食い物の恨みと依頼
人が生活していくに当たって、無くてはならない物が3つある。服、家、そして食料である。つまり何が言いたいかって言うと
「食い物の恨みは恐ろしいんじゃボケェェェェェッ!!」
目の前の野郎二人を、ポケットから取り出した鍛冶用のハンマーで殴りつける。二人はそのまま気絶したようだ。
ただ気絶させておくと邪魔になるので、紳士である俺としての仕事はここで終わりではない。襟首を掴んで外に放り投げてやっと完了なのだ。
「ふぅ~、今日も良い仕事したな~」
全く汗をかいていないが、何となく汗を拭う仕草をする。これをやらないと達成感が今一沸いてこないからだ。
「お客さん」
「いや~、今日は頑張ったな、うん」
冷や汗をダラダラ流しながら無視を決め込む。ホラーなんかでありがちな「主人公が後ろを振り向く」シーンがあるが、あれは絶対やっちゃダメだと個人的には思うんだ。
「………お客さん、ちょっと良いですか?」
「さーて、料理も食べたし、帰ろうかなー」
何か、筋肉ムキムキの荒事専門チーム要員みたいな男が話しかけてきてるが絶対厄介ごとの臭いしかしないので関わりたくない。
「それじゃお金置いておくよ、釣りはいらないからじゃあねー!!」
脱兎のごとく逃げ出す。が、襟首を掴まれた。
「お客さん………ちょっと店の奥まで来て頂けますか?」
ニッコリ笑っているが目が笑っていない。俺は強制的に店の奥へと連れていかれた。
部屋の一室に連れて行かれると、そこには白樺亭のオーナーが座っていた。初老に差し掛かかった年齢ではあるが、ロマンスグレーの素敵なおじ様である。
「いやはやジェラルド殿ではないですか。ようこそいらっしゃいました」
「キリュウさん………敢えて言いますが、白々しいです」
このキリュウオーナーとは、そこそこ長い付き合いになる知り合いなのだ。どういう関係なのかというと
「実は最近、村の近くで盗賊が出るようになりまして、村への物流が滞っているのですよ。という事で退「断ります。」
とりあえず一刀両断する。
そう、このキリュウオーナーとは、依頼者と請負者という関係で知り合いになったのだ。前述したようにそこそこ長い付き合いになるので、無理難題を押し付けられたことは数えきれない。
そもそも依頼を受けるようになったのは、ある程度強くなった腕試しということで、あのなんちゃって英雄のクソ爺が勝手にギルドに登録しやがった挙句、これまた勝手に依頼を受注しやがったのがきっかけだった。ただ、もちろんこちら側にも利点があり、依頼をこなせば資金を稼げる為に早く自分だけの工房が欲しい自分にとっても悪い話ではなかった。そんな時に、こちらのキリュウオーナーの依頼を請け負ったことがあったのだ。
「そんな殺生な事を言わずに、この老体を助けると思って依頼を請け負ってはくれませんか?今回『たまたま』この部屋を訪ねて下さった縁もありますし、どうか考えては頂けませんか?」
「強制連行を縁というなんて初めて知ったなー。へぇー」
何とか時間を稼ぐ。
そもそもこうなる事が予想出来たので、白樺亭に寄る時はメニューを見るのもそこそこに頼んで食ったらすぐに逃げ帰るのが常套であったのだ。だが、今回はとんでもないイレギュラーがあったために、用心棒兼俺捕縛要員のメルトンさん(31歳)に捕まってしまったのだ。ただ、そこで疑問に思われるのが「なら最初から寄らなければ良いじゃないか」という質問である。結構知り合いに言われるんだが、リスクを入れたとしても白樺亭の料理は魅力的なのだ。ということだけ言っておこう。これで大抵の人は納得してくれるくらい美味しい料理を出すのだ、ここは。
「貴方の師匠に頼んだ方が確実なのかもしれませんが、生憎今は王都に召喚されているでしょう?そうなると頼めるのが貴方しかいないのですよ」
そうなんだよ………本当はこういう荒事専門はクソ爺の専売特許みたいなもんなんだが、今は運良くというか運悪く王都に召喚されている。爺が居ないので存分に鍛冶家業に勤しめるのだが、爺が居ない分、一応弟子ということになっているので荒事の『仕事』というか『しわ寄せ』が押し寄せて来るのだ。………よく考えたら、存分に鍛冶家業に勤しめてない気がする。
「それとですね………貴方が請け負ってくれないとなると、『もしかしたら、あの店でこれから鍛冶の材料を売ってくれなくなるかも』しれませんね」
何かサラッと恐ろしい事を言うキリュウオーナー。
そう………このロマンスグレーは無駄に顔が利く+何か裏で色々やっているので各方面で絶大な影響力を持っている。このロマンスグレーの一言で潰れた店もあるくらいの影響力を持っているのだ。まぁ、何が言いたいかというと
「この卑怯者ぉぉぉぉぉっ!!」
「ほっほっほ、それではギルドの方に依頼を出しておりますので宜しくお願いしますぞ………あぁ、もちろんジェラルド殿指定依頼になっておりますので、他の方は受注出来ませんから安心してくださいね」
結局、俺は何か訳の分からないどす黒い権力に負けてギルドに向かう事となったのだ………
とりあえず今回はここで区切らせて貰うが、大事な事を一言だけ言わせて貰う。
俺は鍛冶師であって剣士じゃないんだからなっ!このロマンスグレーといい、クソ爺といい、勘違いしてる奴が多すぎるっ!絶対に鍛冶を認めさせてやるからなっ!!