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追跡されてる?

「じゃあ、裏口から出るぞ、ハル」

「わかった」

 二人は、駐車してあった古い型のライトバンに乗り込んだ。

「エアコン壊れてっから、ちょっと暑いけど我慢してくれ」

 マスターはエンジンを掛けようとするが、セルモーターが弱々しく唸るだけで始動しない。

「バッテリーが弱ってるみたいだ、こんな時に限って……、たのむ、掛かってくれ」汗まみれでハンドルに頭をつけ祈るように何度もマスターはキーを廻す、五回目にしてやっと低い排気音が響いた。

「よし!」ホイルスピンさせながら通りに飛び出した、ダクトを通して排気ガスの臭いが車内に流れこむ。

「エンジン掛からないかと思ったよ」ほっとした顔でハルト。

「ああ、やばかったな……」手動式のハンドルをぐるりと回してマスターがいうとハルトもウインドウを全開にする、流れ込む湿った夜風が心地よかった。充満した火照った重い空気を一瞬にかき消した。

「このにおい。これガソリン車?」

「いや、ディーゼルだ、ボロだけど仕入れの買い物には重宝するし、燃料は海岸行けばバケツでくみ放題だろ」

「流出した重油使ってんの? ディーゼル車って軽油だろ、そんなので車走るの?」

「今こうして走ってんじゃないか、重油も軽油も似たようなもんだろ? 海水で薄まっていい塩梅になってるんだと思う。わからんが」

「いい加減だなあ……」国道に出るとマスターはスピードを上げた、ハルトは後方を気にしてる。

「あいつら気付いたかな?」

「ああ、ついて来てる」三台のバイクと黒塗りのフルスモーク、極限までローダウンした凶悪な大型のミニヴァンがルームミラーに映っていた。先頭は、サングラスの男。筋肉質の身体、長髪をなびかせて走っている。後ろのバイクにはフルフェイスで顔はわからないが体つきに脆弱な成長期の名残がみえる少年たちが続く。体を包みこむように張り出したカウル。外国製の最新型で、モーターは改造してあるようで甲高い音を辺りに響かせていた。集団はライトバンの後ろを一定の距離を保ちながら追走している。午後九時半の街は人気がなく静まり返えり街の中心を縦断して伸びる幹線道路にはすでに営業中の店舗はなく街灯と(まば)らに走る車のライトが交錯するだけだった。


「バイクの三人、それに後からついて来てるイカツいたミニヴァンには運転手のほかに何人か乗ってるだろうな」

「ロン毛のグラサンはがたい良くて強そうだ、何か武器になるものない?」

「武器か、そうだ後ろの座席に金属バットがある。こんどの日曜日にユウジに野球教えてやるって約束してたんだった」

 体を捻ってバットを取るとハルトは膝の上にそっと置いた。

「まだ電車が動いてる時間だ。駅にはまだ客はいる。やつらも公衆の面前で手荒なまねはできねえだろ」

「だといいけどね……」

「まあな。───怖いか、そうだよな。やっぱ、巻き込んじゃって今すごく後悔してる」

 ヘッドライトの光が届かない遠くを見据え真剣な顔でそういった。

「大丈夫だよ。なにも心配してないよ。それよりレイコさんと子供たちを絶対守らないと」

「ありがとう、ハル。今夜の事は絶対忘れない。この先の未来に何があっても」

「どうしたんだよ、マスター、急にしんみりしちゃって。家族を守るヒーローだろ。気合い入れなよ。ってか、マスター野球やってたの?」

「ああ、ハルはやったことないのか?」

「うん……、やったことはないなあ」

「じゃあ、今度教えてやるよ。ユウジと一緒に鍛えてやる」

「うん! こんどの日曜だったね、絶対だよ」


「あちこちで子どもがさらわれる事件が起こってるっていうのなら、普通は大騒ぎになるよね。黒服の奴らは何やってるんだろう……。治安維持は黒服の仕事なのに」

「黒服は動いてないみたいだな、テレビのニュースでもやってないし」

「自分たちのことは自分で守れってことか。マスコミもなにを恐れてるのか知らねえけど、政府批判はしなくなったし。この国にはジャーナリズム精神ってやつはもう存在しないのかもな」

「頼りになるのはセンスプのニュースだけだ……。あれ⁉」

 ハルトは携帯電話を見ると驚いた顔で言った。

「あのニュース消えてるよ! 読めなくなってる」

「え、おかしいだろ。さっきまで見れてたじゃん」

「うん、でもさっきの記事は削除されてる、見れなくなってるよ」

「どうなってるんだ全く……」

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