親父のせいだ
「だ、だから、じいさん ――」
「まあ、強く、当たったのかもしれませんねえ。牽制の意味をこめて。それに、周りの者へも、『自分は気付いてるぞ』ってわかるように」
気付いていなかったのは、ヒコイチと、若旦那だけ。
「それでも、お嫁さんの習慣は治らなかったようです。で、しかたなく、セイベイさんが、直に話すことになった」
『 若奥様が亡くなったのは、大旦那様のせいですよ 』
だからといって、セイベイが悪いわけではないと言った女の顔がよみがえる。
人との接し方が下手だともくわえ、もどかしげに声を震わせたサネは、すべて、知っていたのだ。
だが、自分では何も出来ない。
相手は、なんといっても、お店の奥様である。
「セイベイさんに、諭されたとき、フキコさんは、それはそれは、ひどく驚いた顔をされたそうです。そして、怒鳴って飛び出したのを、サネさんが見ていた。きっと、ひどい侮辱だと取ったでしょうね。自分が信じてきた普通のことを、ひどくきつく言い表されて・・・」
「・・・じじいは・・言葉を、選びませんから・・」
薄い色のお茶をのぞき、自害した娘の顔を思い浮かべようとしたけれど、もう、はっきりとは、思い出せなかった。
「きっと、――それとなく、関係をもった者に、告げたんでしょう。お店をやめるように」
「かぁ・・・で、あんなに働き盛りが、いっぺんにやめちまった、と・・」
残ったのは、引退も近い大番頭と年寄り。まだ、商売もできないような小僧数人。
「若旦那は、 ――怨んだでしょうね」
「 ―――― 」
結婚から反対されていた。
嫁いでくればいびられるように怒られ続け、あっという間に亡くなった若い嫁は、真相を知らぬセイイチにしてみれば、天真爛漫なかわいい女だった。
それが、 ―― 通夜の席でも父親は何も言わない。
しかも、喪が明ければ、揃って皆が辞めると言い出す。
どこをどう考えてみても、
―――親父のせいだ。




