「頭沸いてる奴しかいないの?」
五十嵐 煉牙、14歳。
中央魔法学園中等部三年失われた魔法学専攻のーー失われた魔法学を専攻する生徒達の中で唯一神代の魔法の再生を研究している頭のおかしい夢想家。
そんな一種の腫れ物のような扱いを学園内で受けていたーーいや別にイジメられていたとかでは無くいっそ「ヤベェ奴」だと一線引かれていたーー自分に関は、
「君がレンゲくん?ちょっと頼みたい事があるんだけど」
といきなり距離感ゼロで声をかけてきた。
ヤベェ奴だ。
自分の事をサラッと棚に上げてそう思った。
産まれて初めて大衆心理を理解出来た瞬間だった。
えっ、俺こんなんなの。
「そう、頼み事!レンゲくん、神代の召換術に手を出してるんだろ?こ・・・コー、なんとかってやつ!それでとある神話生物とか呼べる?」
「・・・呼応術、な」
「それー!」
第一印象は、やたらとテンションの高い奴。
後で本人から聞かされた話だが、この時の関は他の素材で代替出来ないものかとほぼ一週間近く工房に籠って試行錯誤を繰り返しーーその果てにやっぱり不可能だという結論に致ってーー精神的にかなりイっちゃってた(褒め言葉)らしい。
「そうでなきゃ君に頼み事だなんて恐ろしくて出来なかったよ」
とは我に返った本人の談だ。
お前程じゃないよ、と返せば関はほがらかに笑った。
冗談でも何でもないし二重人格かお前は。
関とあくあにだけは流石の自分も言われたくない。
「ちなみにどんな神話生物を呼びたいワケ?」
「【サラマンダー】」
「は?」
「だから、【サラマンダー】だよ。炎の精霊。東の世界樹【フレア】の守護者。偉大なる神霊。その鱗が、どうしても欲しい」
「・・・・・・・・・」
正直な話、神話生物と聞いた時からーーあるいはわざわざ自分に声をかけてきた事からーーそうなんじゃないかと予想はしていたが・・・実際に音として吐き出されると思っていた以上に破壊力が凄い。
思わず無言で関の顔をまじまじと無遠慮に見る。
正気か?
「卒業制作で使う素材を作る為には、どうしてもサラマンダーの鱗がーーサラマンダーの”熱”が必要なんだよ。他の素材や炎じゃどうやっても駄目だった。どうしても強度が足りない」
「正気か?」
「正気だったらこんな事お願い出来ない」
「それはそう」
・・・これは完全なる余談ではあるけれど、こんな事を言っている関少年は大人になってから平気でーーあるいは正気でーー神話生物の素材を要求してくる狂気の魔法具職人へとクラスアップを果たし自分の良き取引相手となる事をここに明記しておく。
さもありなん。
「卒業制作って言っても、進学自体はこないだのテストでよっぽど酷い点数でも取らない限りはエスカレーター式なんだから出来るでしょう」
「そうなんだけど錬金術科の専攻はちょっと他の専攻とは違うんだよ」
「・・・まさか、例の黄金問題?」
「そう!流石レンゲくん!博識!」
「昔の錬金術科はそういう事をやっていた、っていうのはOBの先生に聞いた事があったけど・・・未だにやってるとは思わなかった」
「今年で百周年らしいよ」
「頭沸いてる奴しかいないの?」
百年も同じ問題こねくり回すなんてどうかしてる。
煉牙少年の心の底からそう思ったし今思い出しても同じ感想しか出てこないがーー錬金術科の人間にとってはいずれ解き明かすべき至上命題、それが黄金問題らしい。
頭沸いてんのか。
突然だがここで読者の皆様にクエスチョンです。
錬金術の至上命題ーー黄金問題と言えば、なーんだ。
卑金属を貴金属に変える【賢者の石】?
無生物から作られた生物【ホムンクルス】?
それとも【不老不死の仙薬】?
どれも正しく、どれも錬金術師達が追い求める至上命題だ。
ーー中央魔法学園中等部錬金術科所属でなければ、の話だが。
「簡単に言ってしまえば、矛盾問題だよ」
「せめて矛盾って言って」
「じゃあ、矛盾の証明。ちなみに俺はどんな盾でも貫く最強の矛を作る為に最硬の金属を作ろうとしてる」
「天才が頭の悪い凡人みたいな行動原理で動くのやめた方がいいよ。大惨事になる未来しか見えないから」
「それはそれとしてどんな大惨事が起こったとしても折角の機会なんだから全力で馬鹿な物作りたいじゃん。男の子だもん」
「・・・まぁ」
気持ちはよーくわかる。
きっとさっきの関みたいにこの時の自分も神妙な顔をしていただろう。
『出来ないって言われると逆にやりたくならない?男の子だもん』
男の子だもん、じゃないんだわ。
まさかさっき語った理念が一周回って自分の首を絞める事にとは。
なまじ気持ちがわかるだけに無下にも出来ない。