武道大会当日
無駄に豪華な部屋で朝を迎えた後(ちなみにキースはベッドから叩きだしてソファに追いやった)腹が減ったので一階に降りる。そしてこれまた無駄に豪華な朝食を楽しんでいる中、カレンさんの生暖かい視線を視界からシャットアウトする。何が言いたいのかよくは分らないが、どうせロクなことではないだろう。とはいえ、部屋は豪華だし料理も美味い、そして値段も安いとなれば相当優良な宿屋なのだろう。勿論ケイトの知り合いだからという前提の価格なのかもしれないが、とにかくこの二人には感謝したいと思う。
朝食を済ませた後、空気になっていたキースを引き連れて英雄の間まで向かう。さすがに武道大会当日というだけあって、かなりの人数が同じ場所へ向かっているようだ。
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会場に到着すると、大会受付最後尾というプラカードを持ったオッサンが列の後ろで待機しているのが見えた。考えたくはないが、遥か遠方に見える受付台まで続いている「アレ」に並ばなければならないのだろう。
「うへぇ~………マジで信じられねぇ。これに並ぶのかよ………」
キースが横で呻いているが、俺だって面倒なんだよこの馬鹿が。しかもお前と違って出場したくて居る訳じゃないんだから、比べものにならないくらい嫌なんだぞっ!!そんな俺の心情すら察することもできないキースは言葉を続ける。
「ったく、本当に面倒だな~。どうでも良いけど、受付増やせっつー話だよなーって、うわぁっ!!」
軽く聞き流していたら、いきなり奇声をあげたのでビックリしてキースを見やる。どうやら隣の列の人に運悪く押されてしまい、哀れキースはどこかの扉の彼方まで流されていってしまった…………まぁ、いいや。
とりあえずバカは放っておくことにして、とてつもなく長い行列に辟易しながら暫く待つこと30分。ようやく受付のお姉さんの所までたどり着くことができた。
「こんにちは。出場希望の方ですね?」
受付のお姉さんがお決まりの台詞らしき言葉を言い放つ………どうでも良いけど、こんなクソ長い行列に並んでおいて、出場希望者じゃないなんて可能性はありえるのだろうか?この質問はするだけ無駄な気がする。
「はい。一応、キーロフの村代表として領主様から依頼を受けてここにいます。」
………ここで命令と言わずに依頼と言って言葉を濁した俺を誉めて欲しい。
「あ、シード選手の方でしたかっ!失礼しました。それでは今日は大会の受付だけさせて頂きますね」
ん?シード?聞きなれない単語なので聞いてみることにした。
「ちなみに大会に出るのは初めてなんだけど、シード選手って何?」
「一般の選手であれば、予選を勝ち残って初めて本戦に出場することが可能になります。それに対し、シード選手は予選を省くことができ、初めから本戦に出場することが出来ます。しかしシード選手になる為には貴族以上の方の推薦を受けなければならないので、初めての方でシード選手になれることは異例なんですよ?」
へぇ~、流石は領主様ってやつだねぇ。
「それじゃ本戦ってのはいつやるんだ?」
「本戦は明日の10時から行われるので、選手の方は9時までにこちらの受付まで集合してください」
ということは………
「今日ここに来たのって………」
「まことに言い難いのですが、シード選手の方の受付は明日でも可能なので別段今日来なくても良かったんですよね」
ちくしょおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!
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どうしようも無いやるせなさを感じながら、俺は受付を離れた。そのまま宿に帰ってふて寝でもしようかと思ったが、せっかくここまで来たので本戦の出場を掛けた予選でも見ようと思う。とりあえず、適当に空いていた客席に座ってみる。
ついさっき流れたアナウンスから、今から予選の試合が行われる事を知った。受付のお姉さんの話では、武道大会では毎年名を上げようと無名の馬の骨どもが集まってくるので、1対1の試合ではさばききれないと判断した王宮が予選の試合をすべてバトルロワイヤル形式に変更したらしい。しかし、それでも参加する人数が多いので何区画かに分かれて試合が行われるとの事。その様子を一目見ようと、沢山の人が座って試合開始を今か今かと待ちわびている。キーロフの村では味わえない光景に心なしか少し心が躍る気がした。
「村じゃ、こんな光景見られないだろうしなぁ………んっ!?」
出場選手を何気なく見渡していたら、物凄く見覚えのある面を発見する。あれってまさか………
「さぁっ!!皆様お待ちかねの武道大会が始まりましたっ!!出場選手の方は準備は出来ていますかっ!!」
そこでタイミング良く大会のアナウンスが大音量で流される。それに呼応するかのように
会場全体から怒号が飛び交い、辺りは熱気に包まれた。しかし、今の俺にとってはそんなことはどうでも良かった。なぜならそんな熱気すら霞んでしまうものを発見したからだっ!!
「あの馬鹿…………何やってんだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
そう。
俺が客席から見たのは、試合会場でアホ面下げながら絶賛雄叫びを上げているキースだったのだ。