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52話 魔王と勇者の出会い(4)

どれくらい休んだだろうか。第一の試練で精魂使い果たした私達はしばらく横になり、休憩していた。どちらも一言も発さずに。


そんな沈黙を先に破ったのはシスルだった。


「……シトラス、そろそろ行けるか?」


「ええ、、十分に休めました。あなたこそ大丈夫なのですか? 私より消耗していると思うのですが……」


試練の前、全ての罠を見つけ対処してくれたシスル。その負荷は計り知れない......


「俺のことは心配しなくていい。それよりも自分の心配をしろよ。なんか、、シトラスは見ていて危なっかしいんだ……」


「“危なっかしい”、ですか……。初めて言われました。どういう意味なのですか?」


「自分をもっと大切にしろってことだ」


そう言ってシスルは私の頭をパンッと叩く。そして手を差し出す。


「ほら、行くぞ」


私はその手を握り、立ち上がる。


*****************************


再び999段の階段を降りる。

一番下にたどり着くと、そこには赤い玉が埋め込まれた輝く扉があった。


「『S T(第二の試練)』、か。第一がヘルブズドギー、、第二は一体なんなんだ……」


扉の横に留められている木の札に書かれていた文字に触れる。

第二の試練、か……


「心の準備は……いいな?」


「ええ、行きましょう!」


シスルが扉に手をかけ、グッと押す。

ギギギギ......と軋んだ音を立てて扉が開く。


「ん……? 特に何かがあるわけではないのか?」


扉の中に足を踏み入れた私達が目にしたのは、紫色の光を放つ巨大な石。

あれは、、神殿の入り口にあった石だ......


「シスル、あの石を知っていますか?」


「いや、知らない。俺の眼でも何も見えないな……」


「あなたの眼で見えないってことは、あの石は見掛け倒しなのですかね」


「それは流石にないだろうな。あの石には何かがある。ただ、、、今はわからない」


私達は慎重に石に近づいていく。もしかしたら魔物を召喚するポータルかもしれないし、自爆装置の可能性もあるからだ。


「シスルの眼は、どのような力があるのですか?」


「魔力感知。あと干渉。今はそれくらいかな。もちろん出来ないこともあるんだが……」


「全能ってわけにはいかないのですね」


「もちろんだ。弱い魔力と強い魔力が混ざった場所では弱い方には感知も干渉もできない。あとは、、その魔力のカバー範囲が広すぎて空気と同化――」


突然、シスルの言葉が止まる。ハッとした表情で石を見る。


「ま、さか……この空間全体をカバーして効果を発揮できるのか!?」


「つまり?」


「この石が魔法攻撃を仕掛けてくるんじゃなくて、この石を核に空間全体が魔法に覆われているんだ!! 急げ――」


シスルが私の手を引いて駆け出す。が、私はその手を握れなかった。


「な…し………ん…!? はや…し………――」


何も耳に入ってこなかった。視界がぐにゃっと歪む。

そして不意にからだの自由が奪われる......


「(……)」


ドサッと体が地面に投げ出され、私は意識を失った――――


*****************************


「ここは、、どこですか?」


私はなにもない空間に1人、立っていた。


「シスル! どこにいるのですか?」


返事は帰ってこない。本当に私一人しかいないようだ......

とりあえず出口を探して歩くことにしよう。どっちを目指すかな……。って言っても真っ白な空間はまるで永遠に続いているかのようで、終わりが見えない。


歩いて、歩いて、歩き続けた。

何もないから通った道なのか、はたまたグルグルとループしているのか。

何もわからない。


「確か私は第二の試練の空間で謎の石の光を見て……倒れた? ってことはこの世界は“試練”ってことなのですか――」


試練、という言葉が脳裏をかすめた瞬間、何もなかった真っ白な世界に突如色がつく。

そしてふと誰か人がいることに気づいた。背中を向けている。私には気づいて、、なさそうです。


「あの、すみません......」


私はその後ろ姿に声をかける。だが、返事はない。

聞こえなかったのでしょうか? 私は声のボリュームをあげてもう一度声をかける。


「すいません! 聞きたいことが――」


その人は私が見えていないかのように無視し、スッと剣を抜く。


「戦闘ですか――!」


私もサッと後ろに飛び距離を開け、腰に据えた剣の柄に手をのばす。

が、その手は何もつかめず空を撫でる。


「あ、れ?」


剣は無かった。そしてそもそも“その人”は私に敵意があるわけでは無かった。

いや、まず私が見えていない、のか?


『…………』


“その人”がなにかつぶやく。剣がスゥっと水色の光を放ち、目の前が凍りつく。


「うわ!! ……あれ? 寒くないです?」


そこでようやく気づく。私は体験しているのではなく、ただ見ているだけだと。

“その人”をただ見るだけの観測者。


“その人”が剣を鞘にしまい、振り返る。

私はその顔を知っていた。毎日見ていた。


それは……私の顔。金髪碧眼で、無表情で。背は今よりかなり高い。つまり私が見ているのは“未来”?


未来の私が悲しげな表情を浮かべる。

その表情の向けられた対象は地面に膝を付き呆然としている銀髪の少女。


「ミイちゃん! なんで――」


なんで、なんで、なんで、なんで!?

どうして私はミイちゃんにそんな表情をするのですか?


『シトっち……』


未来のミイちゃんがぼそっとつぶやく。

未来の私は何も言わない。その肩を男がぽんっと叩く。


そしてそのまま二度と振り返ること無く、未来の私は去っていく。


「違う! 私は、、こんなことしないです! ミイちゃんを、たった1人の友達に悲しい顔なんてさせない!」


フワッと風が吹き、未来の2人の姿が消え、場面が変わる。


 未来の私は騎士だった。泣き虫の副官に苦労しながら、魔界との戦争に勝利を収めていった。

 未来の私は勇者だった。魔王と対等に戦えたらしい。街では多くの人が私を英雄と呼んだ。

 未来の私は孤独だった。わかり合える相手もいない。ただ1人の友人とは離れ離れ。あれから会っていない。唯一の話し相手は私の初めての部下で愛弟子で副官のエイワス。彼だけが私に積極的に話しかけていた。恐れを知らないのか、空気が読めないのか。


また、場面が変わる。


 未来のミイちゃんは王族だった。過去形だ。

 未来のミイちゃんは1人だった。親から見放され、彼女を慕っていた、いや、彼女の身分を利用しようとしていた人たちからも見限られたひとりぼっちの少女。

 未来のミイちゃんは強かった。身分が王族じゃなくなっても、自らの力で騎士団に入団した。戦争では多大な戦果を上げた。でも、出世することは無かった。元王族であることへの恨み、妬み。様々な感情が彼女の邪魔をした。

 未来のミイちゃんは弱かった。部屋で1人、泣いていた。彼女は何を呪い、何を恨み涙したのだろうか。運命だろうか。不条理だろうか。それとも……私だろうか。


「うわあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


頭を抱え、うずくまる。私のせいで、私のせいでっ……、、、、

ガンガン! と何度も頭を地面に打ち付ける。血は出ず、傷も出来なかった。

それでも何度も、打ち付ける。私は、私は、たった1人の親友を失う。


そんな未来に向かって、生きていくのか……!!



「――ぁぁぁぁあああ!!」


自分の叫び声で目を覚ます。「ハァハァ......」と肩で息をする。

真っ白な世界は消え、周りにはゴツゴツした岩の壁が広がっている。

元の世界に帰ってきたんだ……。帰ってきてしまったんだ、、、、


私は腰に手をやる。そこには剣があった。

私はそれを引き抜き、首筋に当てる。


「ハハッ……」


そうだ。今私が死ねば、私がいなければミイちゃんがあんな目に合うことはない。

死のう。消えよう。邪魔な私を、デリートしよう……。


剣を握る手に力を込める。



『見ていて危なっかしいんだよ』


……ほっといてください、どうせ今から死ぬんだ。


『俺がお前を無事に家に送り届けてやる』


……ごめんなさい。無事に、は無理です。


『自分をもっと大切にしろよ』


……うるさいうるさいうるさい! あなたに何が分かるんですか。


手が震える。唇を噛む。死にたい、死ねば未来は変わる。でも、、


「死にたく......ない……」


シスルと、ミイちゃんと、もっと一緒にいたい。約束を果たしたい。今日のことを話したい!

たとえ親友を失う未来が待っていたとしても、今は死ねない。約束したから……


カタンッ! と剣を落とす。目から大粒の涙が流れる。

熱い、、でも熱いってことは生きてるってことだ......。


私は変えてみせる。たとえそれが、どうにもならない未来だとしても。


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