人々の鏡
「ここにしようかな」
青空の中、たなびく白い暖簾の隙間から、俺は中を覗いた。
繁盛していた。大勢の人がいた。が、席はまだ余っていた。だから入ることを断られた俺は文句を言わずにはいられなかった。
しかし、ここの責任者は、
「そう仰られても駄目なものは駄目なのです」
「たった一人なのに! 席も余ってるじゃないですか!」
「あなたのためを思ってのことですから」
彼女が言った。
「え?」
「ご覧なさい」彼女は周囲を見渡して、「行儀の悪い奴らばかりです。食い散らかしたものは、リサイクルもしないで、そのまま捨てる。他人の席まで占領して少しもはばからない。席など一つで十分なのに」
吐き捨てるように言った。
確かに彼女の言う通り上品な集まりとは言えないようだ。が、
「で、でも、優秀な人もいるはずです!」
俺は言った。
「勿論、いるにはいますが」そう言うと彼女は温度計を見て、「あ! また温度を上げたな! 氷が溶けるじゃないか! と、言ったところで、最早、手遅れなのだが……」それから、「あなたも、いつまでもこんなところにいないで、早くお行きなさい。もっといいところがあるはずです」
「どうしても駄目なんですか?」
俺の言葉に彼女はうなずいた。そして、
「あいつらの身勝手のせいで、じきここは放射能だらけになります。あいつらは私と会ったことさえ忘れているのです。あなただって、」
話の先を察した俺は、
「わ、分かりました。教えてくれて、ありがとう……。じゃあ、アンドロメダの方にでも行ってきます。神様もお元気で」
再び雲をくぐり抜けて俺は地球から離れた。その直後、大きな爆発が起こった。どす黒い雲が地表を覆い始めていた。俺は、あらん限りの声を張り上げて、彼らに別れを告げた。
「さようなら地球人! そして俺を産んでくれたはずの、大切なお母さん!」
了
「わ、分かりました。教えてくれて、ありがとう……。じゃあ、アンドロメダの方にでも行ってきます。神様もお元気で」
たなびく白い雲の暖簾から離れて、俺はアンドロメダに向かおうとしていた。その直後、大きな爆発が起こった。どす黒い雲が地球の表面を覆い始めていた。俺は、あらん限りの声を張り上げて、彼らに別れを告げた。
「さようなら地球人! そして俺を産んでくれたはずの、大切なお母さん!」
了