただけで会場全体に圧倒的な威圧感が襲った。これまで騒いでいた群衆も誰も何も喋らない。

『此度は例年に無い異例の参加者の数となったこと………武道大会に参加するというその勇気ある行動、私個人としては誇りに思う。

 しかしだっ!力の無い者が、ただ悪戯に参加することは勇気とは呼べないっ!無理だと思ったら、怪我をする前に即刻退場せよっ!』

 会場がシーンと静まり返り、今まで聞こえなかった風の音すら聞こえるようになった。そして言いたい事を言い終えると、老人はマントを翻し去って行った。

「………あ、っと………以上!ウォルター氏からの祝辞でしたっ!!」


―わああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!―


 我に返ったアナウンサーがウォルター氏の退場を告げると、間もなくして割れんばかりの拍手と喝采が起こった。

 それは津波のように感染し、辺りは騒然となる。

「………只者じゃねぇと思ったら、そういやあのクソ爺の師匠だったな」

 しかもあの隊長って、確かクソ爺の20歳上だとか言ってたから70だか80歳になるはず………うわ、化物だ。

「それではっ!皆さん、今度こそ、お待たせいたしましたっ!武道大会の開始ですっ!」

 俺が軽く思考の海にダイブしていると、辺りにゴーンと鐘を突いたような鈍い音が聞こえ、それを皮切りに会場が動き出した。

「あっ!!そうだっ!!キースはどこだっ!!」

 すっかり忘れていたキースの事を思い出し、必死になって再び探すと………居たっ!!Dブロックで無様に逃げ回ってやがる………

「大丈夫じゃねぇだろうけど、アイツ大丈夫か?………」

 俺の心配を余所に無情にも試合は流れていった。


―キース視点―


 鐘の鈍い合図が鳴り響いたと同時に、辺り一面は乱戦状態になった。Dブロックに居る俺も例外ではなく、近くに居た剣士っぽい成りをした野郎がいきなり剣で斬りかかってきやがったのだっ!!

 俺はそれをすんでのところで躱してやった。すると、俺に斬りかかってきた剣士に隙が出来たのを見計らったのか、異国風の男が剣士の頭上にハンマーを振るって昏倒させた。

 うわお、油断なんぞしてる暇もねぇっ!!

「こうなったら俺も本気出して………のわっ!!!」

 何か後ろから気配がしたので右に転がると頭上で横凪ぎに剣が払われる。

「後ろからとか卑怯じゃなっはああああああああっ!!」

 今度は横から熊みたいな顔と体型した男が俺にタックルをかましてきて、一緒に地面に転がるハメになった。乱戦も佳境に入ったってか?チクショウめっ!!

 まぁとにかく、いきなりのピンチで頭が真っ白になって動けなくなっちまったっ!!

 そしてやられると思って覚悟を決めた瞬間、マウントを取っていた熊男がいきなり場外まで吹っ飛んで行った。唖然として吹き飛ばされた熊男を見ると、次から次に場外に吹っ飛ばされる連中が続出している事に気づく。いや~な予感がバリバリしたが、そうも言ってられないので反対の方を見る………見ると、頭から紫色のローブを被った男が手から何やら緑色のモヤをまといながら立っていた。

 その男は辺り一帯を緑色のモヤで充満させると手を前に突出した。

「吹き飛べっ!ウィンド・エクスプロージョンっ!!」

 そう言った瞬間、凄まじい勢いの風が男を中心に吹きすさび会場に居た選手を吹き飛ばした。俺は運よく地面に転がっていたので難を逃れたが、この一撃で立ってる奴全員が場外に吹き飛ばされてしまった。会場に残ったのは二人………ということは俺たちの勝………

「…………ふふふふ、逃がしませんよ、そこの貴方」

 目の前に居るローブの男は俺に向き直り、今度はオレンジ色のモヤを纏い始める。魔術には色があると聞いたことがあるが、初めてみたなーとしみじみ思った………あれ、でも待てよ?


 風が緑ってことは、オレンジ色に連想される魔術って


「消し炭にしてあげますよ」


 キタコレェェェェェェェェェェッッ!!大ピィィィィンチッッ!


「っておいっ!!そこのレフェリーッ!!こいつを止めさせろォォォォッッ!」

 こんなサイコ野郎なんて相手したくないので、Dブロックのレフェリーに助けを求める。求めたのだが

「あっ!!」

 ………気づいてしまった。

 さっきの風の魔術………場外に叩きだされた人の共通点は全員『立っていた者』である。つまり………

「あそこで気絶してる奴ってレフェリーじゃ………」

「さぁっ!!後は無いですよ、名もなき草よっ!!雑草は残らず焼いてしまいましょうかっ!!」

 その言葉を合図に炎の塊を投げつけてきやがったっ!!

「ひょおおおおぉぉぉっ!!」

 止める者が居なくなった会場では一方的な試合が続いた。武器はさっきの風で吹き飛ばされてしまい、かろうじて残っていたのがこの出来が悪い小ぶりのバトルアックスのみだ。

「それそれそぉれっ!!棄権すれば助けてあげますよっ!」

 たまに風の刃も交えた魔術を俺に向かって放ち始めるローブの男に、絶大な殺意を抱きながらも決定的な反撃方法が見つからない。10分以上逃げ回ったがこのままでは体力が尽きるのが目に見えている。策が無い今、もうこれしか取るべき手段がない………

「当たって砕けろだチクショウがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 俺は手斧を強く構えて相手に向き直り、全力疾走で斬りかかろうとして

「のわっ!!!」

 ―こけた。

 その瞬間、俺の手元から離れたバトルアックスは、こけた勢いだけでは出せないような信じられないスピードで魔術師の脳天に直撃し、それを喰らった魔術師はそのまま昏倒した。

 その瞬間、ほかの試合会場が戦っている音以外、しーんと会場は静まり返った。そこにタイミングよく復帰したレフェリーがキースに話しかける。

「おめでとうございます。あなたの名前は?」

「………ぜぇ、ぜぇ………キース・ロワイヤル………です」

「わかりました。それでは改めて………」



『Dブロック勝者、キース・ロワイヤル!!』



―うわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―


とてつもない声量の歓声にさらされながら、俺は極度の緊張と疲れで意識を失ったのだった。


後日聞かされた話だが、あの鬼畜魔術師の脳天に直撃した部分が丁度『刃』の部分ではなく『柄』の部分だった事が幸いで、後遺症などにはなっていたかったらしい。

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