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おっちょこちょいなリリーの日常『第1巻』

作者: 月乃もみじ

『自己紹介』

 リリーという女の子がいる。

 みんなからそう呼ばれてる。

 その由来は、名前が小林璃莉だからだ。名前を伸ばしただけの簡易的な、あだ名だ。

 リリーは地方の大学に通っている。通い方は電車。

 だいたい、片道一時間半となかなか遠い。

 しかし、リリーは退屈を知らない。

 退屈などリリーの人生にはない。常に頭の中はウキウキ状態なのだ。

 リリーの電車での過ごし方は様々ある。

 本を読んだり、音楽を聴いたり、電車の窓から外を眺めたり。一両目に乗った際には、運転席で作業する、車掌さんの仕事ぶりに見惚れたり。

 と、気分によって変わる。

 リリーは生粋の気分屋だ。そして、生粋の自由人。

 この二点に関しては、本人も納得している。

 リリーは、今年の春で大学三年になった。

 リリーは、数学が大の苦手だ。だから、もちろん大学は文系。

 学費が安く、授業も比較的、楽だ。

 そんなリリーの気分屋で、自由で、猫のような日常を少し覗いてみてよう。



『リリー大学へ行く』

 リリーの大学生活は月曜日から始まる。

 春学期は、一限のない時間割にしたため、朝はさほど早くない。

 起床。時刻は七時十三分。

 十三回目の携帯アラームを止めて、一階から「リリー」という姉に似た、母の声により三回布団の中で、もごもごして起床した。

 部屋の隅で膝を抱えた、桃色のリュックサックを手に持ち、一階へ降りる。

 洗面所に赴き、冷たい水で顔をざっくり洗う。

 目を完全に覚ますためだ。

 次に、歯ブラシを手にとり、歯磨き粉を小指の爪くらいの大きさで出し、歯を磨く。

 口の中をすっきりさせるためだ。

 一通りのルーティンを終えてキッチンに足を運ぶ。

 家で朝食を食べている時間はないため、リリー専用のコップにお湯を少し注ぐ。

 猫舌なため、そのお湯はすぐには飲まず、とりあえずキッチンに置いておく。

 そのまま、もう一度、洗面所に戻り寝癖を直すため、今度はお湯を出しそこに頭を突っ込む。

 ひとしきり頭髪を濡らしたら、レバーを下げてお湯を止める。

 びしょびしょの頭をタオルで拭き、ドライヤーで乾かす。髪の長さが短いため、寝癖がつきやすい。

 くしを駆使し、リリーは髪型をセットし始める。

 お気に入りの、グレープフルーツの香りがするヘアオイルを髪に馴染ませ、いい感じに髪型をセットする。

 これ(髪型のセット)がおおよそ、十分。セットを終えると、時刻は七時三十分を少し過ぎたところだった。

 八時十一分の電車に乗らなければ二限の講義に間に合わない。

 そして、家から駅までリリーの徒歩で約十五分。ということは、あと二十分弱時間がある。

 とりあえず、キッチンに向かい少し冷めた、けれどリリーにとっては丁度良い温度のお湯をお腹に流し込む。

 「はぁ〜」

 無意識に出るため息も朝の大事なルーティンの一つだ。

 着替えるために、もう一度、自室に戻る。今日は暑くなると天気予報で確認済みなので、ジーパンにお気に入りのTシャツを着ていこう。

 お気に入りのTシャツとは、以前好きなバンドのライブに行った際に買ったものだ。

 猫がコーヒーを飲んでいるTシャツで、買う際にリリーはサイズを間違えてしまい、ワンサイズ大きいものを買ってしまった。

 だから、ぶかふがなのだ。本来は半袖なのだが、リリーの場合、七分袖になってしまっている。

 リリーは要領が良い時と悪い時の差が激しい。おっちょこちょいのくせに、機転が効いたりと、その時の気分でだいぶ変わる。

 着替えを済ませ、母親が作ってくれた、おにぎりをリュックサックにしまい家をでる。

 いつものスピードで駅までの道のりを歩く。

 リリーは歩くことが好きだ。

 休日は散歩することも珍しくない。

 春の朝の散歩、夏の夜の散歩、秋の夕暮れ時の散歩、冬の昼間の散歩と、季節によって散歩するベストタイミングがリリーの中で決まっている。

 駅に着き、電車に乗り込む。この時間帯の電車は通勤、通学の人たちと被らないため比較的空いている。

 リリーは、あいている端っこの席を見つけて腰を下ろす。やはり、座る席の優先順位が最も高いのは端っこである。

 リリーは、リュックサックの中からウォークマンとイヤホンを取り出し、イヤホンのジャックをウォークマンにさす。どうやら今日の気分は音楽を聴くことらしい。

 リリーは、お気に入りの、しかし人気はそんなにないバンドのアルバムを選択し、一曲目を再生する。    今聴いてるバンドこそ今日着ているTシャツのそれである。もしかしたら、このTシャツを着ているから、音楽を聴く気分になったのかもしれない。

 流れる景色をぼーっと眺める。

 そして、終点の一駅前の駅で降り、反対側のホームへ移動する。大学まで電車の乗り換えが一回ある。

 これが厄介なのだ。また、端っこの席を見つけなければならない。

 間もなく、電車がホームに滑り込みリリーは乗り込む。

 運良く目につくところに端っこの席があいていたので、はやる気持ちを抑えつつ、静かに腰をおろす。一両目を選んで乗ったため、首を八十三度右に回せば運転席が見える。運転席のフロントガラスから線路の枕木が薄く見える。リリーはそれを眺め、運転している気分になりながら、お気に入りのバンドの曲も聴いた。三十分ほど揺られ、ようやくリリーの通う大学の最寄り駅に辿り着く。

 駅から大学までをまた歩く。心地よい春の風を頬で受けとめ、なるべく人通りの少ない道を選択する。

 人通りが少なくなった辺りで、リュックサックから、おにぎりをとり出す。ラップをおにぎりの上半分まで外し、かぶりつく。うーん。うまーい。やっぱり焼きおにぎりは最高だ。

 と、誰もいないことを確認しつつ目を細める。

 あっという間に、持参した焼きおにぎり二個を平らげた。

 喉の渇きを覚えたので、これまた持参した水筒のお茶で、それをやり過ごす。

 ふ〜まんぞく、まんぞく。朝ごはんを歩きながら済ませていると、見慣れた建物が現れた。

 二限目の講義は社会学。

 履修者が多いため、それなりの広さの講義室で行われる。前日にしっかり、レジュメを印刷してきたリリーは、教室で適当な席に腰をおろし、今日の資料に軽く目を通す。

 今日は要領が良い日のようだ。

 ほどなく、一限終了のチャイムが鳴り、一限終わりの生徒が続々と教室にやってくる。あっという間に席は、ほとんど埋まってしまった。

 あらかじめ、窓際の前から二番目の席を陣取っていたため、左隣には人がいるが、右側は窓があるだけで人はいない。

 二限目開始のチャイムと共に先生が教室の教壇に立った。

 そして、社会学の講義が始まる。

 社会学の講義内容をリリーはさっぱり理解していない。

 しかし、社会学の先生のトゲのない話し方が心地よく、耳だけは傾ける。

 右耳から心地よく入ってきたその声は、脳を一周して左耳へと流れていく。この動作をおおよそ六十周繰り返すと講義が終わる。

 今日も数えていないが、おおよそ六十回、先ほどの動作を繰り返し社会学の講義はお開きとなった。

 二限目の講義が終わればお昼休みとなる。大学でのお昼ご飯のやり過ごし方は様々ある。

 大学近くのファミレスに行く日、路地裏にひっそり店を構えるラーメン屋さんに行く日、学食の日、お弁当を持参する日。といった具合に。今日のリリーは路地裏にひっそり店を構えるラーメン屋さんに行くようだ。

 よし!散歩がてら行こう!リリーは気合を入れて、のんびりラーメン屋さんを目指し歩き始めた。

 キャンパスを出て、路地裏を歩く。おおよそ五分歩くと暖簾が見えてきた。

 ドアを横にスライドし、いざ入店。

 「いらっしゃいませ〜」

 入店早々、いつもの挨拶が飛んできて、カウンターに座る。もちろん一番端。お客さんは、リリーの他に三十代半ばくらいのサラリーマン、それと六十代くらいの頭が真っ白なおじいさんの二人だけ。路地裏にあるからなのか、お店が狭いのが原因か、いつもお客さんはニ〜三人程度。

 リリーはこのお店をすごく気に入っている。お店の雰囲気をはじめ、お店の匂い、お店の広さ。また、老夫婦で切り盛りしており、店主さんも女将さんも物凄く優しい。

 「はい、お水。いつものでいいかい?」

 先ほどの社会学の先生に負けないくらいの優しい口調で女将さんがいう。

 「うん!いつもので!今日は大盛りにして!」

 「はいよ、醤油ラーメン大盛り〜」

 店主さんに女将さんがそう告げ「はいよ〜」とこれまた、優しい声が聞こえてきた。

 ラーメンが到着するまでの待ち時間は厨房を眺めて過ごす。

 まず、大きな鍋に麺を入れる。それを軽く混ぜる。

 次にスープ作りだ。違う鍋から美味しそうな醤油ラーメンの素であるスープを器に少量流し込む。麺が適当な柔らかさになったタイミングで引き上げ、先ほどのスープを注ぐ。

 最後に盛り付け。これは女将さんが行う。盛り付けといっても、ここのラーメンは盛り付けが至ってシンプルだ。

 メンマ、ナルト。たったこれだけ。

 しかし!これが最高に美味なのだ!

 「はい、お待ち」

 カウンター越しに醤油ラーメンの大盛りが差し出された。

 「ありがとうございます!」

 いつもタメ口なリリーもこの時だけは敬語になる。

 「いっただきまーす」

 元気よく食材と女将さん、店主さんに食べる宣言をする。

 うーん、うまーい。さっそく、リリーはラーメンに舌鼓を打つ。

 口に入れた手腕、麺とスープが舌を優しく包み込み、一口、また一口と噛むとその都度、味は顔を変化させてくる。飲み込むのが惜しくなるこの味の変化。

 と、食べながらリリーの頭の中で一人食レポ大会が開催される。大盛りであったラーメンは、いつの間にかスープだけになってしまっていた。

 リリーはスープも全部飲むタイプなのだ。

 スープも立派な商品であり、値段に換算されていると思うと残す気になれないらしい。

 スープを平らげ、醤油ラーメン大盛りで六百円という驚きの安さの値段を支払い、「ごちそうさまでした」と食材、女将さん、店主さんに告げ外に出る。

 「ふぅ〜、食べた食べた〜」

 少し膨れたお腹をさすりキャンパスに戻るため歩き出す。念のため次の授業の教室を確認するためにスマホを開く。

 確認していると、午後一発目(三限目)である法学の授業が休講であることが記されていた。ラッキー、と心の中で呟き、ニヤリ顔とガッツポーズをする。ふと、顔を上げると黒猫がこちらを(いぶが)しげに見ていた。

 リリーはバツが悪くなり、ニヤリ顔とガッツポーズをひっこめた。

 きっとバレてる。べ、べつに授業がなくなって嬉しいわけじゃないから!という顔を猫に見せるが、きっと伝わっていない。

 その証拠に黒猫は顎が外れるくらい大きく口を開き、呑気にあくびをした。

 午後一発目の授業(三限目)が休講になったということは今日の授業はもうない。

 リリーは顔を上げ、鼻歌を歌い、急遽空席となった午後の過ごし方を考えながら、また歩くのだった。

 


『休日』

 リリーにだって休日はある。

 またしても、リリーの休日の過ごし方はさまざまある。

紹介すると長くなるので、さっそくリリーの休日を覗いてみよう。

 リリーの休日は午後から始まる。午前中は、寝るというリリーにとって極めて重要な予定が入ってるからだ。

 午後十二時三十分。起床。

 休日は目覚ましをかけないためストレスなく起きることができる。カーテンの隙間から差し込む太陽の欠片で目を覚ましたリリーは、大きく伸びをする。

 カーテンを開け、大きなあくびをする。

 洗面所はいき、顔を洗い、歯を磨く。いつものルーティンを終え、空腹を覚えたリリーは朝食作りに取り掛かる。

 いや、昼食作りに取り掛かる。

 リリーは悩んだ末、パンケーキを作ることにした。

 パンケーキなんてリリーにとってはお手のもの。てきぱきと慣れた手つきで、フライパンとフライ返しを操り、あっという間にパンケーキ三枚を完成させた。

 お皿に三枚のパンケーキを重ね、その上からハチミツを垂らす。お皿をリビングへ運び椅子に腰掛ける。

 リリーは背が小さいため、椅子に腰掛けると床に足がつかない。そんな落ち着かない足を、ゆらゆらさせながら右手にフォークとナイフを持ち、パンケーキを一口サイズに切っていく。

 リリーの一口は背に合わず大きい。パンケーキのおおよそ半分に相当するサイズを一口とする。それを口に頬張り、リスになるのが常だ。

 今日のリリーはアルバイトもなく、百パーセントくつろげるため、とりあえず先ほどパンケーキが載っていたお皿を丁寧に洗うため、キッチンへ赴く。丁寧に洗うといっても、お皿一枚のため、すぐに終わってしまう。

 リリーは鼻歌を歌いながら自室にこもる。

 リリーの休日も至って気まぐれである。

 本日のリリーは先週買った絵本を読むようだ。

 絵本の名前は『バムとケロ』

 先週、休講となった午後、リリーは大学付近のショッピングセンターへと足を運んだのだった。そこで、店内を巡回していると本屋を見つけ、なんとなく絵本コーナーを物色していると『バムとケロ』シリーズを見つけ、あまりの懐かしさに即買いしてしまったそうだ。

 買ったはいいものの、中々じっくり読む時間が作れずにいた。

 そこで本日の休日を使い、じっくりと読もう!という思惑らしい。

 なにはともあれ、さっそくリリーはベッドに体をあずけ、靴下を足半分までずらし、いちごオレを片手に絵本の熟読を開始した。

 なんてことない、数十ページの絵本をリリーは二時間経っても、まだ読んでいた。

 途中ヘラヘラしたり、しかめっ面になったりと表情に忙しいリリー。

 絵本の三分のニを過ぎたあたりで、勢いよくベッドから立ち上がり、机に腰掛けたりりー。机の横にある引き出しからスケッチブックと十二色入りのクレヨンを取り出した。

 どうやら絵が描きたくなったらしい。

 A4サイズのスケッチブックに大きな線をたくさん引いていくリリー。バムとケロの絵本を読んだことにより、絵が描きたくなったようだ。

 なんだか動物をモチーフとしたキャラクターを描いていく。オリジナルキャラクターを思いついたのだ。

 真っ白だったA4サイズのスケッチブックは、あっという間に色とりどりの線でいっぱいになった。なにやら犬のようなキャラクターと、なにやらクマのようなキャラクターが二匹。その上に大きな八色の虹が描かれている。

 リリーは完成した絵を持ち上げ、顔の前に持っていきニ、三度頷く。

 どうやら納得いく作品が描けたらしい。それを机の横の引き出しにしまい、窓から夕陽がこぼれていることに気がついたリリーは外へ出る用のジャージに着替えた。

 玄関へ赴き、お気に入りである黄色のスニーカーに足を入れる。小銭入れとウォークマンとイヤホンをポケットにしまい外に出る。

 外に出ると、空と見渡す限りの景色が、みかん色と化していた。

 暑くもない、寒くもない、そんな風薫る季節。

 リリーはそんな景観を噛みしめるながら歩く。

 いつだって、人間は季節と在る。

 リリーの散歩にだって、季節と在る。

 そんな風薫る季節と今日は散歩している。

 しばらく歩くと公園がある。そこを今日の迂回ポイントとするため、そこまでのんびり歩くことにした。

 途中、おじいさんが連れた犬とすれ違ったり、道端には、もう紫陽花が咲いていることに気がついたりしながらリリーは歩く。

 そんなことをしているうちに、お目当ての公園が見えてきた。象さんの滑り台と、乗る部分が逆アーチ状になっているブランコと、これ砂場なのか?と疑問符が出てくるような小さい砂場がある公園。

 久しぶりにきた公園にノスタルジーを感じつつ、リリーはブランコに腰掛ける。久しぶりにブランコに乗ったリリーは、昔の動作を思い出しながらブランコをゆらゆらさせる。数十年ぶりではあるが、人間というのは面白いもので動かし方を体が覚えているのだ。

 ひとしきりブランコを動かした後、小学校高学年であろう女の子二人組が、公園に入ってきたのでお暇する。来た道をただ戻るだけでは面白くないので、少し遠回りをして帰ることにしよう。戻るのは一本道ではあるが、左に曲がり大通りにでる。

 少し騒がしくなったため、ポケットからイヤホンを取り出し耳にさす。

 ウォークマンで曲を選択する。

 んー今日の気分は、、、

 立ち止まり、数分悩んだ末、一曲を選択した。

 ボブ・マーリーの『ワン・ラブ』

 ウキウキな散歩と少し切ない夕暮れ時の景観がマッチした今の気分に最適な曲だ!

 リリーは人に迷惑にならないよう気をつけながら、スキップを開始。あまり激しいとイヤホンがら揺れて曲に集中できないので軽めのスキップで。このルートだと途中にセブン・イレブンがあるため、立ち寄ろうと頭の中で決める。

 セブン・イレブンの駐車場に足を踏み入れた段階で、イヤホンを耳から外し、入店する。アイスコーナーへ向かい、物色する。アイスが陳列されている部分を左から眺めていく。

 あっ!ちょうど真ん中辺りにお目当ての『パルム』を見つけ、手に取る。レジに向かいお金を支払い、お店をあとにする。夕陽は沈み、その上から群青色が這うように空を支配していた。

 よし、帰ろう。

 自宅まであと少し、パルムにかぶりつき歩みを始める。リリーは一歩、また一歩と夕飯が待っている自宅へと帰るのだった。

 


 『おまけに』

 リリーは、本当に気分屋である。

 気分屋で自由人である。

 ずいぶん長めになってしまった散歩から帰宅したリリーは、手洗いうがいを済ませる。

 キッチンに顔を出すと、カレーの匂いが鼻腔をくすぐった。

 夕飯はカレーライスだ!

 騒ぎ立てるお腹をなだめながらリリーは、さっそくお皿にお米を大盛りに載せ、カレーをお米の上からかける。福神漬けの代わりにキムチをトッピング。冷蔵庫からソースを取り出し、かける。

 完成させたリリーオリジナルカレーライスを、またもやスキップでリビングへと運ぶ。

 「いっただきまーす!」

 作ってくれた、姉に食材に食べることを告げる。

 カレー、米、ソース、キムチ、を上手にスプーンに載せ、口に運ぶ。

 足をバタつかせ美味しさを表現する。 

 「うま〜い!」

 「全く、大袈裟だなぁ〜」

 自分用のカレーライスを片手に姉がいう。

 リリーの対面に腰掛け、控えめに「いただきます」といった。

 姉は、リリーと違って女性の中では背が高く、椅子に腰掛けても床に足がつく。その上、リリーとは違い手先が器用で、運動神経も抜群、頭も良く、中学時代は常に学年トップの成績を維持していた。

 おまけに字も絵もめちゃくちゃ上手い。

 ここまで差があると、さすがに両親を恨みたくなってくるが、当の本人はさほど気にしていない。

 のんびり生きていられる。それだけでリリーにとっては十分なのだ。

 それからリリーは姉と並んで、食器を洗った。

 今日の夜は何をしよう。

 読みかけの絵本を読もうか、新しいキャラクターを生み出そうか。久しぶりにストレッチでもしようか。

 そんなことを考えながらリリーは姉より先にお風呂に入るべくお風呂場に消えていった。

 リリーはこのあと、気まぐれに頭から湯船に浸かるかもしれない。

 気まぐれに、逆立ちをしながら歯を磨くかもしれない。

 夜中、ホットコーヒーが飲みたくなってコンビニに行くかもしれない。リリーの日常に意味なんてなく、ただ平凡で自由で気まぐれなのである。

 それがリリーの、満足、である。

 特別な才能なんていらないし、みんなを魅了する顔面もいらない。

 ただ健康で平凡な日常があればいい。

 リリーはそう思っている。

 リリーの日常はリリーが生きている限り続く。

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