表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西堀の隠居のはなし  作者: ぽすしち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/23

ねらった?


  

     ――― ※※ ―――



 ぞぞ、っと、お茶をすすったヒコイチは、お坊ちゃまのさしだすそれを、にらんでから手に取った。


「嫌いでしたか?」

「いや、嫌いじゃねえですよ。ねえですけど・・・」

 やつ当たるように、その柏の葉が巻きついた餅に、食いつく。


 ヒコイチの狭い家にやってきたおぼっちゃまはその様子をうれしそうに眺める。

「――セイベイさん、お元気になられましたよ」


「・・ええ。ここにも、きやした」

 うんざりしたように言えば、相手は、そうですか、と嬉しげに笑う。その顔を見て、思わず、聞いた。

「・・・書くんですかい?」

「―――――」

 見合った眼の色が、同じ人種とは思えないほど薄くて、ガラス玉みたいだと、どうでもいい事を考える。

お坊ちゃまの感情が読めないのは、きっとこいつのせいだ。


 そのガラス玉が、くるりと動いて、くすり、と音までもらした。

「―― さすがに、友達をなくしてまで、書こうとは思いませんよ。どこかの作家先生のように、己の全てをさらけ出す勇気も、人生を賭ける気概も持ち合わせてはいない、ただの金持ちの道楽者ですから」

「・・・いや、なにもそこまで・・」


 お坊ちゃまは笑い、いいのです、とヒコイチがいれた薄い茶を飲む。


「ぼくはね、ヒコさん。今度のことで、本当は、やっちゃいけないことをやってしまった」

「はあ?あんたが?」

 思わずその顔をよくみようと身を乗り出せば、羽織っていたドテラがずり落ちて、お坊ちゃまになおされた。


「・・・乾物屋さんのあの話は、本当はセイイチさんにはしてはいけないものだった。あの話をすれば、彼はきっと、《自分の予想よりもはるかに父親がボケてきている》と、思ってしまうだろうとわかっていました。が、―― ぼくはあえて、それを狙いました」

「ねらった?」


 そうですよ。と、お坊ちゃまはうなずいた。


「ぼくがみたかぎり、『とめや』のなかはひどい緊張状態にあったので、それを、どうにかしたかったんです」

「『緊張』って、あんた・・・」


 あの、一回きりの訪問で、この男はあの家の中のことを全て見抜いたとでも言うのだろうか?そこで、すぐに動いた、とでも?


 言葉もだせずに驚く顔を笑った男は、言ったでしょう?と身をもどして湯飲みを置いた。

「はずれたこと、ないんですよ。ぼくのこういう『思い込み』って」

「・・・・・・・」

「また、そういう『ろくでもねえ』って言いたそうな顔をしないでください」


 言いたくもなる。

 ヒコイチなど、いまだに、よくは、わからないままなのだ。


 倒れたセイベイの見舞いに行ったのは、セイベイの容態が落ち着いたと聞いてから。


 倒れてから、六日も経ってのことだった。

 




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ