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44話 生徒会には良いことしかないらしい

【聖剣魔術学園豆知識】

アミリー・クラウス

 2年A組の少女。生徒会書記を務める。薄桃色の髪をアップでひとつ結びにしているのが特徴。

表情はほとんどなく、いつも機械的に話す。たまに人間らしい表情を見せたりするが、決まって目が死んでいるため無意味。お昼は食堂で『セットメニューセットのみ』を食べる。

 順当に連載が続けば、9章で活躍する予定。そのときに過去が明らかになる。

「まず、本校の生徒会は各学年男女2名ずつから構成される。まあ、男女平等ってことだね。そして片方は新人戦MVP選ばれる、今年はシトラちゃんだね」


サラがシトラをビシッと指差す。


「生徒会の仕事は学生主体の行事(イベント)の運営、校内の巡視、学校運営、などなど」


「校内巡視? 俺達が引っかかったやつですか……」


アザミが苦笑いする。『入学式初日から生徒指導』という不名誉な記録を得ることになったきっかけだ。


「この学園には風紀委員がいないからね。校内風紀を正すのは生徒会の役割なんだ」


困ったもんだよ、とサラが肩をすくめる。


「とまあ、生徒会って言ってもそこまでやることはないよ。校内運営は会長の私がやるし、校内巡視くらいかな。こればっかしは強さがいるからね。だからMVPが選ばれるんだけど」


「なるほど、生徒会の仕事は大体わかった、です」


アザミがうんうんと頷く。だが、彼には他に気になることがあった。


「メリットはあるんですか? "仕事に対する対価”と、いうべきでしょうか」


「なるほど、それはもっともな意見だね」


サラがアミリーに目配せする。アミリーはそれを受け、無言で手に持ったバインダーをめくる。


「……生徒会役員の主な特権としましては、卒業後の魔術大学への推薦・王都騎士団への推薦・食堂での割引き・校内校外問わず有事の際の魔術使用の合法化・クラン『シルネストリテ(銀翼の雛鳥)』への加入、などでしょうか。一方で、生徒会役員による校則違反は他より重く罰せられる傾向がありますのでお気をつけを」


アミリーが淡々と、要点だけを簡略に述べる。


――なるほどね。生徒会に入れば将来は安泰。さらにデパートのときみたいに敵がいれば魔術を用いた戦闘が可能になるのか。いいことづくしに見えるな。シトラ(勇者)に限って校則(ルール)違反なんて考えられないし。だが……


「ふたつ、気になることがあるんですが、いいですか?」


「はい、どうぞ。アザミくん」


「クラン、ってなんです? 聞いたことがないのですが」


「クラン、はそうですね……“強さを求めてみんなで精進する場”、というのがわかりやすいかもしれません。例えば、団員同士でテストに向けての対策を立てたり、新たな魔術を開発したりと。簡単に言えば新人戦のチームを全校生徒から自由にメンバーを選んで作る、と言った感じでしょうか。そしてそのメンバーで鍛練に励むのです。先程言った『シルネストリテ』は学園内最高峰のクランです。当然選ばれたものしか入れません」


「その選ばれた強いやつどうしで教えあって高め合う、ってことですか?」


アザミの問いかけにアミリーが頷く。


「クランの説明に付け加えると、学園内には大小13のクランがあります。クラン同士が覇権や団員、情報を賭けて行う『クランバトル』や、特定のクランに属しているだけで校内でのステータスになる場合もあります」


なにそれ超面白そうじゃん。やっべ、俺作りてえ。

アザミの中にある魔王時代の血が騒ぐ。


「それって、誰でも作れるんですか?」


「いや、作れるのはリーダーとなる3年生だけ。それにかなり厳しい審査を通る必要がある。どっちにしろ、君は1年だからまだ無理だよ」


話を聞いていたサラがアミリーの代わりに答える。


「それで、シトラちゃん。生徒会に入る意思は固まったかな?」


「……今のお話を聞く限り、私には力不足かと思います。私は普通科ですし、兄と一緒ならともかく私単体では―――」


「うーん、アザミくんを生徒会に......っていうのは厳しいかな。もうひとりは決まっちゃってるのよね」


「どなたなのですか?」


「……生徒会に入るなら教えてあげるよ?」


 ニヒッとサラはいたずらな笑みを浮かべた。シトラはムグッと言葉に詰まる。好奇心旺盛なシトラは誰が生徒会をやるのか気になっているのだが、それを条件に出されると頷けない。


「……それと、普通科だから力不足っていうのも違う。アミちゃんも普通科……って言ってもこの子は特殊なんだけど。ま、何が言いたいかって、シトラちゃんは強いってことよ。私は人を見る目はあるつもりだよ?」


「……本当に、大丈夫でしょうか」


それでもシトラは心配そうにアザミの方を見た。アザミは息をついて、


「そんなもん、シトラが決めろ。俺の問題じゃない。ただ……」


「ただ?」


「――ただ、あの時(300年前)のお前は、今みたいに自分に自信がないやつじゃなかった。強い自分を持っていた。誇りに思えよ、シトラ。お前は俺を追い詰めた唯一の人間なんだから」


ヒューッと風が吹き、シトラの髪をふわりと揺らす。前髪の影に隠れていた目がキラッと輝く。


「……お兄さんの話を聞いて、改めて問うよ。シトラ・ミラヴァード。生徒会に入る意思はあるかい?」


サラの問いかけに、シトラはその目を真っ直ぐに見つめ、そして頭を下げる。


「わかりました。評価を頂いた以上、お応えしないわけにはいきません。喜んで参加させていただきたいと思います」


「ありがとう。そう言ってくれて助かったよ」


そう言ってサラが握手を求める。シトラがその手を握り返す。


「ところで、もうひとりの1年生役員の方はどなたですか?」


「それはね……誰だと思う? アザミくん」


はい! と唐突にアザミに質問を振る。


「急ですね。でも、1年の男子の中で選ぶならトーチでしょうか。俺以外では」


「正解。ってことで新生徒会役員はシトラちゃんとトーチくんに決定!」


いつ用意したのか、ニックが手に持ったくす玉の紐を引く。『祝! 新メンバー』と書かれた垂れ幕と、紙吹雪が舞う。そして破れたシャツの破片も舞う。ニックの筋骨隆々の肉体美が披露される。


「……ニック。魔術使用が認められるのは“有事”に限られるんだけどね?」


ニックの顔がサッと青ざめる。あほだ、この人。


「全く、私が何回もみ消してあげてると思ってるんだい。感情が高ぶるとすぐ脱ぐんだから」


「やべえやつですね」


すんなり本音が漏れて、慌てて口をふさぐ。幸い、聞こえていなかったようだ。


「じゃあ、シトラちゃん。アミちゃん。行こうか。さっそく話し合いたい議題があるんだ。次の行事(イベント)についてね」


「次の行事(イベント)? 一体何なんですか?」


「それはね、アザミくん。……テストだよ」


「テスト? 学力を測るやつですか? なんだ、また新人戦みたいな大規模な――」


「もちろん、大規模さ。なんせ、1学期を締めくくるのは『迷宮攻略試験』なんだからね。君たちにはダンジョンをクリアしてもらう」


「それは……レベルによっては死者が出ますよ?」


「うん。毎年のことだよ?」


アザミの問いに、何の躊躇もなく即答する。

アザミもシトラも、言葉を失う。


「普通にやればクリアできるさ。それにこの学園は青春を送る場じゃない。国を守る勇者を育成する場だよ。死が伴わないなんて甘いことが言ってられるのは新人戦だけさ」


そう言ってサラとニックは校舎の方へと戻っていく。

ハッと気を取り直したシトラも、アザミに一礼してその後を追う。


「――『俺以外では』なんて、相当の自信家なのですね」


「あいつには負けたくないって思ってるのは、俺もですから。先輩は行かなくていいんですか? 書記なんですよね」


「そうですね。でも、まだ『もう一つの気になること』の質問にお答えしておりません」


アミリーが無表情に、淡々と機械的にそう告げる。

アザミは「思い出した!」と手をポンッと叩く。


「食堂の割引きがあるのに、先輩はセットメニューセットのみを頼むんですか?」


「『生徒会役員は巡視で体力を使うから』とねぎらいの意味で学園長が設定してくださった特権ですが、残念ながら銀貨1枚分しか割り引いてくれないのです。食堂のメニューは全て銀貨1枚以上するのですが……」


「セットメニューセットのみは銀貨1枚以下だと」


「そうです。なので無料で食べられます。裏メニューです。でも他言無用でお願いしたいです」


「大丈夫ですよ。多分それ聞いてもほとんどの生徒は手を出さないとおもいます」


目を細め、念押しするアミリーに、アザミは「はいはい、わかりましたよ」と抑える。


「あなたの質問には答えた、ということでよろしいですか?」


「あ、はい。これは個人的な興味だったんで別に良かったんですけど」


「任務完了です。では、これで失礼いたします」


淡々と告げ、さっそうとその場から立ち去ろうとする。が、途中で立ち止まり、アザミの方を振り返る。


「――とある人に、占いというものを進められました。私にぴったりだと。それによるとですね、アザミくん」


真っ直ぐな目に思わずゴクリとつばを飲む。


「あなたには水難の相が出ています。気をつけてください」


「……はい!?」


そう言ってアミリーは再び振り返ることはなく、校舎へと消えていく。


「……今のは、、、なんだったんだ?」




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[一言] この役不足は誤用だ、食べられないよ 約不足です ? 約不足です
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