「大声でそういう事言うのやめてもらってもいいですか?」
「ちなみに今回200近い素材や炎の組み合わせを試したけど、その中で一番上手くいったのが吉田先生が保管していた【火龍の鱗】」
「吉田先生・・・?それって、」
「そう!君が召喚失敗した例のヤツ!」
「大声でそういう事言うのやめてもらってもいいですか?」
普通に傷つく。
いや、昔の話だから。
今だったら失敗なんかしないから。
というかあの時だって課題的には鱗だけでも呼応べればOKだったから広義で言えば失敗ですらないし。
・・・本当は火龍そのものを呼応びだかったけどさ。
「鱗だけが欲しいから召喚失敗されたって何の問題もないから【サラマンダー】を呼応んでくれって事か。神話生物をそこら辺の幻想生物と同じに語られても困るんだけど」
「えっ、違うよ?」
「違う?」
これは召喚術のいろはを一から叩き込まないと駄目かもしれないと覚悟したーーというかもう即に何度もそうしてきたから今日もそうかと軽く呆れすらしていたーーが、関はあっけらかんとそれを軽い調子で否定した。
つくづくこっちの予想を裏切る男だ。
「200以上の素材を試す過程で【火龍の鱗】なんてーーというか火龍から採取れる素材一式なんてーーわりと初期の頃に一通り試してる。でも、どの素材もイマイチだった。想定していた通りの高度は順当に出せたけど・・・それだけだった。素材自体の入手難易度を考えれば割に合うんだろうけど、どんな盾も貫く最強の矛にはどう足掻いても届かない」
「それはそうでしょ」
いくら最強種である龍の一角である火龍であっても流石に荷が重い。
そこまで過度な期待を持つ方が悪いという話だ。
「その後も様々な素材や組み合わせを試してみたけれど、結局はどのサンプルも最初の火龍シリーズを上回る結果を出す事は叶わなかった。まぁ、想定通りと言えば想定通りだったけどね」
「火龍シリーズ・・・」
「ここまで来たらもう鮮度の問題かと思っていっそあくあを誘って火龍狩りにでも行こうかと準備してたら吉田先生に見つかっちゃって必止に止められてしまって」
「そりゃそうだよ!そんな寿司ネタみたいなノリで火龍狩りに行かれてたまるか!」
下手すれば学園周辺の火龍が全て狩りつくされる!
一狩り行こうぜじゃないんだよ!
「しかもあくあってあのあくあだろ?【ウンディーネの隣人】全ての水元素に愛された【水魔法の申し子】水都 あくあ!」
「良く知ってるね。友達なんだっけ?」
「実技テスト3年連続一位の化け物を知らない魔法使いはこの学園にはいないって。あと断じて友達ではない」
直接的な接点も無いし、なんなら話した事すらない。
何故って?
どうみたってヤバイ女だからだよ。
「ちょっと力技が好きなだけの普通の女の子だって」
「どう考えたってちょっとでは到底済まされないレベルのやらかしの数々が俺の耳にも届いてるし、なによりも”あくあ”なんて呼ばれて平気でいられるそのメンタルがヤバイって言ってるんだよ」
「・・・あぁ、北の世界樹【アクア】と同じだからって事か。でもそれは北の国では割とポピュラーな名前だったし、偉大なる先人やモノの名前を子供につけたがるのは親の思考としてはそれなりによくあるものでしょ」
「関も北の国の産まれ?」
「うん。交換留学制度を使って北の国よりも世界中から様々なモノが集う中央の国にきてるだけ。あくあもそう。ーー幼馴染なんだよ、俺達は」
「・・・狢かぁ・・・」
「ムジナ?」
「なんでもない」
こっちの話ーーあるいは、かの国の話。
同じ穴の貉。
同じ国の産まれであり、同じ厳しい自然環境に囲まれて育ってきた子供達。
【ウンディーネ】に愛されて育った子供達。
・・・話しには聞いていたけれど、正直ここまでだとは思っていなかった。
この時に、五十嵐 煉牙は関に対して説明しない事を選んだ。
言っても言わなくても変わらないだろうという確信もあったしーー関にそれを言うのは自分ではないと思ったのだ。
彼女の愛についてとやかく言う権利は、少なくとも自分にはない。
「ーーまぁ、水都の事は別にいいや。今は関係ないから横に置いておくとして、問題は吉田先生だよ」
「あんなに良い先生なのに?」
「良い先生は生徒の授業成果物を横流ししたりしない」
「それは確かに否定出来ない」
でもこの二人が火龍狩りに行くって言い出したら手持ちの素材全て差し出してでも止めたい、って気持ちも正直よくわかる。
わかるけれども、正直一言くらい欲しかった。
そしたら心の準備くらいは出来たかもしれないのに。
「吉田先生が前もって知らせるとレンゲくんは捕まらないからって」
「普通にグルだった」
俺が何したって言うんだ。
こんなに日々真面目に学問に励んでいるというのに。
「えっ、じゃあ前もって言ってたら大人しく手を貸してくれてたりしたの?」
「誰がこんな面倒くさい事に手なんか貸すか」
「そういう所の信頼が厚すぎたんだから諦めて」
・・・それを言われたら何も言えなくなる。
「魔力を持った魔法生物の素材はよっぽど杜撰な管理方法で無い限りその品質が極度に劣化する事はない。ましてやここは世界最高の研究機関中央魔法学園。そこで100年近く行われてきた卒業製作において、未だかつて火龍狩りが行われなかったとでも?って言われて。あぁ、確かになって」
「確かに、って納得する所では無いし吉田先生も正直その説得方法はどうかと思う」
「そこで吉田先生が持ってきてくれたのがレンゲくんが召喚してた【火龍の鱗】だったってワケ」
「どうして」
話が飛ん・・・ではないのか。
要はアプローチの方法の違いであり、今だからこそ出来る手段を試してみるべきではないかと言うコトだ。
その為の五十嵐 煉牙。
その為の、呼応術。