一、未成年だから
「どうせ明日死ぬならやりたいことをやろう」
そう提案してきたあいつは本当に浅はかで、おもしれぇ奴だった。
僕たち七人は、明日死ぬ。
明日、僕たちは学校の理科室で爆破に巻き込まれて死ぬ。七人全員その未来を夢で七日間見続けたから、間違いない。
死の運命ってのは変えられないっていうから、きっと登校しなくてもどうにかして死んでしまう。
だから何もできない、何も止められない僕たちは、好きなことをとことんすることしかできない。
「俺は、酒飲みたい。タバコも吸いたい。」
「私は、今金欠だから、万引きでもなんでもして好きなものをとことん手に入れたい。」
「俺は好きな物をたくさん食べたい!でも金無いから、食い逃げとか?笑」
「俺は家族とずっと過ごしてたいな。」
「私は、好きな芸能人に会いたい!あと、テレビに映りたい!」
「俺は…」
少し間を空けて、提案した張本人、灰谷幸助が「一日中ゲームかな」と笑顔で言った。
「柳は?」
幸助が僕に話を振る。
「僕は…家族に感謝の手紙をたくさん書きたい。あと…す、好きな人に告白したい。どんな展開になってもいいから。」
「柳らしいな。じゃあみんな解散。現在朝の五時。ここ(校舎裏)に集まるのは深夜の三時な。好きなこと、とことんしようぜ。じゃ。」
そう言い、僕らは解散した。
俺は香月勇気。
俺は今日、未成年は本来、固く禁止されている飲酒、喫煙をする。
なぜか。それは、明日俺らが死ぬからだ。
俺は、冷蔵庫に大量にある缶ビールを一本持ち、父さんの部屋からタバコの箱を盗み出して、人気のない路地裏に来た。
缶ビールは、酔ったら一日が台無しになるからあとで。俺は、タバコの箱を開け、一本取り出して、ライターで火をつけた。
臭い。臭いけど、父さんのあの姿を思い出して、人差し指と中指でタバコを持ち、吸い込んだ。
「ゴホッゴホッ」
咳が出る。でも、すぐに慣れた。
口から白い煙が出る。白い煙が、空へと舞っていく。
ずっと憧れていた。早く大人になりたかった。
高校三年生18歳っていう微妙な歳の中で、俺は喫煙と飲酒が本当に憧れだった。
俺はしばらくそこで時間を潰した。
暗くなった頃、俺はタバコの箱を握りしめて、俺はゲイバーに行った。
ここも、大人になったら行きたかった場所だ。
みんなには言えなかったけど、ゲイバーに行って、男とセックスがしたかった。
ゲイバーに着くと、たくさんのイケメンがそこにはいた。俺は、カウンターに座り、一人でカクテルを飲んだ。
父さんがカクテルは不味いって言ってたけど、本当なんだな。でも、大人に一歩近づいたような気がしてすごく嬉しかった。
酒を嗜んでいると「こんばんは」と一人の若い少年がやってきた。
俺は唖然とした。
そいつが、中学の頃転校した好きな奴、田口直人だったからだ。
「え、嘘。勇気くん?」
「直人…お前…」
「しっ。」
直人は俺の耳元で「未成年ってこと秘密で働いてるの。だから何も言わないで。」と囁いた。
「あ、ああ。わかったよ。」
「ところで、なんでここに?」
「…えっと、明日俺死ぬんだわ。だから男とセックスがしてみたくてここまできたってわけ。」
「え?死ぬ?」
いや、そりゃ理解できるわけないよな。
「わかるわけないよな。」俺はそう言い、笑った。
「いや、別に。…今日0時頃空いてる?」
「え?」
直人は俺のカクテルを持つ手に手を重ね、「迎えのラブホ、行かない?」と言った。
「えっと…それって」
「セックス。したいんでしょ?明日死ぬから。」
「したいけど」
「俺じゃダメ?」
「…」
俺は性欲を抑えきれず、キスしてしまった。
でも直人は慣れてるのか、舌を入れてきた。
そのまま0時になり、俺は缶ビールを飲み干して、ラブホに来た。
部屋に入るなり、俺は息もできないほどのキスをした。
「直人…俺ずっとお前が好きだったんだ。」
「ごめんね、いなくなって。」
「許さない。」
「俺も、勇気が好きだ。今も。でもそんな、死ぬなんて。」
「ごめんな。」
「許さない。勇気を本気で好きになったからゲイバーで働いてたんだ。忘れようと。でも無理だ。」
「俺も。」
コートを脱ぎ捨てて、服を脱ぎ捨てて、直人をベッドに押し倒した。
「いつの間にそんな乱暴な性格になったの?」
「直人がいなくなってからだよ。」
「へぇ。俺のせい?」
「ああ。」
息もできないほどの舌が絡む長いキスを交わしたあと、直人が「死ぬなら、生でヤろうよ。俺が入れるから」と言ってきた。
「上等だよ」
二人の声が室内に響き渡る。生暖かい、初めての感覚が俺の中で掻き乱れる。
俺は、本当に幸せだと心から感じられた。
ベッドで寝っ転がっていると時刻は2時だった。
「俺、もうそろそろ行かなきゃ。」
「…俺も。勇気、ありがとう。」
「うん。直人も、ありがとうね。」
直人は俺に抱きついてきた。胸に顔を埋めて。
「折角会えたのに。離れたくない。」
その声と共に鼻水を啜る音が聞こえた。
「泣くなよ。俺まで泣きたくなるじゃんか。」
「だって、だって折角好きって言えたのに。やっと本当に好きになれた人に再会できたのに。」
「俺も、初恋の、大好きなお前に会えたのに、死にたくないよ。離れたくない。でも、ごめんな。」
「最後に、最後にキスさせて。」
「うん。」
キスは、涙で塩辛かった。
俺は、直人と別れを告げ、集合場所へ向かった。
続
この物語はフィクションです。
未成年者の喫煙、飲酒は法律で固く禁じられています。