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ジェラルドの剣術指南―キース視点―

 剣術とはとどのつまり、相手を殺傷するための技術である。これは古今東西、どのような流派・民族・地域だろうと共通して言えることだろう。人と魔物が争うようになった今、更なる発展を求められるようになった分野の一つでもある。つまり、男として生まれた以上は磨かねばならないのである。少なくとも俺はそう思う。

「………磨いてどうこうなるレベルじゃねぇと思うんだが」

 隣で失礼な事をホザいているのが、俺の悪友であるジェラルドだ。

 昔はジェリーなんて呼んでいたこともあったんだが、その名で呼ぶとすぐに暴力を振るう脳筋(脳みそ筋肉)なので今は普通にジェラルドと呼んでいる。


 今回は、そんなジェラルドに剣術を教わっている。この前、俺がこのジェラルドに鍛冶のなんたるかを教えてやった見返りとして、剣術を教えて貰うことになったのだ。

 まぁ、教えてやったけれども実になったかどうかは不明だが。

「それじゃ、ちょっと俺の前で剣を振り回してみろ」

 ………どうやら実もふたもない言い方で俺の剣術の腕を見ようとしているようだ。普通、ほかに言い方があると思うんだが………これだから脳筋は「………帰って良いんだな?キースよ」

「いや、スマンっ!思わず口に出して言っちゃったけど他意は……かなりあるけど………いやちょっとっ!!マジでごめんっ!!帰らないでぇぇぇぇぇっ!!」


―5分後―


「ちっ………じゃあやってみろ」

 何とかこの脳筋を説得して稽古をつけてもらうことに成功した………まったく、世話が焼ける。

「おーしっ!!それじゃジェラルドよっ!俺の雄姿をその目に焼き付けやがれぇっ!」

 ………俺は精一杯、剣を振るった。それはもう親が見たらドン引きするくらい必死に剣を振るった。これを見れば脳筋のジェラルドだって俺を認め「全くダメだ。才能の欠片も無い。クソして寝ろ………じゃあな」

 ジェラルドは踵を返すと自宅に帰ろうとしやがった。

「おいぃぃぃぃぃっ!!ちょっと待ってっ!ここはどこがダメだったのかとか、手本を見せる所だろぉぉぉぉぉっ!!」


―10分後―


「うぜぇっ!………しょうがねぇっ!お前のような初心者にいきなり難しいのはできないだろうから、簡単な型の手本を見せてやる。そこで見てろ」

 この脳筋の片足に10分ほど縋っていたら諦めて手本を見せてくれる事になった。はっはっは。俺の執念の勝ちだな。うん。

「………本気で帰るぞ………」

「あっ!ちょっ!スマンっ!手本見せてくれっ!」

 ふぅ~、やばいやばい。つい口に出してしまった。今度から気を付けねば。

「じゃあ、手本をみせてやるよ」

 そういうとジェラルドは自前の剣を鞘から抜いた。

 この剣はジェラルドの親父さん………まぁ、俺の師匠なんだが。稀代の名工と言われるだけあって物凄い業物を作った。この剣を売ったら多分とんでもない金額が付くんだろうと思う。だからこそというか………こんな脳筋野郎には不釣り合いな業物だ。勿体ない事この上ない。これならドブ川に捨てた方がまだ諦めが付「………帰る」

「のわあああああっ!!ちょっと待ってぇぇぇぇぇっ!!」


―15分後―


「………いい加減、この不毛なやり取りはやめないか?」

「………俺もその意見には賛成だね………」

 15分ほどジェラルドの足に縋って取り押さえてようやく話の落としどころを見つけた。………やっといてなんだけど、物凄く疲れた。

「………じゃあ、そこで見てろ」

 疲労で口数が極端に少なくなったジェラルドは、抜刀すると型を行った。

型とは剣術における稽古の一種で、型稽古というものだ。型というだけあって一連の流れに形があり、それを如何に上手に魅せるかがポイントとなる。もちろん上手に見せる為には、それ相応の修練だとか筋肉だとか知識だとかが必要になってくるために、演武の一種だといえ極めるのは至難の業だ。

 ジェラルドが型を行っていると、突然ジェラルドが2人に分身した………分身っ!?

「………っと、ここまではお前でも出来るよな?簡単な型だし」

「いやいやいやっ!出来ないからっ!!」

 どこの世界に演武中、分身する奴がいるのだろうか?………はて、なんかデジャブを感じるが………気のせいだろう。

「ここからが上級者の見せどころだ。よく見ておけよ」

 そういうとジェラルドは剣速を早め、まるで舞いを踊るかのような華麗な動きで剣を振るった。するとどうだろう。なぜかドラゴンとおぼしき水色の残像が剣から放たれるように辺りを旋回し始める………これを俺にやれと?

「仕上げはこれだ………てやぁっ!!」

 この何でもありの人間凶器ジェラルドが身近にあった岩に向かって剣を振るった。予想通りというか案の定、剣が纏っていたドラゴンが岩に向かって放たれた。そしてそれがぶち当たった岩は原型を留めず粉砕された挙句、周辺の地面にクレーターまで出来上がった。

 そして、型を終えたジェラルドは呆然自失している俺に向かってこう言い放ったのだ。

「な?簡単だろ?」

「出来るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 俺の魂の叫びが響き渡った。


―――――――

ちなみに、この一連の修行風景を見ていた某名工と某英雄が「どっちもどっちだ」という結論に至ったのは、また別の話である。

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