盗賊狩り 前編
ここ『キーロフの村』近辺を通る街道は、旅人や商人の往来がそこそこ盛んである。何故ならこの街道を真っ直ぐに進んでいけば、最後には王都アルメリアへと到着するからだ。したがって、王都から村へと繋ぐ物流は大体がこの道を介して運ばれてくる。そして、そんな大事な街道に盗賊が現れるようになったので、今からキースと二人で退治に行く訳なんだが………
「何で俺がこんな目にっ!!」
横で真赤な顔をして荷車を運んでいるのが、我等が荷物持ちのキース君である。
「勝手に荷物持ちにするなっ!!」
段々と真赤な顔から真っ青に移り変わってきたキースが荷車を引きながら俺に叫んでる。もちろん、そんな弱音は右から左へと受け流したが。
あぁ、そうだ。それよりも………
盗賊退治に行くのに何でそんな大荷物なの?と思われるかもしれないが、それにはちゃんとした理由があるのだ。
―1時間前―
いつの間にか復活して騒ぎ出したキースを殴って黙らせた後、白樺亭へ向かった。そしてキリュウオーナーに盗賊の撃退プランを話し、作戦に必要な『ある物』を用意してもらう。ぶっちゃけ、その『ある物』の運用の為にキースを誘ったといっても過言ではない。
―現在―
「ほれ、さっさと運べキース」
「~~~~!!!!」
再び赤い顔になりながら荷物を運ぶキース。
何か言いたそうな顔をしているが、こっちの知ったことではない。それに俺まで荷物持ちに参加したら盗賊と遭った時に戦えないだろう。
これは体力温存の為に致し方なく「わざと」運んでないんだからね。その辺分かってくれたまえよキース君。
そして、そんなキース君が必死こいて運んでいる品は、キリュウオーナーが手配した正真正銘、本物の商品である。
作戦はこうだ。
商人に偽装して盗賊をおびき出し、それらを一網打尽にする。至ってシンプルな作戦だ。
「いかにも脳筋(脳みそ筋肉)が考えそうな作戦だよな」
………1時間前にキースがのたまった発言である。俺にその暴言を吐いたツケは、ただ今絶賛支払い中である。まぁ、それはおいといて。。。
商人に偽装しても、一人で行商を行っているような小口の商人は襲われないらしい。それは何故か?
それは単純な話、運んでいる荷物の量が違うからだ。そして、その問題を解決するのが我等が荷物持ちのキース君である。
彼が荷車で運んでいる本物の商品は推定100キロくらいだ。一応、それなりに商品の見栄えを良くしようと凝ったキリュウオーナーが暴走した結果がこの重さになったのだ。まぁ、背負って100キロは到底無理だが、荷車を使えば輸送可能な重さである。
勿論、背負って運ぼうが荷車を使おうが100キロは100キロである。いくら輸送が可能だとしても重く無いなんて事は無い。しかも舗装された道ではなく山道ときたもんだ。坂道もあれば下り坂もある。
「少しは手伝ったらどうなんだっ!『ジェリーッ!』」
『ジェリー』
その一言で空気が変わった。
何の空気かって?勿論、俺のだよ。
ジェリーなんていう女みたいな愛称は俺の………というより『ジェラルド』という名前に対して付けられる愛称である。はっきり言って、俺はこの女々しい愛称が嫌いだ。
この愛称が嫌いになったキッカケは俺が6歳位の時まで遡る。昔は会う度に近所のおばちゃん連中に「ジェリーちゃん」と呼ばれていた。そして、それを目撃した同年代の友達がクラス中にその名を広め、果ては学校の先生にまで「ジェリーちゃん」と呼ばれるようになったのは俺の黒歴史だ。
ちなみに、その愛称を皆に言いふらしたのはキースである。
もちろん後で血祭りに挙げた。
あぁ、そうそう。
愛称といえば以前、キリュウオーナーもジェリーと俺を呼んで居た時期があった。
一応、依頼人であるため我慢していたが、何度も呼び出されるので長い付き合いになると判断し、その愛称で呼ばないでくれといったことがある。その時、キリュウオーナーは
「『ミツヒコ君』を『みっちゃん』とか『みー君』とか『みっちー』って呼ぶのと同じだよ
~」
と訳の分からない事例で俺に説明してくれた………あんまり東方の島国の知識が無いから、そんなこと語られても分からないんだが………おっと、話が逸れたな。
まぁ、とにかく
俺はこの女々しい愛称が嫌いなのだ。
そんな嫌いな愛称で(しかもクラス中に『ジェリーちゃん』をバラした張本人)呼ばれればやる事は一つしかない。
俺はキースが運んでいる荷車の後ろに立つとニッコリと笑ってこう言った。
「ゆっくり(下り坂を)楽しんで行ってね^^」
荷車の後ろを蹴り飛ばした。
「やめろおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
凄い勢いでキースが下り坂を下っていった。いやー楽しそうだなぁ。
暫くしてから、遠くの彼方へと散っていったキースを追って鼻歌を歌いながら下り坂を下る。なんだかんだ言っても腐れ縁とはいえ、殺してしまっては寝覚めが悪いからな。はっはっは。
それからまた暫く歩いていると、荷車の車輪の後以外に人が通ったような足跡も発見する………通りすがりの人巻き込んでないかな?何か心配になってきたぞ………
―5分後―
やっとキースに追いついたと思ったら、剣を持った連中にキースは囲まれていた。
どうやら、運悪く(運良く?)お仕事中の盗賊に荷車ごと突っ込んでいったらしく、そのお仲間と思われる何人かが(恐らくキースの荷車に跳ね飛ばされたのであろう)地面に伸びている。そして、盗賊が襲った相手が見当たらないことから、キースが突っ込んで盗賊が混乱したその隙をついて逃げたのだろう。丁度、荷馬車の馬も居なくなっているしな。………先制攻撃で何人か倒して、商人まで救い出すとは、グッジョブだぜ!キース!!
俺は鞘から剣を引き抜いてキースのもとへと走って行った。




