表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西堀の隠居のはなし  作者: ぽすしち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/23

まだ全部じゃねえ



「地蔵菩薩。ぼくも見せていただいたけど、なんとも優しいお顔だったね」


「・・・じじいが、・・このまえおれに見せながら、ずっと、撫でてやがった」


「・・・さ、これで、全部ですよ。あと、今回のこの話、書きはしないけど、買わせていただきます」

 お坊ちゃまは胡坐のまま頭を下げる。


 こんな狭くて汚い家に不似合いな洋装の男のつむじを見ながら、ヒコイチは手にした餅を、ようやくほおばった。

 

 ―――と、そのとき、窓際のそれに気付く。



       「っこ、こらあああああ!!」


 ヒコイチの怒鳴り声に身をすくめたのは、干した布団の上でくつろごうとしていた猫だった。

 怒鳴っただけでは足りないのか、餅とドテラを落とした男は窓際に駆け寄り、両手をやたらと振り回した。


「・・・ヒコさん?どうしました?」


「・・・ノブさん・・」


「はい?」


「まだ、全部じゃねえだろ?」


「え?」


「か、乾物屋だよ!乾物屋!カンジュウロウじいさんだよ!!」


 ああ、とのんびり笑うお坊ちゃんは、ヒコイチのひきつった顔に気付くこともなく、どう説明したものか迷った。


「実は、それに関しては、正直ぼくもなんとも言えないんですよねえ。セイイチさんには、あんなこと言ったけど、ぼくは、セイベイさんがボケたふりの中でしてるんだと思っていたから、それを強調したかっただけなんだけど・・・。どうも、セイベイさんは、ボケとかのふりじゃなくていまだに本当に信じてるみたいだし。そうなると、独り言も、『ふり』じゃあなくなるわけで・・」


「 『ふり』じゃあねえ 」


「はい?」


 なぜか、ヒコイチの声は怒っている。


 窓枠から布団を奪うように取ると、それを体に巻きつけて足音も荒く戻る。

「・・・乾物屋、ほんとに戻ってきやがった」


「・・はあ?」

 

 拗ねたように、ヒコイチはそのまま布団に転がり、そっぽをむいた。


「西堀のじじいの見舞いに、桜餅持って行ったらよ ――」





 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ