66話 出発進行
「ほれにひても……っとと、木こりって大変ですね、、」
シトラが口に入れたサンドイッチをごっくんと飲み込む。そしてその両手にはしっかりと次のサンドイッチが準備されている。
(こいつって、見た目に反してかなり食うよな……)
アザミがチマチマとサンドイッチを食べながらシトラをチラチラと見る。
「木こりは大変だけどね、もう慣れたよ。コツさえ掴めば、ね。シトラちゃんも大きくなったら継いでくれないかな......?」
「……ごめんなさい、、。私は勇者として魔王を倒すという目標があるので」
シトラがそう言ってアザミをちらっと見る。目が合う。
(“魔王を倒す”のところで俺を見るな……)
「そっか〜。じゃあ、シトラちゃんに継いでもらうのは諦めるか、、」
「でも私がミラヴァード家を継いで騎士団に入りますよ。父さんの後を継いでね」
シトラの笑顔にユーゴが「オヨヨ、、」と顔を背ける。
「あらあら。ユーゴ、泣いちゃったかしら?」
「な、泣いていないぞ、、!」
そう言いながらも目頭を押さえているユーゴ。それを見てアザミは思った。
(俺が木こりを継ぐ、という選択は無いのな、、)
朝の進行状況はユーゴが木を一本仕上げ、二本目を切っている最中。シトラが一本目を切り終わるか、というところ。アザミは夕刻までに一本切れれば「よくできました」のレベル。
アザミに木こりの才能はないのだった。
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「じゃあ、頑張るのよ!」
サンドイッチも飲み物も、全て空になったバケットを持って、メアリーが森を後にする。
「じゃあ、もうしばらく頑張ってみるか!」
ユーゴがグッと拳を天に突き上げる。「ほーい」「はい!」と各々返事をして、作業を再開する。
「えっと、、3人で木材が4本も作れたら上出来だね。じゃあ、僕はこれをギルドに運んでくるよ」
ユーゴが木を一本、「よいしょっ」と肩に担ぐ。
「手伝おうか?」
「ああ、いいよいいよ。大丈夫。2人は夕方には出発するんだろ? その準備をしてなさい」
残りの木に手をかけたアザミを静止してニコリと笑う。
「じゃあ、僕は木をギルドに運んだら、取りに行かなきゃならないものがあるから……」
「はい、わかりました。……では、アザミ。どうしますか?」
来た道を木材を担いで歩いていくユーゴの背中が森の中に消える。それを見届けてシトラがサッとアザミに向き直る。
「そうだな、、少し向こうに持っていく本がほしい。本屋で何か見繕ってくるよ。シトラはどうする? 一緒に来るか?」
アザミの誘いに「うーん、、」と、しばらく考え込んだあと、静かに首を横に振る。
「いえ、やめておきます。私は荷物の整理をしておきます。アザミと違って、色々持っていくものがあるので」
と、いうことでアザミとシトラは森の入口まで共に戻り、そこから別行動を取ることになった。アザミは本屋へと向かい、シトラは家に帰る。
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昼が過ぎ、日も高さを落としてきた頃、アザミが村の小さな本屋から数冊の本を持って出てくる。
(ちょっと買いすぎたか、、? まあ、魔術の勉強には丁度いいか。また必要な場面で術を知らない、なんてことになるわけにはいかないからな……)
思い出すのは数週間前の記憶。クリムパニス大墳墓での一戦で“効果的な水魔術”を知らなかったがために最善の選択肢を危うく潰しかけた、自身の弱さを象徴する記憶。
(あのとき精霊石がなければ、、俺達は死んでいた……)
そう思うとゾクッとする。もし精霊石がなければ。もしあの少女に出会わなければ。もし、少女とぶつかっていなければ。
(――なんであの女の子は精霊石なんて持っていたんだろう、、)
「遅いですよ!」
家の前で、シトラとユーゴ、メアリーが待っていた。
「悪い悪い。ちょっと本選びに手間取ってしまって、、な」
アザミが鞄に本を押し込む。『現代魔術大全』『水魔術の基礎』など、表紙が見える。
「……勉強熱心なんですね。私には真似できないや、、」
「その代わりシトラには剣があるじゃないか。俺は武器の扱いに不慣れなぶん、知識や魔術で戦っていかなきゃな」
双子は家に帰ってきたよりもパンパンになった鞄を持つ。
「それでは――」
「待ってくれ」
荷物を持ち、去ろうとした双子にユーゴが声をかける。
「なんですか?」
「そんな荷物の中渡すのは迷惑かもしれないけど......受け取って欲しい」
そう言ってユーゴがシトラに何やら武具を手渡す。
「これは、、腕当、腰当、胸当、肩当ですね......。でも、どうして――」
シトラが渡された白のマントと体の各部位につける銀色の甲冑を不思議そうに見つめる。
「……父さんが作ったんだ。僕たちは離れて暮らす2人に対して何もサポートしてやれない。ならせめて、物で支えてあげようと思ってね。作ったんだ」
「父さん……。ありがとうございます、、」
シトラが口元を緩ませ、キラキラした瞳で嬉しそうに武具を見つめる。
「良かったな、シトラ。これで体にかかる負担もだいぶ減るだろう」
アザミも妹の喜びようを見て自然に頬が緩む。そんなアザミにメアリーが「はい、これ〜」と何やら服のようなものを渡す。
「あ、ありがとう。これは、、、、」
「それはね〜、母さん手作りのローブよ。魔力効率上昇の加護を付与してあるから、アザミくんを助けてくれるわ」
「魔力効率上昇!? なんでそんな上級加護をつけられるんだよ……」
おいおい、とアザミが苦笑いする。
それもそのはず、そもそも武器や服に“加護”と呼ばれる効果を付与するのは誰にでも出来ることではない。服の場合は作り手が自身の魔力で糸と布を作り、それを丹精込めて編み込む。並の人間には出来ない。
さらに、『魔力効率上昇』なんて上の上だ。効率が上がると、魔力の一部を他に割けたりする。例えば、攻撃術式を用いながら防御を貼ったり。自己加速術式を使いながら回復ができたり。つまり一度に複数の魔術を使えたりする。
(この2人って、意外と凄い、、のか?)
ただの馬鹿だと思っていたユーゴとメアリーの凄さを初めて実感した。やはり一度離れてみると当たり前は当たり前でなくなるらしい。
「1日ちょいだったけど、新鮮で楽しかったよ。また冬には帰ってくるから」
2人は貰い物を大切そうに小脇に抱え、家を後にする。
「頑張れよぉぉ!! アザミくん! シトラちゃん!」
「母さんも父さんも、ずぅっと応援してるからね〜!」
そんなエールを背に受け、双子は振り返ることなく歩みを進める。夕日は双子の顔を正面から照らしていた。きっと振り返ったら、両親に赤く染まった表情を見せることになっただろう。
「プシューーッ」と煙を上げて黒い金属の塊、呪術列車がホームに滑り込む。
ドアが開き、何名か人が降り、その後に双子は車内に足を踏み入れる。目的地の島の最寄りまでは金貨2枚だった。
2号車、3号車、、と乗客の顔を確認しながら双子は車内を進んでいく。北西に向かう、ということもあってか、乗客はまばらだった。
「おーい! こっちだァ!」
5号車に足を踏み入れたとき、聞き覚えのある声が耳に入ってきた。赤髪の男がニィっと笑って手を振っている。
「やあ、グリム。元気そうだな」
「ったりメェだろうが。今から合宿だってのによぉ!」
グリムが自分の横の席をポンポンっと叩く。12人が向かい合わせで6人がけの椅子を2つ使って別れていた。
アザミとシトラはグリムの隣に座る。グリムの正面にはエイド。双子の正面にはトーチとジョージが座っている。
『え〜、、間もなく呪術列車はプレイスシティを出発いたします。車外のお客様は、お戻りください、、』
運転士のアナウンスが聞こえる。そしてドアが閉まり、2,3度警笛が鳴る。グッと背もたれに押し付けられっるような感覚。
「さあ! 合宿の始まりだよ!!」
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