「だってレンゲくん強いから」
戦犯ーーもとい、あくあは後にこう語った。
「だって、レンゲくん強いから」
「生半可な魔法じゃ簡単に(※決して簡単ではなかったが)いなされるから、普通のーー既存の魔法じゃ駄目だなって思ったのよ。もっと【集めて】、逃げられないようにその場に【留めて】、一転突破されないように【渦巻いて】ーーその上で【圧縮させる】。そんでもしないと捕まれられない・・・勝てないと思ったのよ。だから、そういう魔法を創造た。一か八かだったけど、失敗する訳がないしいけると思って」
失敗する訳がない。
あくあはあくまで自然にーー何でもないことみたいに言った。
・・・普通の魔法使いであれば思い上がりも甚だしいと切り捨てる所だけれど、こと相手が目の前の天才であれば話は百八十度変わってくる。
人間としてはどうかと思うという根本的な問題はあるがそれとは別に、魔法使いとしてはただの事実だと納得できる。
それだけの才能が、あくあにはあった。
「君もそうでしょう、レンゲくん。【サラマンダーの隣人】である君だってアタシと同じ筈だ」
「・・・・・・そう、かもね」
自分の喉から思った以上に苦々しい声が出たのを覚えている。
【ウンディーネの隣人】、【水魔法の申し子】ーー転じて、【水天の魔女】と呼ばれるまで昇りつめるあくあにまるで同じモノとして扱われる事に、当時の自分はどうしようもない嫌悪感を抱いていたのだ。
正直に言えば嫌すぎて吐き気がした。
「年中雪と氷に覆われる北国においてアタシに出来ない事はほどんどなかった。中央にきて最初の頃は水の少なさに戸惑ったけれど慣れてしまえば今まで通りーーううん。今まで以上にアタシは水魔法を使えた。どこまでやれるか試してみたくて錬金術に手を借した事だってある。それも当たり前みたいに上手くいって・・・あ、知ってた?」
「お陰様で」
「アレ楽しかったんだけどね。満足は出来なかった」
・・・嫌味を言ったつもりが普通に流された。
いやコレ嫌味を言われたとすら思っていないかもしれない。
木の根に腰かけて一歩も動かないーー動けない自分とは対照的にあくあはどこまでも楽しそうに水たまりを避けながら歩きまわっている。
ーーその動きは先程まで行われていた対抗戦の時に自分がしていたものとはほぼほぼ同じものだった。
「だから、今日は楽しかった。なんだろうな、「あーアタシ今全力で生きてる」って感じたんだよね」
「・・・水都」
「あくあでいいよ、レンゲくん。君の事は関から聞いてるし、知らない仲でもないじゃない」
「水都」
「関と言えば、レンゲくんがつけてるそのペンダント魔法具でしょ?中に入っている魔力は別人みたいだけど、その回路は関がよく使ってるのだし」
「・・・水都!」
「はいはい。あくあで良いったら」
ようやく、あくあの動きが止まる。
フラフラ歩いていたあくあと自分との距離はちょうどあの最後の一手と同じくらいで、つい体が強張った。
今だったら自力での脱出は難しいかもしれないなと頭の中の冷静な部分で思ってーーそれと同じくらい心の中でどうとでもなるだろうという確信もあった。
今までの自分にはない感覚。
気持ちの悪い万能感。
・・・・・・いや、今までずっと目を背けてきただけで本当はずっと五十嵐 煉牙の中にはコレがあったのかもしれない。
目の前の天才と、同じように。
「・・・御託は良いからとっとと片付け始めないと日が暮れて関みたいに徹夜するハメになるぞ」
「そう思うんだったら寛いでないで手伝ってよ!」
「こっちはお前のせいで三半規管イカレてて動けないんだよ!魔力だってもうほとんど残ってないし・・・。そもそもの話、グランドの片付けはお前へのペナルティで俺はただの監視!」
「理不尽!」
「むしろこの程度ですんで感謝しろよお前・・・」
あくあがあの時放ったオリジナルの創造魔法ーー後にあくあによって【水天宮】と名付けられる事になる最も新しい禁術指定魔法ーーに捕まった自分は生存本能から残った魔力と関から前回の騒動の御礼として渡されていた魔力を溜め込む魔法具に保存されていた魔力を使って自分が知る中でも最も強いモノを召喚んだ。
即ちーー【サラマンダー】。
・・・とはいえ、当時の自分の技術も理論も未熟で【サラマンダー】そのものを召喚する事は不可能だ。
普通であれば、到底成功する筈の無い無茶苦茶な外法。
失敗して当然の、身の程知らずな愚行。
だけどあの時、自分は確かに【サラマンダー】を感じていた。
『失敗する訳がないしいけると思って』
あくあの言葉を借りるのであれば、この一言に尽きた。
勿論自分はあくあと違ってどんな魔法も成功するーー失敗する筈がないなんて言えるだけの技量はない。
五十嵐 煉牙の強みは才能そのもではなく、魔力が少ないという欠点を補う為に様々な手段を試みてきた経験にこそある。
今回であれば、関の為に【火龍の鱗】のみを召喚んだあの時の経験が役に立った。
【サラマンダー】そのものではなく【サラマンダー】の炎のみを呼応ぶーーそれがあの一瞬で俺が導き出した最適解。
最高峰の水と炎のぶつかり合い。
いくらあくあが【ウンディーネの隣人】とはいえ【水天宮】そのものは【ウンディーネ】とは何の関係も無いーー無いのにあの破壊力を叩き出すのがあくあの恐ろしい所ではあるーーので、あの一瞬において力の拮抗は俺の方にあった。
俺が呼応んだ【サラマンダーの炎】は一瞬にして周囲の水を沸騰させ水蒸気に変えーー大爆発を引き起こした。
俗にいう、水蒸気爆発という自然現象である。
グランドは巨大なクレーターが出来上がり周囲に張り巡らされていた魔法結解をーー魔法では無くあくまで普通の(?)自然現象によって起こったものなのでーー通り抜けた爆風が校舎の窓を全て叩き割った。
幸いな事に大怪我を負った人間はーー当事者を含めーーいなかったが教師陣は校舎の復旧や生徒の誘導に追わ
われている為爆心地の片付けは当事者ーー戦犯とも言うーーの手によって行われる事となった。
洗濯機で洗われる洗濯物の気持ちをーー物理的にーー味わう事となった俺は三半規管がイカレてるので平衡感覚が狂いろくに立ち上がる事すら出来ない為あくあの監視役兼静養中。
以上が、今回の事の顛末と被害報告だ。
・・・大声出すと眩暈と吐き気がヤバイな・・・。




