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東和食堂とそのマスター

「いらっしゃい……。おおー久しぶりだねぇ、ハル」


 カウンター内の厨房で仏頂面してひとりで何やら仕込みをしていた店主と思われる男、ハルトの顔を見るとパッと笑顔になった。


「どうだ、調子は?」カウンターの中の椅子に腰掛けると店主の男はいった。


「調子っていわれても別に何も変わった事なんかないよ。相変わらず虚しいだけの仕事やって徒労の果てに家に帰ってひたすら寝るだけだよ。マスターの方はどう、忙しい?」


 この居住区の中心部に当たる東和町にある小さな食堂、東和食堂。ハルトはこの店の常連だった。


 店のカウンター席の一番奥に腰掛けながらハルトはポケットの携帯電話を取り出した。その小さな液晶画面には着信の履歴も新着メールの表示もなかった。



「いいや、うちも相変わらず暇よ。今日はハルが初めてのお客。そろそろこの店も潮時かな」


 マスターは頭に巻いたバンダナをとり、それを尻ポケットに押し込みながら立ち上がった。


「でも最近顔見世なかったけど元気にしてたのか? なにかあったんじゃないかってうちの嫁さんも心配してたよ」


「うん、なにも変わりはないけど実は最近なんだか疲れ気味で何をするにも億劫になっちゃってね。やっぱ少しづつ内臓が腐ってきてるのかなって、マスターは大丈夫?」


「あはは、まさか。ハルはまだ若いから大丈夫だ。オレはもういい歳だからそろそろ不具合がでるはずだけどね。でもまあ、今は全然大丈夫みたいよ。とりあえず元気元気」


「マスターは、子供たちの為にまだまだがんばらなきゃね。ところでレイコさんは元気にしてるの?」


「最近は毎日いやに蒸し暑いからね。実はオレもこの暑さにはちょっと参ってる。あ、レイコは元気にしてるよ。夏には強いのよ、昔から女っていうのは。牝馬が夏やたら走るのと一緒でさ。え、競馬やらねえから知らねえか。今は子供たちと出かけてるけど。リカのクラスの友達の誕生会かなんかでユウジも呼ばれてね、一緒に三人でさ。ほら駅の向こうに最近できたでかいマンションあるじゃない、あそこまで」


「え、大丈夫? ほら、最近物騒じゃん、昨夜だって」


「ああ、水曜日のバラバラ事件か…。ひでえな、また殺されたんだってな。さっきニュースでみたよ。大丈夫、今日は木曜日だし。それに二人も子ども連れてちゃあ、さすがに犯人も襲えないよ」


「そうだね」ハルトは笑った。



「リカとユウジともしばらく会ってないけど、どうしてる最近は?」


「うん、まあ元気に学校には通ってるよ。でも二人共なんだか急に生意気になったみたいでね。レイコがこぼしてた。相手するのが大変だって。まあ、オレはここで毎晩遊んでるだろ?それでレイコとはいつも喧嘩になっちゃうんだよね、最近は顔合わすと毎度」


「そっか、そういう年頃なのかも。でもマスターは偉いと思うよ。二人も子供育ててるからね」


「あはは、うれしいこと言ってくれてるけど、オレなんか偉いことなんか一つもない。それにいつ放り出すかわかんないよぉ。こんなに頑張っても頑張っても何一つ報われない、なんの救いもない人生なんか、もう辞めてやるってさ。家族残して放浪の旅に出ちゃったりしてさ。だってこの店はもうヤバイもん、毎日閑古鳥が鳴いてるよ、カッコウ、カッコウってさ、うるさくてかなわねえ。ハル知ってるか?閑古鳥ってカッコウの事なんだぜ」


 そういうとマスターは楽しそうに笑いながらプレイヤーにCDをセットした。


「さあ、そんな哀れな店の貴重なお客様、今夜はなにを召し上がりますでしょうか?」


 おどけた調子でマスターがいった。


「って、そんないろいろありゃしねえからよ、いつものでいいかい?ハル」



「うん、もちろん、いいよマスター。今日はお腹減っててさ。

あ、でもまずは先にビールね」


「あいよ!」



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