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俺とキースの幼馴染

 あの悪夢のような出来事から半月が経過した。

 俺はキースと一緒に修行をしている。というのも、あの武道大会とかいうフザケタ催し物は、毎年何らかのアクシデントに見舞われると評判の血なまぐさい大会だからだ。勿論、殺してしまったら失格だとか過剰攻撃の禁止だとか色々規約が設けられている。そんな規約まであるというのに、誰それが大怪我しただの死んだだのと物騒な事が頻繁に起こっているのだ。ここは怪我なんぞしたくないので、大会に向けて修行でもしておこう。

 ということで近所の森の中までやってきた。そして

「バカ(キース)の相手をしている訳なんだが………」

「きえぇぇぇぇぇぇいっ!!ほりゃっ!!そおぉぉぉぉぉいっ!!」

 気持ち悪い掛け声をあげながら斬りかかってくるキースを、片手でいなしながらため息を吐く。最初は普通に剣で応戦していたのだが、キースが弱すぎるのですぐに決着が付いてしまい全く練習にならなかった。そこで『片手のみ・応戦無し・自分は動かない・30kgの重りをつける・キースのみ真剣で自分は木刀』などなど、この半月の間で思いつく限りの数多くのハンデを付けて練習していたのである。それでもキースにとってはそれが重荷であるようで、俺を一歩も動かすことが無いまま今日も時間だけが経過しようとしていた。

「いえぇああああああああっ!!きぇいっ!!せぇやぁああああああああゲボォッホゥッ!!」

 生理的に受け付けなくなってきたので、思わず殴りつけてしまった。というか開始から30分やっててカスリもしないんだからやるだけ無駄だろ。

「なんばすっとねぇぇぇぇぇぇっ!!」

 意味の分からない言葉で迫ってくるキース………朝起きてから未だに寝惚けているのだろう(勝手に断定)と思い、腹に一発渾身の力を込めた目覚めのボディブローをかます。

 目覚めの一発で静かに崩れ落ちたバカ一名。それを尻目に、半月もの貴重な時間をこんな無駄な事に費やしたという目を背けたい事実を痛感した。もはやここに居る理由もない。というか居たくもないし。早々に立ち去るついでに、地面に伸びているキースを踏みつけながら家に向かって歩き始めた。


 森から暫く歩き続けて、村の中央に到着した。村にしては珍しく噴水とかいう施設があり、石のオブジェクトから水が噴き出すという一風変わったカラクリである。何でも王都にも同じような施設があり、それを見て感動した村長が勝手に手配して作ったらしい。

 最初は税金の無駄だとか村人に騒がれた位で済んでいたが、噂を聞きつけた領主が村長宅に横領調査に入った事件は記憶に新しい。そのあと、噴水の重要性について汗をダラダラたらしながら村長が必至で説明して領主を説得し、噴水設置の継続を認めさせたのだ。

 そんなある意味では曰くつきの噴水の前でバッタリと幼馴染のケイトに出会った。

「よう、お前また村に戻ってたのか?」

「あら、ジェラルドなのぉ?相変わらず良い体してるわね?」

 そう言いながらケイトはニッコリと笑った。


 彼女は、俺とキースの幼馴染の一人で、昔から小柄で愛嬌のある活発な女の子だった。10歳の頃に親の都合で王都に引っ越しをする前はいつも三人で遊んでいたくらい仲が良かったのだ。それでも王都から度々この村に訪れているので、以前ほどではないが交流は途絶えていないし、今でも親友だと思っている。

「そうそう、私また本を出すことにしたのよ」

 そう言ってタイトルの書かれていない一冊の本を取り出した。

「あぁ、そういえばケイトは漫画家やってたんだよなぁ」

 前に一度ケイトに会った時に漫画を見せてもらったが、なかなか面白い内容の本だったことを記憶している。

 題名は確か「ラスト・スタンド~最後に立つ者~」とかいう漫画で、一人の王国騎士を主人公にした戦記物だった。主人公の心情の移り変わりや、癖のある登場人物の魅力は俺を引き付けて止まず、その結果ついつい全巻揃えてしまったのは秘密である。そんなケイト先生が書いた新刊が目の前にあると思うと、ついつい奪うようにして本をひったくってしまった。

「あらあら?内容、気になる?その本、まだタイトルが決まっていないのよ」

 そういってため息を吐くケイト。

「そりゃ、ケイトの書いた本だもの気になるさ。タイトル、決まったらすぐに発売するんだろうが、その前にちょっと読ませてもらおうかな」

 そう言って、噴水の縁に腰かけてケイトが書いた新刊を読み始めたのだった。



―――――――――――――――

「う~トイレトイレ」

 今トイレを求めて全力疾走している僕は剣士見習いをしているごく一般的な男の子。でも、強いて違う所をあげるとすれば………男に興味があるってことかナ☆――――名前はジェラルド


―バタン―

 無言で本を閉じた。

 その目の前で「うん?どうしたの?」と小首を傾げるケイト。鏡を見ていないから何とも言えないが、多分俺の顔面は蒼白になっていることだろう。

「………どうしたんだい?ケイト。何か最近、人に言えないような悩みでも抱えてるのかい?」

 いまだに衝撃が体中を駆け巡っている中、必至で言葉を選びながら聞いてみる。

「え?悩み?………いきなり悩みなんて言われても思いつかないわぁ?」

 心底、不思議そうに小首を傾げて下さった………遠回しに伝えたはずなんだが、通じていないのか?なら、ストレートに言うしかねぇっ!!

「悩みが無いって言うなら………何なんだこの作品はっ!!それと何でオレの名前が出てんだよっ!!」

 俺の魂の叫びにも動じていないようで、再び小首を傾げながらこう言った。

「日頃お世話になってるから、あなたを主人公にした漫画を描いてみたいと思ったのよ。自分で言うのはちょっと恥ずかしいけど、なかなか私の漫画の主人公になるなんて機会、そうそう無いわよぉ?」

 百歩譲って、確かに漫画の主人公になるなんて滅多にない事だろうってのは理解しよう……でもこんな漫画の主人公にされて喜ぶ奴がどこに居るんだよっ!

「誰が喜ぶかこのアホがぁぁぁぁぁっ!!脳みそにウジでも沸いてるんじゃねぇのかっ!」

 戦記物から一変してホモ漫画家に転向なんてシャレにならんだろっ!!

「まぁ、そう言わずに、ね?読まないなら、続きは私が音読してあげるわね」

 そう言って油断していた俺から本を奪うと、あろうことか本の内容を外に垂れ流し始めたのだ。

「止めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

 俺は叫びながら、チョコマカと逃げまどいながら音読を始めたケイトを死ぬ気で追いかけた。

―――――――――――――

 ジェラルドが小走りでトイレに向かっていると、噴水の縁に若いモデルはキースなのよぉが座っていた。その男は優男風な顔つきで、バッチリと僕の好みど真ん中ストライクだった。

「ウホっ 良い男」

 そう思っていると、突然その男は僕の見ている目の前でズボンをおろしながらこう言ったのだ。

「やらないか」

―――――――――――――

「チェストォォォォォォォォッ!!」

 ボゴッ!!と固い物で殴ったかのような音と共にケイトが崩れ落ちた。ちょっと本気のチョップをかましてしまったが、何かキースと同じ臭いがするので多分大丈夫だろう。

「いったぁ~い」

 案の定、すぐに復活したケイトが頭をさすりながら起き上った。無駄に生命力が強いのはキースと同じアホ臭がするからなのだろうか。

「いったぁ~い………じゃないわっ!!こんな危ない本なんぞ書いて頭おかしいんじゃねぇのかっ!っていうか、どうしてこんなトチ狂った本なんぞ書いたんだよっ!」

 とにかく、本人の預かり知らぬ所で心が病んでいるに違いない。カウンセリングなんて専門の人が行う治療なんて出来ないけど、今よりマシな状態にすべく接触を試みた。

「うーんとね。そういうジャンルの本って、最近じゃ王都の女の子達の間で結構流行ってるのよ?かくいう私も、ドップリ頭まで浸かっちゃったわ☆

そんな訳で今までの作風とは全然違ってるけど、新しいジャンルに挑戦したいと思って新刊はそんな内容にしたのよ」

 自慢げに語るケイトだが、どう考えたってホモ漫画の主人公に抜擢されたく無いだろ。

「………悪いこと言わないから、止めておけ。出版なんぞして恥を掻くのは自分だぞ」

 実は(勝手に)主人公にされた俺が一番恥を掻くことになるっていうのは黙っておく。そんな様子を知ってかしらずか、とたんにしおらしい態度に変わる………ようやく分かってくれたか。

「良いのよ………私はね。初めて漫画家の山下先生の作品を手にとったときに、電撃が走ったの。そのとき私は思ったわ。『こういう漫画を書く為に漫画家になったんだ』って」

 うわ、全然分かって貰えてねぇっ!!

「いや、だから止めろって言ってんだろうがっ!!むしろ俺の名前を使うんじゃねぇっ!!」

 姿まで俺そっくりに書くものだから、こんなものが発売された暁には俺がお天道様の下を歩けなくなっちまうだろーがっ!!

「あっ!!大変な事を忘れていたわっ!」

「いや、人の話を聞けよっ!」

 俺の突っ込みを無視しながら、うんうん唸るケイト。そして突然パッと顔を輝かせると、俺に向かってトドメの一言をのたまった。

「良いこと思いついたっ!!タイトルは『ハンマー・テクニック』で決定よっ!!」

「アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 我慢の限界を超えた俺のアッパーカットがケイトの(あご)を捉え、3メートル位吹っ飛んで噴水の中に消えていった。


 その後、武道大会が始まる寸前までケイトを説得して何とか本の発売をお蔵入りにさせたが、その間ずっと一切の修行が出来ず、結局ジェラルドはぶっつけ本番で大会に挑むハメになった。

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