領主の館
「お前・・・とうとう犯罪に走っちまったのか?」
・・・しょっぱなからいきなりコレは何の話かって?
起きがけ開口一番に親父に言われた台詞がコレだ。訳分からんし、そもそも失礼だろうが!
「とうとうって何だよ、失敬なっ!!そもそもいつか何かしでかす前提で話をするなっ!」
低血圧の俺が朝っぱらから怒鳴らなくてはならない辛さが、この親父には分かるのだろうか?・・・いや、デリカシーのカケラも望めなさそうだし分かんねーだろうな・・・
「領主様がよ、お前とキースを呼んでるんだよ。もう犯罪を疑うしか無いだろ」
「アホかぁぁぁぁぁっ!………って、領主様が?」
俺だけでなくキースまで呼ばれているらしい………そう言えば、なんとな~くだけど心当たりが一件あるな。
「ぅおおおおおいっ!ジェラルドォォォォっ!」
と、そんな事を思っていたら、近所迷惑な騒音を撒き散らしながらキースが工房に入ってきた。親父は一瞬顔を歪めると、キースが突っ込んできた勢いを利用してそのままラリアットをかます。ダイレクトにクビに命中したバカは地面に無様に倒れ伏し、物言わぬ屍となった。
「勝手に殺すなっ!」
明らかに致命傷を受けたはずなのに一瞬で復活しやがった………ッチ!
「そんなことよりも大変なんだよっ!俺達二人が領主様に呼ばれたんだぜっ!きっと、あの盗賊達を蹴散らした功績で呼ばれたんだよっ!よっしゃぁぁぁぁぁっ!」
キースは興奮しているようで、一気に大声でまくし立てた後おもいっきり叫び腐りやがった!耳が痛ぇっ!
案の定、親父の鉄拳がキースの脳天を捕らえたが、それはおいておくとして………つまりは、そう。盗賊退治についての報告と功績を称えるという二つの意味で呼び出しをくらったのだろう。こう言っちゃなんだが、面倒くさいことこの上ない。しかし、お上に逆らうなんて出来る訳がないから拒否権は無い………くそう、行くしかないか。
「そういう訳で親父………行ってくるわ。メンドイけど」
「お前達、くれぐれも言っておくが領主様に粗相なんぞするんじゃないぞ!………まぁ、何にせよてきとーに気を付けて行ってこいや」
おい、それで良いのか親父………まぁいいや。とりあえず未だに隣で喚いてるバカを一発殴って黙らせた後、嫌々ながら領主の館に出発した。
――――――――――――――
自宅から10分ほど歩くと領主の館前に到着した。さすがに領主が住んでいるというだけあってかなり広い敷地で、館もその敷地に見合うだけの大きさを備えている。少なくとも一般人が入る機会なんてあまり無いだろうな。
「うぅ………緊張するなぁ」
隣で無駄な事について呻いているキース。相変わらず本番に弱い男だ。本当はこいつ一人に押し付けてトンズラしちまおうと思っていたが、話を聞くに2人で来ることが条件らしいので逃げ出せなかったのである………まったくもって面倒な事この上ない。
「ったく、めんどくせーな………ほら、さっさと行って用事済ましたら、さっさと帰るぞ」
キースとは別な理由で呻きたくなるのをこらえながら、門番と思われる青年に話しかける。領主に呼ばれたと言って名前を告げると、すぐに館の中に通してくれた。
中に入ると、使用人の方に応接室のような場所に案内された。そこにはすでに連絡があって待機していたのか、なんと領主自らと対面するハメになったのだ。
………よう知らんけど、こういうのって下っ端か中堅どころの役人が事情聞いて、あわよくば適当に褒美貰えたりなんかしちゃった後に、速攻で家に帰して貰えるモンじゃないの?何か、「積もる話もあるようだ」みたいな顔して待ってる領主の顔を見るに早く帰れそうもない………
「おぉっ!待っていたよっ!ジェラルド君、キース君っ!今回、街道を拠点にしていた盗賊を捕えてくれたそうだねっ!本当にありがとうっ!」
そう言って俺たち二人にそれぞれ握手を求める領主様(対面してる間は小市民のサガで様を付けてしまう)。ついでに、どうでも良いけどキースの手………汗でヌルヌルし過ぎて気持ち悪くないのだろうか?
そんな心配を余所に握手を終えると、座るように促される。高給取りのソファーはフカフカしているとは良く言ったものだが、本当にフカフカという単語が似合うソファーに座ったのは生まれて初めてだ。尻が浮いているようで居心地が悪い。
「さっそくだけど、どうやって盗賊達を捕まえたのか報告をお願いするよ」
領主様は手をハンカチで拭きながら(キースの汗、気持ち悪かっただろうな)盗賊狩りの詳細を求めてきたので、緊張で使い物にならなそうなキースを放っておいて俺が報告する………本当に使えない奴だなキースは。
「………なるほど。そんな事があったのか。やはり君はロバート殿の弟子だけあるのだろうね」
「ロバート?」
あまり聞きなれない単語に、つい聞き返してしまった。
「君の剣の師匠の事じゃないか。何を言っているんだい?」
領主が不思議そうな顔をしている………あぁっ!!そうだったっ!!クソ爺、クソ爺と連呼していたから名前を忘れていたよっ!!
「ジェラルド………お前、自分の剣の師匠の名前忘れてたんじゃないだろうな?」
この一件で緊張を解きやがったキースは俺を半眼で見つめてきた。クソゥッ!!なんだこの疎外感はっ!!
何ともいえない雰囲気になった後、空気を読んだ領主様はゴホン、と咳払いをした。それを切っ掛けに俺は話を続ける。
「はい、確かにあの「竜殺し」の異名を持つロバート・レッドウィングに剣術の教えを受けています」
「やはり、師匠も素晴らしいが弟子も素晴らしいということか。将来はきっと素晴らしい剣士になるのだろう。」
何かしらんうちに凄腕剣士という雰囲気になってきているが、クソ爺のネームバリューが強烈すぎるだけであって、俺は一介の鍛冶師だっ!!本業はそっちじゃねぇっ!!お前も勘違いしてるのか領主っ!!(もはや様付けを止めた)
「いいえ、将来は鍛冶師になりたいと思っています。そして盗賊狩りで活躍したのは、こちらに居るキース君だと思います。彼こそ将来は素晴らしい剣士になることでしょう」
実際は大八車で蹴散らしたから、武器はきっと剣じゃなくて大八車だな。
「ジェラルド………お前………」
何か感動されてるけど、別にお前の為に言った訳じゃないんだからねっ!!
「そうか………ロバート殿の弟子である君が言うなら、きっとその通りなのだろうね………よし、決めたっ!!君達二人に武道大会へ参加してもらうことにするよっ!!」
いきなりはしゃぎ出した領主は満面の笑みだ………って、そんな事はどうでも良いっ!なんだその武道大会とかいう物騒な響きはっ!!俺は将来、鍛冶師になるって言ってんだろーがっ!!
「いやいやいやいやっ!ちょっと待って下さいっ!俺たちはそんなのに出たく無「いよっしゃああああああああああっ!!出ます、出ます。出させて下さいっ!!」
「決まりだねっ!よかったっ!!」
うおおおおおぉぉぉぉぉっ!!何て事をホザきやがったんだ、この馬鹿はぁぁぁぁぁぁっ!!しかも何が良かっただ、このアホ領主がぁぁぁぁぁぁっ!!
「大会は一か月後だから、それまで鍛錬に励むと良いよ。この村から選抜で二名ださなきゃ行けなかったんだけど、こうも簡単に見つかるとは思ってもみなかったよっ!いやぁ良かった良かった」
そう言って再び握手を求めてくる領主。キースはその手をブンブン振り回しながら喜びの奇声を上げる。
「じゃあ、そういう訳で一か月後に王都で開かれる武道大会に「ちょっと待ったぁぁぁぁっ!!」
俺は領主の言葉を遮った。さすがにこのままでは俺の鍛冶ライフに支障をきたす。それ以前にやりたくない。
「キースはともかくとして、俺は出たくありませんっ!!」
「えっ!?」
何かキースと領主、二人して「コイツ何言ってんの?」みたいな顔して凝視してくる。ムカつく事この上ない。
「いや、だってさっきも将来は鍛冶師になるって言ったじゃないですか。僕は平穏な毎日を送れればそれで十分なんです。武道大会に出て名誉だとか賞金だとか貰わなくて結構なので辞退させて下さい」
俺はそう言って話を締めくくった。
「………そうか。君は出ないと言うんだね」
急に能面のような顔になった領主………さっきまでの明るい顔が嘘のような冷徹な男の印象を受ける………
「それでは領主としての権限を使わせて貰う………『ジェラルド、君に武道大会に必ず参加してもらう』………これは命令だ」
なにぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!これって職権乱用じゃないかぁぁぁぁぁぁっ!!
「はっはっは、そんなに固くなることは無いよ。別に参加さえしてくれれば、一回戦敗退でも構わないんだから。じゃあ、一か月後の大会に期待しているよ………さぁ、お客様がお帰りのようだ。セバス、お二人を案内してやってくれ」
あれよあれよという間に、気づいたら入口まで戻っていた。広大な敷地の中から出ると、まるで今までの会話が夢であったかのような錯覚を受ける………いや、むしろ夢であって欲しい。
「やったなっ!ジェラルドっ!俺たち二人で武道大会に出られるんだぜっ!!いやっほぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
領主の館前でも奇声を上げて騒ぎ出すバカ一名。門番の方が奇怪な物を見るかのように警戒し出しているのが見えないのかコイツは………
ってか、どうでも良いけど近所の女の子にも負けるような奴が武道大会に出て大丈夫なのだろうか………?
「ようやく回ってきた俺の晴れ舞台が、こんな盛大だったなんて思わなかったぜえぇぇぇぇっ!!ジェラルドぉっ!!一緒に優勝しようなっ!!」
………王都の武道大会って、確かタッグマッチは無かった気がするんだが?
「そんなの気持ちの問題だってっ!!俺はこの大会で名を上げてやるんだぜぇぇぇぇっ!!」
再び騒ぎ出すバカ。それに触発されて門番が剣の柄に手を添え始めた………
俺は門番に頭を下げてから、キースの頭に鉄槌を食らわして黙らせた。そして、この馬鹿と万が一にでも対戦することになったら、必ず半殺しにしてやろうと心に誓うのだった。




