74話 とある女子寮の一日 おかわり!
「……婚約者って言っても、、お父さんが勝手に決めたことなの! わたしは……別に、、」
エイドが拗ねたようにそっぽを向く。話によるとエイドは村の村長の娘で、近隣の街にすむ貴族の息子様との縁談を組まれているらしい。父親にとっては、家の株もあがるし、村長としても村と貴族との繋がりを作れるのでいい事づくめだろう。でも、勝手に将来を決められたエイドにとっては……
「ふーん。でさ、エイドちゃんはグリムのことどう思ってるのよ!」
「え、えぇっと、ただの幼なじみだよぉ~」
恋バナを諦めきれず、グイグイと迫るフレイアを鬱陶しそうに押し返すエイド。
「そ、そういうフレイアちゃんはどうなの? グリムと、毎日密室で会ってるみたいだけど……」
「あ、あれは違うわよ! 模擬戦よ! 毎日一戦交えるって約束でこのクランに入ったんだもの!!」
エイドの逆襲にフレイアが慌てて「ないない!」と顔の前で手を振る。
「ほんとかにゃ~? 実はフレちゃん、グリムくんに気があったり……」
「ほんっとに無いから! 私が好きなのは……トーチ、だし……」
少し下を向いて恥じらいながらフレイアが言葉を絞り出す。
「――まぁ、それは知ってたよ。リイちゃん……」
「クレア!? どうして知ってるのよ!」
「うーん、、見てたら分かるよぉ? だってリイちゃんの目、恋してたから」
小っ恥ずかしい言葉に顔が真っ赤になる。アネモネがニヤニヤ笑う。
「ちょっと! 私に言わせたんだからアンタも言いなさいよ! アネモネ・フィリス!!」
「にゃ? ネモちゃんの好きな人はムーちゃん一択、、だにゃ!」
そう言ってレインにギュッと抱きつく。「ふわぁっ」と、素っ頓狂な声を上げてレインが床に押し倒される。
「ムーちゃん~」
「や、ヤメロォォ!! ネモ、やり過ぎだぞ! 誤解されてしまぅ」
「え~、つれないにゃ~」
残念そうな顔でアネモネがレインの上から離れる。フレイアが恐る恐る尋ねる。
「あ、アンタら、本気なの……?」
「そうにゃ」「違う!!」
アネモネの即答に対し、レインがスリッパで頭をパコンと叩く。
「さて、、なんか話が逸れちゃったわね」
「別に逸れてないと思うです。ただ、話が生々しい方向に行き過ぎただけです」
窓に背をかけ、ずっと立ったままのリンがボソッと呟く。その言葉にフレイアの耳がピクリと動く。
「そーいうアンタはどうなの……? ヒトの秘密はたっくさん知ってるくせに、自分の秘密はダンマリなのかしら?」
「私、です? 気になる人ならいますですよ?」
リンが躊躇なくそう言い放つ。エイドがグイッと食いつく。
「え!? リンちゃんにも好きな人いるの? それ、めっちゃ気になるな!」
キラキラと目を輝かせ、胸をときめかせるエイドの肩をアネモネがポンッと叩き、首を横に振る。
「エイドちゃん、それはデジャビューだにゃ」
「でじゃびゅー? 何それ、、」
「“既視感”、ってやつだにゃ。にゃー、リンちゃん。まさか、『気になる人はアザミくんです。なぜなら、彼はミステリアスでまだまだ知らない情報が沢山あるです。傍にいれば、もっと知れるです』、とか言うんじゃないにゃ?」
「――すごいですねアネモネさん。一言一句そのままです」
パチパチと拍手をして驚きを表現するリンに「はぁ」と肩を落とす。
「……そんなことだと思ったにゃー」
「“気になる人”って、そういう意味じゃないのよ……。あ! これであと言っていないのは1人だけよ!!」
バッとフレイアがシトラを指さす。
「さぁ、恋バナのトリはあなたよ。シトラ・ミラヴァード! 言っとくけど、『私は剣を愛しています』とかは無しよ!!」
『え? 僕のことが好きなのかい? マイエンジェル』
フレイアの言葉にフィルヒナートが反応する。
「はぁ、恋愛対象としては見てませんよ……?」
ボソッとシトラが呟く。フィルヒナートの声を理解できるのは、この場にはシトラしかいない。
「さぁ、さあ!」と催促の視線を向けられ、シトラが諦めたように息を吐く。
「何を期待しているのか知りませんが、アザミではありませんよ?」
「え~。そこは『お兄ちゃん大好き!』って流れじゃないのぉ?」
「あなた達は私たちをどう見ているんですか……」
シトラがため息を着く。
「まあ、兄妹だもんね。で、好きな人は誰よ。気になる人でも、ってそれはダメなのか、、」
悪しき前例をちらりと見る。
「うーん、、いない、ですね。そもそも恋愛というものに興味がないので……」
「いやいや、それはだめだにゃ〜。皆言っているんだから――」
「恥ずかしい、とかじゃなくて本気で誰も思いつかないのです。強いて言うなら、、アザミですかね?」
「――やっぱり兄なのか!?」
フレイアが飲みかけていたお茶をブ―ッと吐き出す。その背中をクレアがポンポンっと叩く。
「――強いて、ですよ。恋愛対象としてみているのは誰もいないですね、、」
「と、トーチに対してもなんとも思わないわけ......?」
恐る恐るといった感じでフレイアが確認する。シトラが考えるように天井を見て、
「うーん、、かっこいいとは思いますが......やはり友人、と言った感じです」
と、きっぱり答える。トーチは知らぬ間にフラれた......。
「ふーん、、。本気であんたって戦い以外に興味がないのね」
「そんなことはありませんよ? 最近はこうやって皆で集まるのも、オシャレをするのも“楽しい”と思えるようになりましたし......」
つまらなそうに言うフレイアにシトラがそう言って微笑む。
「――なんか、冷めちゃったわね。一周回ったことだし、今夜はお開きにしましょ?」
フレイアの一言に「はーい」と片付け始める。
「なんか、ごめんなさい……」
「別にシトラちゃんが悪いわけじゃないよ〜?」
「そうにゃ。今は興味がなくても、いつか好きな人が見つかるにゃ。その時は――」
アネモネが背後からシトラの背中にギュッと覆い被さり、
「――ネモちゃんらに報告してくれたらいいにゃ!」
そう耳打ちしてニッと笑う。
「そう、ですね。その時はぜひ相談に乗ってください――!」
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皆が帰り、打って変わって静寂が支配する部屋でシトラはポツンっと立っていた。
「――フィルヒナート、初めてじゃないですか? あなたが魔力無しで喋るだなんて」
『気づいてたかい? さすがはマイエンジェルだね! ……そうだね、僕は君の魔力が無いと喋ることも出来ない。実体化はあの坊やの魔力を分けてもらってやっと、ってとこだ。でも――』
「でも?」
スッと言葉を切ったフィルヒナートにシトラが続きを促す。
『でも、ココに来てから調子がいいんだ。喋るつもりはなかったんだよ? なんていうかなー、、実験? しただけなんだ。そしたらホントに君に伝わった』
フィルヒナートの操る言葉は精霊語だ。それに対して感受性を持つのはアザミとシトラ、ニアにシャーロットといった300年前を知っている者たちのみ。だから喋ったとしても大丈夫なのだが……
「でもどうしてですか? どうして、魔力無しで――」
『そこだよ、マイエンジェル。僕の力になるのは君の魔力だけじゃないだろ?』
フィルヒナートがいたずらっぽく笑っているように見える。シトラがバッと窓の外を見る。夜の風が木々を揺らしていた。
「――まさか、この島では……」
フィルヒナートが魔力無しで喋れたのも、ニアが、天使族がこの島を好んでいるのも、悪魔の森と呼ばれている理由も説明がつく。
「……精霊が、生きている......?」
森は何も答えない。ただ、風に葉を揺らすのみだ。
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