41話 見えない敵
できるだけ戦闘は避けたい。理想を言えば後ろから一撃で昏倒させる、っていうのがベストなんだけど。
スッと忍び足で近づく。まだ細身の男は気づいていない。アクセサリーを物色しているところだ。あと少し……。あと数歩……。
ヒュッとっ風が頬を撫でる。コンマ数秒して後ろの壁にピシッとひびが入る。
「!?」
「外したか。運のいい小娘だ」
細身の男がニターッと笑いながらその顔をこちらに向ける。
私は自分の頬を軽く触わる。手に赤い線がが引かれる。
避けたつもりだったのに。
「……気配は消していたはずですが?」
「ああ、危なかったよ。私がみていたのが宝石ではなく服飾なら殺られていただろう」
男の背後のショーケースのガラスに私の姿が写る。
なるほど、そういうことか。
「大事にするのは避けたかったのですが、、仕方ないですね」
フィルヒナートを強く握る。魔術を使ってはいけないため、聖剣もただの剣としてしか使えないのだが。
「まさか、私に攻撃を当てられるとでも? 私と貴方の距離は5メトといったところか。君の剣と、私の見えない魔弾と。どちらが速いかな?」
見えない魔弾。あいつの魔術か。
さっきの攻撃で分かったのはやつの手がさっと動くと同時に私の頬を何か石のような物がかすめていったということ。石は……おそらく宝石。そして見えない、私にはその石が飛んでくるのが見えなかった。手の動きと反射神経で避けれた、けど、こうやって向き合っている状態で放たれたらきっと避けられない、、、
戦闘には有利な距離というものがある。
アザミのような魔術師は長中距離戦を得意とする。私のような剣士は近距離が得意。
つまり魔術師と剣士が今みたいに戦う場合、私が必ず勝てるのは近距離戦闘。でも、この距離ではどうやっても相手に先手を取られてしまう。そして見えない攻撃は避けるのが難しいため、どうしても後手が不利、、、
状況を整理して、私はふぅと息を吐き、男の目をスッと直視する。
「確か、透明化は不可能術式でしたね」
「ほう、私の完璧な術に種や仕掛けがあるとでも?」
物体を透明化することは不可能。もしそんな事が可能なら、透明人間だって作ることが出来ることになる。それならあの術が干渉するのは……私の視覚、、!!
「――起きていますか? あなたの力を借りたい」
『もちろんさ、マイエンジェル! 言っただろ? “僕の出番”だってね!』
全く、相変わらず軽い子ですね。ふふっと笑いが漏れる。
バサッと羽織っていた上着を脱ぎ捨てる。多少動きやすくなった、かな。
「準備はいいのか?」
「ええ、行きますよ!」
グッと足に力を入れ、地面を蹴って飛びかかる。
同時に、男の指がピクリと動いた。右手に握っていた宝石が消えたのを確認する。
『お腹! 正面だよ!』
その声に私は無理やりブレーキを掛け、体を捻って横に体を傾ける。
シュッ! と音を立てて洋服の腹部が裂ける。だが、体には傷一つついていない。
「な、に!?」
男の口がポッカリと開く。信じられない、と心の声が聞こえてくるようだ。
「ぐっ……、、っぁぁああ!」
体制が崩れている、が、持ち直している時間はない。そのまま崩れた体勢のまま無理やり男に向かってジャンプする。
ガン!
と鈍い音が響いて、フィルヒナートが男の頭を打つ。フラフラ……としたあと、ドサッと地面に倒れる。
『……死んだんじゃない? コレ』
「安心してください。側面ですので……と言ってももう聞こえていませんか」
無理な体勢で飛んだせいか着地に失敗し、座り込む。シャキン、とフィルヒナートを鞘に収める。
「ありがとうございます」
『良いってことよ。これからも僕を頼ってくれよ!』
「なかなか厄介な魔術でしたね」
.............
『うん。物体を認識出来なくする魔術、なんて久しぶりに見たよ』
あの魔術は、「人物Aに干渉して、物体Bを見えなくする」というもの。
つまり私にだけあの宝石を見えなくする。そうと分かれば対策は簡単。
.............
私以外の目を用意すればいい。
『確かに、僕の目、いや感覚というべきかな。それを利用するのはナイスなアイデアだったよ。でも、どうして分かったんだい?』
「あの男の魔術がもし複数人に効くものなら、注意を向けるために仲間を雇ったりしない。だからあのようなピエロ行為をさせている時点で、この男の魔術は1人にしか効かないって分かったんです」
フフッと微笑む。『相変わらずよく見てるね〜』とフィルヒナートが軽口を叩く。
「さて、残りの敵も――」
立ち上がろうとしたそのとき、奥でパシュッ! と言う音とともに黒い煙が上がる。
「あれは……“M W,C T D“、ですか。ということはアザミですね。魔術を使うのがダメでも魔法ならOkというわけでは無いのですよ」
『マイエンジェル。君さっき“魔術はダメでも聖剣なら”みたいなこと言って――』
「ありがとうございましたおやすみなさいではこれで」
フィルヒナートが言い終わらないうちに聖剣をパッと消す。実際には別空間に預けているだけなんだけど。
ふぅ、と息を付く。ダッダッダッと足音を立ててアザミたちがこちらに走ってくる。
「だ、大丈夫ですか? 避難を――」
アザミはまだ私に気づいていないみたいだ。優しい表情で私に手を差し出す。
むっ、魔王の助けが無くたって、、、、
「大丈夫です。1人で立てますから――」
そう言って足に力を入れる。途端、電撃をくらったかのようにズキッと足首が痛む。
「イテッ!」
足首を擦る。腫れているのが触感で分かる。
慣れない靴で無理に動いたり、変な体勢になったりしたのが災いしましたか……
「捻挫してるな。エイド、回復魔術なら使っても――」
「うん。攻撃性を伴わない魔術なら良いって先生が――」
「ちょーっと待って」
前に出ようとしたエイドをシャーロットがグッと捕まえて自分の方に引き寄せ、何かヒソヒソ話をしている。エイドの顔が赤らんでいる。なにか嫌な予感がする……
「あ、アザミくん? やっぱり魔術で治すよりお医者さんにみてもらったほうが良いかも……。ってことで、その子を連れて行ってあげて」
「「は!?」」
私とアザミが同時に声を上げる。そんな、まさか……
シャーロットの方をちらっと見る。彼女はプッと吹き出しそうな顔でサムズアップ。どうやら私がシトラだということにも気づいているようだ。なんでこの状況を面白がっているんですか。
「と、いうことでアザミ。任せたわよ。その子のこと、責任持って送り届けなさい」
「はぁ。分かったよ」
アザミが諦めたようにため息をつく。そして私の背中と足に手を回して持ち上げる。
「よいしょっと」
「っつ……!?!?」
フワッと体が浮かび上がる。アザミの顔が目と鼻の先にある。顔が赤くなっていくのを感じる。
「(これって、、お姫様抱っこ?)」
アザミが私を抱きかかえたまま階段に向かって歩きだす。
空はもう赤色に薄らんでいた。
この小説を見つけてくださったあなたに感謝します。
是非コメントや評価のほうもよろしくおねがいします。励みになります!
「続きが気になる!」と少しでも思ってくださった方はブックマークもくださると本当に嬉しいです!!




