「物理的にいじめられて穴開いたのは俺」
「ーーよしっ。もみじありがとう。解くよ」
「うん」
「【呼応せよ】」
さっきと同じように一瞬視界がぶれて元通りの自分の世界と右手の感覚が戻ってくる。
二三回握って開いてを繰り返して違和感なく稼働するのを確認してから、恐る恐る左耳を触ってみる。
指先に当たる硬い感触。
「おー、本当にちゃんと嵌まってる!これがファーストピアスってやつだよね?かわいい!」
「もみじ、痛い。あまり引っ張らないで」
「そうだ、レンゲくん!これ穴のお手入れの仕方ね」
どうみてもピアッサーの箱に入ってましたと言わんばかりのーーしかも全く手付かずの状態のーーペラペラの説明書を受け取ってザッと目を通す。
ピアス穴明け後の1ヶ月はフォーストピアスをつけたままにする。
穴を清潔に保つ(消毒はあまり使わない)。
穴にはあまり触らない。
ふーん・・・。
「【呼応せよ】」
「あー!」
あくあの不満そうな抗議の声が届くが知ったこっちゃない。
只でさえ勝手に開けられてうんざりしてるのに1ヶ月もきちんとお行儀よくお手入れなんてやってられるか。
とっとと治癒魔法で傷をふさいでしまった方が早いし確実だ。
「その手があったかー・・・!」
「魔法使わずにアナログな方法でやってるなとは思ったけどまさか思いつかなかったの?」
「うわーん!レンゲくんがいじめてくるよもみじー!」
「よしよし」
「物理的にいじめられて穴開いたのは俺の方なんだけど」
「煉牙、そういう所。ほらあくあ、顔を上げて。私が治してあげる」
「じゃあその間に俺がもう片方開けようか?」
「報復!?」
「善意善意。とういかそこで真っ先に報復が出てくるって事はそれなりにやらかした自覚があるって事でいい?」
にこっとあくあが綺麗な笑顔で笑うので同じように笑い返してやる。
「関ー!助けて関ー!」
「ちょっと今忙しい」
「関くんそういう所!」
そういえばあまりにも静かに机に向かっていたから忘れていた。
元はと言えば関とあくあの2人でピアスを開けようとしていたんだ。
「何書いてるの?」
「新しい魔法具のラフ。穴開いたらつけて感想くれる約束だったから」
「あー、ピアス型の・・・」
もの凄い勢いで消費されていく紙の空白に思わず引きつった笑みが出た。
関鋼を使った一対の魔法具。
「1ヶ月我慢しなきゃいけないかと思ったけどすぐ出来るみたいだし2つだと思ってた穴が増えたしこれは試したいやつ全部試すしかない!」
「その増えた穴ってもしかしなくても俺のこと?」
「私も開けてもらおっかなー」
「イイネ!どうせなら関も開けて皆でお揃いにしよ!ほらレンゲくん一思いにやっちゃって!」
「いいけどさ・・・」
いやもうここまで来ると良いのか悪いのかも分からないけどさ。
もみじが楽しいならOKですとでも思っとけばいいのかな。
「ーー【呼応せよ】」
ここで、放課後の教室でその場のノリと勢いと才能の無駄使いによって開いたピアスの穴は十年以上経った今も自分の耳に開いている。
勿論、もみじ達にも。
関が作って来た魔法具の性能が滅茶苦茶良かったとか、あれだけ大変な思いをしたのにすぐ埋めるのは嫌だったとか、色々と理由はあったけどまぁ・・・どれも些細な事だ。
ここで大事な事実は2つだけ。
数年後、【最悪の世代】とまで言われる自分たちの初まりが間違いなくこの時であったと言う事。
五十嵐 煉牙という魔法使いの人生において、この時がーーこの時までが、唯一穏やかで優しい時間であったという事。
只、それだけ。
「今なら性能のリクエストも受けられるよ!」
「その前に塞がらないようのファーストピアス用意しなきゃいけないだろ」
「なるほど・・・魔法石いくつつける?」
「関、お願いだから落ち着いて」




