32話(2) 決勝戦(3) ~それぞれの敵~
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「なにか、来るよっ……!!」
それはアザミ達が出ていってから少ししてからのこと。つまり、少し物語の時間は巻き戻る。
城壁の隙間から外を見ていたダグラスは、ふとそんなことを口にした。ざわッとその言葉に走る動揺。
「なんかって……あるとすりゃ敵しかいねェだろ? どれだよ」
グリム・カイエンはダグラスの頭のをグイッと押さえ、その上から外を見やった。だが、何も見えない。その視界には迫るモノなんて何も映らなかった。
「なんだよ、誰もいねェじゃ―――」
肩をすくめ、ハンッと笑って気を抜きかけた―――それを許さぬように、
「上だよ!!!!」
鋭いエイドの叫びが二人に響いた。その言葉と同時に、二人の足元が暗くなる。
(影ッーーー!)
それを考えるよりも速く、咄嗟に体が反応した。グリムはダグラスの体を抱えて横に跳ぶ。
それがあと一瞬でも遅れていたら危なかっただろう。
ザシュ!! と音を立てて、二人がいた場所へとナイフが投げられたのだから。さっきまで二人が立っていた場所に深く突き刺さるそれに、恐らく今頃貫かれて……
「チッ、避けないでよね」
「いや、誰が自分から死にに行くかよ……」
ふぅーッと息を吐き出し、グリムはその来襲者を睨みつけた。
「そのナイフ……確か火ノ小太刀だったな。ってことはお前がフレイアか!!」
グリムは地面に突き刺さったナイフをチラリと見る。前回の戦いで見覚えがあった。そして、その使い手である少女のことも知っている。
フレイアは舌を出して「せいか〜い」と右手の親指を立てる。そして、立てたそれをグイッと地面に向けた。
「じゃ、私の目的は言わなくても分かるよね?」
「俺達の王様を殺すこと、だろ? ハハッ、そうすりゃお前らの勝ちだもんな」
「まあね。てことで、誰が王様なのか教えてくれないかな?」
少し背中を曲げ、見上げるような姿勢でフレイアがグリムにお願いする。
「……断ったら?」
「その時はね……みーんな、殺しちゃおっか! そうすれば誰が王様でも関係ないじゃんね?」
満面の笑みでフレイアはそう答えた。ああ、考えるまでもない。誰が王様なんて問答をする暇があれば皆殺しにすればいいのだ。そうすれば、いつか正解の王様にあたるのだから。それでいい。
―――ま、分かっちゃいたけどよォ
少し後ろに左足を引き、右手を前に出す。交渉は決裂だ。皆殺しだなんてまさか許容できるはずがない。
そんなグリムの反応、そしてAクラスの面々が見せている警戒の色だって、フレイアからしても織り込み済みだ。彼女の右手で真っ赤な指輪が光を反射してキラリと輝く。
「1,2,3……全部で13人、か。ちょっと遊ぶんじゃ厳しそうだし、初手から全力で行くわね」
そう言ってフレイアが右手を空に突き上げる。それはまるで開戦の合図みたい。
「開眼せよ、魔装展開!!」
真っ赤な光がフレイアの周りをぐるぐると周り、軍服のような迷彩柄の衣装を作り上げる。
「……魔装術師の衣装って、自分で決められるんだっけか?」
「もちろん。だって自分の魔力で作り出してるんだもの。たいていはお気に入りだったりやる気の出る衣装にすることが多いけどね」
「そっか。じゃー、まっ。やりますか!」
ボキボキと首をならし、屈伸運動なんてやっていたグリム。聞いておきながら衣装のことなんて全く頓着なんてなさそうだ。
その警戒、そして数を考えても、いくらフレイアがS1クラスの選ばれた強者であったって余裕綽々では居られない。苦労はするだろう。が、負けはしない。時間はかかるが、この数‟程度”じゃ皆殺しだって十分にできると。
(まずはそのためにも、この男を倒さないとね。見たところここの守りのエースはこの赤髪みたいだしっ!)
フレイアは強い。だからこそ、強者の匂いというものは知っているつもりだった。それを一番色濃く醸し出しているトーチを最も警戒するのは、決して間違いじゃない。
トーチの構え、戦闘態勢。さあ、一体どんな攻撃を仕掛けて―――
「はい、どーーん!!」
ふざけた声とともに、小さく赤い閃光がフレイアに向かって放たれる。
警戒、強者、緊張。そんなものがガラガラとフレイアの中から一挙に崩れ落ちた。だって呆れてしまうくらい、その腑抜けた詠唱は馬鹿馬鹿しいを極めていたから。
「これはっ―――!」
けれど、呆れなんて感情を浮かべられたのは一瞬のみだった。次の瞬間、ドカーン!! と轟音をあげて爆発による炎と熱風がフレイアを襲ったから。
その爆炎の中からサッと飛び出すフレイア。回避は間に合った。だが、その表情からは先程までの余裕は消えていた。気の抜けた詠唱からは考えられないこの威力……。
「今のって、まさか爆炎術―――」
「どーーん!」
フレイアはそのまさかに目を見開いた。その視界でグリムはいたずらっぽい笑みを浮かべながら、容赦なく続けざまに魔術を撃ち込む。
先ほどと同じく真っ赤な炎が上がり、黒煙が立ち昇る。だが、
「チッ……、流石に速いな。これじゃァ仕留めらんねェか」
フレイアはグリムの術を回避し、後ろに数歩下がる。警戒して、備えていれば回避ぐらいなら容易い。
いいや、違う。回避するしか出来なかったのだ。
「君、どうして……っ爆炎術をそんなに速く撃てるの?」
「別にィ、テメェに教えてやる義理はねェよ。あと、おしゃべりするヨユーはあるのかなァ?」
フレイアの目の端に、自分めがけて右手をかざすダグラスの姿が映った。
「っつ!!」
敵はグリムだけじゃない。防衛なのだから、単騎で乗り込んだフレイアとは違い、グリムは何も一人だけでどうにかしなくてもいいのだ。
ダグラスがブツブツと何かをつぶやく。するとビュゥと風が吹き、フレイアに襲いかかった。
(風魔術! ただの風魔術なんてどうってことないわ! いいや、それよりもあいつの爆炎術は一体何事!? あまりにも‟速すぎる”! あれは大規模な術式と魔力を必要とするはずよね? なのに、あの赤髪は……それをいとも容易く……。いやいや、まさか連射なんて出来る魔術じゃないんだって!!)
ダグラスの攻撃を軽くあしらった彼女は、ギリッと歯ぎしりをしてグリムの方を睨む。
フレイアの頭の中で、少し前のトーチの言葉が思い出されていた。
『A組は、未完成の歯車の集まりかもしれない』
そういうことか、と。彼女は「ふぅ」と息を吐き出す。
「未完成、ねえ」
その言葉を一度は有り得ないと笑ったけれど、こうして実際に目にしたら……いやでも信じるしか無かった。




