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7話 不合格です。

「あ、ありがとう」


 男が指し示す先にあるのが聖剣魔術学園、そして今、その校門の前に双子は立っていた。遠目からでも相当大きく見えていたが、近くに立ってみるとそれ以上にデカイ。時計塔なんて見上げていると首が痛くなるほどだ。


「……着きましたね」


「ああ」


「……私達はどこで迷ってたんでしょうね」


「……ああ」


 空を飛んで着くほど距離が離れた場所で彷徨っていた自分たちが急に恥ずかしくなる。大きな大きな聖剣魔術学園の校舎を前に自分たちのちっぽけさを嫌というほど感じさせられた双子。恥ずかしいっ、と顔を覆う。


「入らないのかい?」


 そんな双子は男の言葉にハッと我に返った。そう、ここまで迷って恥を晒して男に助けを求めて、なんのために来たかと言えば、


「そうだ、急ぐぞシトラ!」


「はい! ……あ、道案内感謝します!」


 双子は慌てて校舎へと駆け出していく。もしかしたら、と一縷の望みにかけて。そんな双子の後ろ姿を見ながら男はふぅと息をついた。羽ペンをクルクル回しながら嬉しそうに、まるでいい玩具でも見つけたかのように笑っていた。


「全く、今年の1年には面白いやつがいるみたいだね......?」


* * * * *


「不合格です―――」


「なっ―――!?」


 校庭を突っ切って校舎を目指し走っていた双子。だが、何か言葉を発する前に非情の通告がなされた。告げたのは教師だと思われる女。アザミはグッと唇を噛みながら、必死の思いで頭を下げる。


「そこをなんとか! ……試験さえ受ければ合格してみせるっ!」


「それは大した自信ですこと。でもですね、時間すら守れない人間はこの学校に必要ありませんの。あなた達、今何時だと思っているの?」


「……19時42分ですか?」


 シトラが時計台を見上げて答える。皮肉を理解していないシトラの純粋な答えにガクッとつまずくその女教師。


「いや、正確な時間は聞いてないのですけどね、、」


 「ゴホン」と軽く咳払いをしてずれ落ちた眼鏡を直し、「とにかく、、」と女教師は話を続ける。


「とにかく、試験はすでに終了していますの。これ以上ゴネてお引取りいただけないようなら憲兵を呼びますわよ?」


「そ、それは困る......」


 憲兵、という言葉にうろたえる双子。騒ぎになるのは御免だった。かと言って、聖剣魔術学園へ行くために村を出てきた以上ここで引き下がるわけにもいかなかった。


「……でも不合格になるのも困る」


「なっ!? あなた達......なんてワガママなのかしら! い・い・か・ら、帰りなさい―――!」


 ムキーッと雷を落とすように怒りながら、女教師が双子を追い出そうとする。追い出されると困るので一応抵抗してみる双子。そんな騒ぎを聞きつけたのか、そこへ一人の老人がやってきた。


「なんの騒ぎですかな。サリー先生」


「学園長先生!? いや、この子達が今から試験を受けさせろってうるさくて......」


 サリー先生、と呼ばれた女が学園長に業務用スマイルを見せる。学園長と呼ばれたその男は西の仙人よりかは随分若く見えるが、それでも60半ばというところ。背筋はピシッと伸びていて服の下でも鍛えているのだろうなと分かる。明らかに知識や人徳で成り上がったタイプではなく武闘派だが、やはり失うものの無くなった双子に怖いものはない。


「ちょうどよかった。学園長って一番偉いんだろ? 俺達の合格を認めてくれっ!」


「なっ、なんて口の利き方なの!? この方はね、元王都騎士団最強の魔術師で、今はこの聖剣魔術学園の学園長を務めていらっしゃるオルテウス・ザッカリア先生なのよ―――!」


 学園長、オルテウス相手にも物怖じせず、むしろ失礼な勢いで絡みに行ったアザミをサリーが真っ赤になりながら怒鳴りつける。だが、


「そう言われてもなぁ」


 名前を聞いたところでアザミにとっては知らんジイサンなのである。王都騎士団最強、と言われても辺境の村出身。学校で習うことといえば魔術や剣術、著名人ではなく農業や商業が中心のような村出身のアザミには一切の心当たりがない。だが、シトラは違ったようだ。


「……ザッカリア、ですか。もしやエイワス・ザッカリアと何か関係が?」


 シトラがキーキー文句を言っているサリーを無視してオルテウスに尋ねる。シトラが気になったのはその家名、“ザッカリア”というオルテウスの名字だった。そして“エイワス”とは300年前、勇者シトラスの副官、一種の側付きをしていた男の名前だ。その懐かしい名前と偶然に両手を合わせてパァーッと表情を輝かせるシトラ。


「いかにも、聖剣士エイワス・ザッカリアは僕の古いご先祖様だが……なぜ君がそれを?」


 だが、自分の4分の1ほどしか生きていないシトラに急にそんなことを言われてオルテウスは訝しげな表情を浮かべていた。自分のことを知らないのに過去のご先祖様のことは知っている、不自然極まりない。


「エイワスは私の良き副官でした、、っとイケナイ。冗談です。た、多分どっかの本で読んだんですよ。アハハ……」


 だがそんな不自然さに気が付かず、ついうっかり300年前のことを語ってしまいそうになったシトラはブンブンと手と首を振って慌てて誤魔化す。


「あ、あの! 試験なんですが……やっぱり無理ですか?」


 そして慌てた様子で話を逸らした。ようやく戻ってきた本題にピクリと眉をひそめたオルテウス。だがその首をゆっくりと横にふる。


「そうだね。僕も君たちの力は見てみたい。でもね、これは規則なんだよ。サリー先生がおっしゃったようにね時間を守れないというのは魔術師としても勇者としても不適合だからね」


 優しく言っているが目は笑っていない。そんなオルテウスの横で「ほら、言ったでしょ?」とサリーは誇らしげな表情を浮かべていた。


―――なんかイラッとするっ……


 だが、それでも二人の教師が言うことは正論だ。ゆえに言い返す言葉をなくし、口をすぼめるアザミ。そこにふと気になったのだけどね、とオルテウスが優しく尋ねてきた。


「いったい君たちはどうして聖剣魔術学園に入学したいんだい?」


「それは……」


 入学したい、しなければならない理由―――アザミとシトラは10年前、森の小道で仙人に言われたことをを思い出していた。



『16になったら王都セントニアへ行くのじゃ。そこに学園はある。この紙があれば入学試験を受けることが出来る。よいか、お主らは今の世界では素人も同然じゃ。先程のアグリーカと言ったか、下位魔術師に苦戦するほどのな―――』



 そう言って西の仙人が双子に手渡したもの、それは―――


「そうだ! あの羊皮紙があれば......!!」


 思い出したようにシトラがポーチをゴソゴソとあさり、その中から古い封筒を取り出した。封も開けておらず、それはもらった時のまま。オルテウスはその古びた封筒を見て目を細める。


「それは一体何かな?」


「10年前、西の仙人ってじいさんからもらったものだ。これがあれば入学試験を受けられるってな」


 アザミがその封筒をもらった経緯をそう淡々と語る。だがオルテウスは『西の仙人』という言葉に一瞬ハッとした表情を浮かべた。そしてふむ、と考え込み、双子の方へスッとその手を差し伸べる。


「……拝見しよう。どれどれ、、、」


 オルテウスがシトラから封筒を受け取ってその封を大切そうに解くと、しばらく中の羊皮紙を見ていた。その内容、筆跡、くまなく目を通したオルテウスは、やがてフッと表情を崩し、封筒をシトラに返した。


「なるほどな。あのお方がそう申しておったか......」


 キュッと両目の間を摘んではぁー、と息を吐き出すオルテウス。サリーはシトラの持つその羊皮紙とオルテウスの顔とを交互に「えっ、えっ?」と見比べながら困惑した様子でオルテウスに尋ねる。


「学園長先生、あの紙に何が書かれていたのでございますか?」


「……お前には関係のないことだ、サリー。……良いだろう。アザミ・ミラヴァードとシトラ・ミラヴァードだね。特例として、君たちの学園への入学を認めよう―――」


 そう言ってオルテウスが双子の肩をポンッと叩く。その言葉にサリーはポカーンと口を開けたまま固まっていた。だが、そんなサリーよりも驚いていたのは、


「え、本当にっ......?」


 さすがのアザミも予想外過ぎて言葉を失っていた。羊皮紙だってこの学園に遅刻しながらもたどり着いたのだって、ほとんどダメ元だったのだから。ここまで来ると運がいいとか奇跡というより、むしろゾクッとする。


(あの仙人のじいさん、本気で何者なんだ......?)


 聖剣魔術学園に“入学試験に遅刻したから”通えなかった―――そんな未曾有のピンチを救ってくれた西の仙人にありがたみというよりなにか恐ろしいものを感じていた。そんなまだ実感の湧いていないアザミにクルリと背を向け、オルテウスがポンッとサリーの肩をたたいた。


「サリー先生。新入生への支給品一式を持ってきてくれるかな?」


「は、はい……」


 肩を叩かれたことでハッと我に返ったサリーだったが、やはりまだ納得できないという表情をしていた。だが、学園長であるオルテウスの一言で素直に校舎内へと消えていった。


「……さて二人とも。今回は良かったが、次からはキチンと時間を守るんだ。いいね?」


「はい、すいません、、、」


「支給品には制服であったり教科書であったりが入っている。君たちの出身は西の方だったね? なるほど、あの男はそのまま定住しているわけか。……いや、こっちの話だ。それで、寮については明日からとなるのだがいいかな?」


「ああ、すでに宿は準備してあるからな」


「あとアザミ君。僕はいちおう学園長なんだ。敬語を使いたまえよ?」


 オルテウスがアザミの目を冷たく見つめる。つい魔王であった時の調子で高圧的に喋ってしまうのだ。アザミはハッと口を押さえ、頭を下げて謝る。


「分かりました。以後気をつけます......」


 そんな従順なアザミに分かればいいのだ、と再び優しい顔に戻るオルテウス。あごひげをさすさすと触りながらふむ、となにか考え事をしていた。


「さて、君たちのクラスなんだが......ふむ、選抜でもないし一般入学でもない。さて、どうするべきかな……」


「―――それならうちにくださいよ、学園長先生?」


 その時、双子の後ろから聞き覚えのある声がした。振り向くとそこには先程双子を空経由で聖剣魔術学園まで送ってくれたスーツの男が立っていた。


「こいつらはなかなか面白いでしょ? できれば俺のクラスで受け持ちたいんですよね」


 ペラペラと、まるで教師かのような口ぶりで話すスーツの男に未だ状況が飲み込めない双子。だがそれを横目に男はオルテウスの方へとスタスタと近づいていく。


「ふむ......いいだろう。君なら安心だ。では、あとは頼んだよ―――」


 なんの説明もなく頷くと、オルテウスはそう言い残して校舎の方へ戻っていく。男はその背中を見送ると、改めて双子の方へクルッと振り返るとニコリと人懐っこい笑みを向けた。


「ありがとうございます。……ということでアザミ君、シトラちゃんだったね。今決まったけど、俺が君たちの担任、ハイル・バードマンだ。よろしくっ!」


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