長所が短所を上回る、という話
皆さまには座右の銘ってありますか?
私の座右の銘は「振らないバットは当たらない」です。
と、家族に言ったら変な顔をされました。
私は自他ともに認める慎重な性格で、冒険しない、出歩かない、ひたすら安全確認、石橋叩きすぎて壊しちゃう──みたいな人なのです。
それがバットだなんて全然似合わないですよね。
でも。私にとっては、たとえばなろうに投稿することがバットを振ることなんです。完結未定の連載をはじめることもそう。企画に参加することもそう。コンテストに応募することもそう。
それで三振したとしても、そもそもバットを振らない限り当たることはありえないと知っているので、特に後悔はしません。振らない後悔のほうがずっと残念です。
とまあ、それはさておき(本題ここから)。
座右の銘以外にもうひとつ、創作するうえで私が心がけていることがあるのです。
それは「長所が短所を上回るような作品を書こう」ということ。
数年前になりますが、私はリアル友人と漫画についておしゃべりしていました。学生時代の漫研仲間で、いまだに漫画の貸し借りとかをしているんですね。
で、そのとき、友人が今でも持っているという、かなり昔の少女漫画の話になったんです。
その作品は人気作家さんの長編作で、私も雑誌連載時に追いかけて読んでいました。
とにかく絵が美しく、登場人物たちが魅力的。話のスケールもすばらしい。うっとりしながら読んだ記憶があります。
でも単行本までは買いませんでした。なぜならハッピーエンドじゃなかったから。シリーズものだったので主人公たちは無事なんですが、とても悲しい事件が起きるので購入まではいきませんでした。
それで友人にそのことを言ったんですね。そしたら、友人がこう答えました。
たしかにそうだけど、でも長所が短所をはるかに上回っている。だから買ったし、いまでも持ち続けているんだと。
それを聞いたとき、はっとしたんです。
長所が短所を上回る。それって、プロの人気作品でさえ短所があるってことですよね。でも、それでも長所がまさっているから人気が出たし本も売れたわけです。
プロと比較するのはなんですが、このことは自分の創作にも当てはまるのではないか。そう思いました。
その頃の私は、自分の小説が本当に面白いかどうかわからないまま、試行錯誤で執筆していました。ブクマもポイントも伸びなかったし、感想はつかずストーリーにも自信がなくて。こんな書き方でいいのかと悶々としていたんです。
でも友人の言葉で「短所があってもいいんだ」と、はじめて気がつきました。まさに目からウロコでした。
完璧じゃなくていい。プロだって完璧には書けてない。じゃあ素人の自分なんて短所だらけであたりまえ。
たしかに短所だらけではあるけれど、でも長所だってきっとあるはず。
いや、絶対にある。あると思うから、誰もが閲覧できるこんな場所に投稿している。
読まれる価値がないと自分で思うようなものを、衆人環視の中に投げ込んだりしない。
それがわかってから、書くのがとても楽になりました。
うん、できないことがいろいろあっても、できる部分がそれを上回るように頑張ればいいんですよね。
自分の得意な部分を自覚することは、書くうえでの支えになり、書き続ける自信になります。そういうわけで、上回ることをめざしながら、地道にこつこつ書き続けている次第です。
そして。
実はこれ、創作だけの話ではありません。
「長所が短所を上回るかどうか」という視点はリアル人間関係にも応用できるのだと、最近実感するようになりました。
人と接していて、短所が目につくことってありますよね。
たとえば家族です。身近過ぎて全部見えてしまうため、こうしてほしいああしてほしいと、ついつい思ってしまいがち。
じゃあ、そんな家族の長所はって考えてみると……。
考えるまでもありません。彼らの長所が、短所をはるかにはるかに上回ることを、私はよく知っているのですから。
PTAの役員をしているときに出会った、苦手なタイプのお母さんのことを思い出してみます。意見をぐいぐい押してくるし、やりたいことも私の希望とちがっていて、お友達になりたくない人でした。
じゃあ、その人の長所は?
考えてみると即座に思いつきました。元気、明るい、やる気がある。行動力があって仕事が早い。
なんだ、いいとこがいっぱいあるじゃないのと驚きました。
嫌いな人の長所を探そうと思うと気が進みませんが、短所と比較しようと思うと、案外やりやすい。心のハードルが下がる気がします。
それに長所がわかってみると、そのあとわざわざ短所をあげつらう気にはなれなくて。
結局そのお母さんも思ったほど悪い人じゃなかったとわかり、お友達にはなれないまでも、苦手意識がかなり薄れました。
そうやって考えてみると、いまの自分のまわりには、幸い短所が長所を上回る人はいないようです。
でも、いつもそうだとは限らないし、今後出会う可能性だってありますよね。
そんなときには、思い切ってさようなら。物理的にさようならができないときは、精神的にさようならをしてしまおうと思っています。
何を言われても受け流してしまえばいい。自分にとって短所のほうが大きいと、しっかり確認できた相手に、寄り添う必要はありません。
人だけじゃなくて、ほかのことでもそうですよね。
たとえば職場、習い事、部活動。この場所の長所は何? 短所は何? 自分にとってどちらが大きいのかな? こう考えることはひとつの指針になると思いますが、いかがでしょうか。
なんて、なんだかえらそうに書いていますが。こんなこと言ってる私自身の長所と短所はどうかというと……ええっとぉぉ……。
とにもかくにも。
少しでも長所が短所を上回る、そんな人間でありたいものですね。
お読みいただき、ありがとうございました。